3-26 幸運
「助けて頂いてありがとうございます! それとハルカさん……俺を弟子にしてくれませんか!?」
「え、えと……とりあえずラノン君? を安全な町まで運ぼうか。名前は……」
「ジェミリオです!!」
「そっか、ジェミリオ君ね」
終始彼の勢いに押されながらも、とりあえず全員でイル・レーヴェまで引き返すことにした。
ジェミリオ達の話を聞いているとわかった事だがジェミリオ、ラノン、カトルの三人は全員十六歳だそうだ。
ダイドルン帝国出身の準帝国民らしいが、自分達の町では傭兵ギルドとしての仕事があまり無いらしい。農産業だけで彼らにとっては退屈だったとか。
だが南側諸国まで逃げる金も無かった所で、最近オーガの大量発生で稼げるという噂を聞いてレーヴェまで移動してきたということだ。
「そっかー、じゃあみんな僕よりも年上なんだねぇ」
「あれ、カケロスって何歳だっけ?」
そういえばカケロスの年齢を聞いたことがなかったことを考えて聴いてみると、彼は少しだけ考える素振りを見せる。
「確か……少し前に十四歳になったんだったかな? あんまり気にした事ないや」
そんな他愛のない会話をしていると、いつの間にか町の門が見えていた。
いつもの門兵さんが大人数で帰ってきた俺を見て驚いていたが、軽く会釈をして通り過ぎる。
するとジェミリオが改まった様子で口を開いた。
「俺達は一度ラノンを診療所まで連れて行きます。直ぐに改めて挨拶しに行くのでギルドとかで待っていて下さい!」
「助けて頂き、ありがとうございます」
彼に続いてカトルも、その綺麗なブロンドの髪を揺らして頭を下げてくる。
「本当に気にしないで、偶然のことだったから」
あくまでも偶然という部分を強調して言ったが、彼らの表情を見ていると凄く恩を感じてくれている様だ。
「良い子たちなんだけどなぁ……」
だが俺とリナリアは傭兵ギルドでも目立ちすぎているだけに、関わると彼らも何か言われるのではないだろうか。
そんな不安もあって微妙な表情をしながら、去っていく彼らの背を見つめていた。
すると残されたカケロスが少し前と同じ様な問いをしてくる。
「ねぇハルカ、本当に帰らないの?」
「あーまあ用事が済めば一か月くらい後のバスノーク商隊に乗せてもらうつもりではあるけど……」
「そっか、帰る手段があまり無いんだねぇ。僕たちは運が良かっただけだからなぁ」
頷いて答えた彼の言葉に含まれた『僕たち』という言葉が気になった。
「え、カケロスの他にもここに来てるの?」
すると俺が問いかけた言葉の意味を直ぐに理解した様子で彼は続ける。
「レウスとエルピネは来てるよ、でもダイドルン帝国内の違う町に行ってると思う」
彼が言うには、一緒に来ていたのだが手分けして俺の情報を集めた方が良いだろうという話になったので途中で別れたそうだ。
「もう途中で南側に移住したいっていう難民の行列とぶつかって大変だったんだよぉ……まあ同盟で受け入れるって言っちゃったから仕方ないけどね」
カケロスが言うには、行列の中でも足に鉄の枷を付けている者達も多かったそうだ。おそらくはこの町にもいた奴隷なのだろう。
町を歩きながら話していると、賑やかな人々の様子を見てとてもそんな光景は想像できなかった。
「でもこの町の人達は平和だねぇ……とても最前線に近いとは思えないや」
イル・レーヴェで普通に生活しているのは準国民で他の町から移り住んで来たのが殆どだとリナリアが言っていた事を思い出す。
つまり魔王の勢力圏に近いと言えども、この町で生活している人達は戦争を経験したことがないと言うことだ。
どこの世界でも、やはり自分が実際に経験しないと避難しようという考えにはならないのだろう。
「そう言えば、別々の町に行ったって言ってたけど……どうやって合流するつもりだったんだ?」
ふと湧いて出たそんな疑問を聞いてみると、カケロスは少しだけ考える間を置いてから答えた。
「二か月後に一度マグダートに戻って報告しようって決めたんだ」
連絡手段が無いため、出発前にそんな取り決めをしたらしい。
「二か月後か……それなら次の商隊に乗せてもらえれば間に合いそうだな」
全員が無事であることがわかったことへの安堵から出た息を吐くと、カケロスがはっとした様子で聞いてくる。
「そういえば、ここの用事って何かあるの?」
どうやら先程の俺の言葉を思い出したらしく、彼は小さく首を傾げて言った。
俺は何処までの内容を話して良いのかをまだ迷っていた。
リナリアの存在なしではこの町に来てからの事も説明がつかないし、かといって彼女の事情を全て話すというのも
だが彼の祖父がイゴスであることを考えると、もしかしたら何か手掛かりになる事をを知っているのではという考えもあった。
少しの間だけ黙ってしまったが、大まかにだが全て話すことにする。
「実は……」
俺が流されてきたこの町で、初めに会ったリナリアという女性に助けられたこと。
彼女はその身体の魔力体質から周囲を寄せ付けず、魔女とい呼ばれていること。
そしてもしかすると彼女の病気とも呼べるその体質は治すことが出来るかもしれない十将の『イクス』という女性を探さなければいけないということ。
俺が話す言葉を相槌を打ちながら聞いていたカケロスだったが、『イクス』という名前を聞いたところで歩く足を止めた。
「イクス……? もしかして、『イオナ』のことかい?」
「えっ?」
何か心当たりでもあるのだろうかと聞こうとした時、カケロスの瞳が大きく見開かれた。
「あーっ! やっぱりそうだ、イオナのことだよ!」
突然の大きな声に町を歩く周囲の人も振り返っていたが、お構いなしに彼は続ける。
「確かイオナの名前が『イオナ・イクス』だったんだよ。いっつも名前の方で呼んでたから直ぐ気付かなかったぁ」
彼の口振りからすると、イオナが名でイクスが姓ということだろうか。
というよりも、フルネームがあるならば初めから教えておいて欲しい。
そんな恨み言を中にいる筈のアストに向けて送りながらも、カケロスに面識があるのかと聞いてみる。
「そのイオナ……さんと会ったことがあるのか?」
するとカケロスは持ち前の愛嬌を振りまく笑顔のまま頷いて答えた。
「昔おじいちゃんが身体を悪くした時によく来てもらってたんだ! それと確か……」
考え込むように眉に力を入れる彼は、たっぷり数秒間唸ったあとに表情を戻して口を開く。
「うん、たぶんイオナが住んでる場所はわかるよ!」
突然の再会になった少年は、どうやら目の前に幸運を運んできてくれた様だった。
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