第30話 カルラの相談とモフ子の決断 後編
「先日はご迷惑をおかけした。本来このような形で押しかけていい立場でないことは重々承知しているのだが」
とりあえずパニックを起こしかけていたカルラをガー様の冷蔵庫に押し込み、モフ子を神域へ迎え入れた。
そすると開口一番、このモフモフは礼儀正しく頭を下げた。
「ほんとだぞ、非常識な」
「お前には言ってないからな、人間」
低くウーって威嚇された。なんでや。
「なんだよ冗談じゃん。オレとお前の仲だろう」
「いつお前とそんな仲になった!? ――というか、なんで焦げてるんだお前は」
お前さんの相方が驚いてまた火ぃ吹きやがったからだよ!!
――だが、ここで突っ込むわけにはいかない。オレは無理にでも笑顔を作った。
「気にすんな! オレにとってはよくあることさ!」
「……まぁ、お前の私生活にどうこう言うつもりはないが」
心底どうでもいいとでもいうような目で見られた。笑顔を返せ!
「で、相談ってのは何なんだよ?」
大体察しはつくのだが、一応聞いておかんとな。
「……念を押しておくが、お前に相談したくてきたわけではないからな」
と、そこでモフ子は溜息を吐く。
「しかし、他に相談できる相手もいない……」
「なにがあったのですか」
取り澄ました感じでガー様が問う。とりあえず、真面目に仕事してるガー様の顔好き♡
「どうも、上役が以前のことを気にされているようなのです。誰とも合わずに一人で過ごされているらしいときいて」
だいたい予想どおりだが、誰ともってのは初耳だな。
「別にお前さん以外にも友達くらいいるんじゃねーの? アイツかなり偉いんだろ?」
「……うむ。血筋も実力も抜きんでていると言っていい。しかしというか、だからこそというか、あまり他人とは馴れ合おうとされぬ気質と言うか……」
「要するに、性格がアレ過ぎてボッチなんだなアイツ」
すると、物陰から何かが動く音がした。
「なんだ? なにかいるのか?」
「あ、いえ……そこはただの冷蔵庫で」
「冷蔵庫に何か生き物を!?」
口を滑らせたガー様の言葉にモフ子が食いつく。相変わらず隠し事がへたくそだなこの女神。
「気にすんな。捕まえている悪魔を拷問してるだけだ。で、あいつはもともとボッチだったってことでOK」
「ごうも!? …………ま、まぁ言葉はあれだがそういうことだ」
オレがそういうと、モフ子はガー様から視線をそらしつつうなづいた。
ガー様が拷問好きの変態女神だと思われたかも知らんが、まぁ必要経費だろう。
「ただ、上役も好んでそうなっているわけではない。つらい思いをしておられるのでは、と」
モフ子がしっぽと耳を伏せながらそんなことをいう。
一方、ガー様はオレをにらみつけてくる。
でもね? あんたがうかつなこと言うからですよ? あと、実際神って拷問じみたことしてくるじゃない?
「ふーん。そんで、モフ子はどうしたいんだよ?」
「誰がモフ子だ!」
「いーから! で? お前さんとしてはどうしたいんだよ?」
すると見えない冷蔵庫の扉の向こうで、また何かがガタッと動く音が聞こえた。うひひ……もだえてるもだえてる。
「できれば、元の様な関係になりたいと思っている。……というかその中の悪魔とやらが暴れてるようなんだが」
「気にすんな。拷問の一環だ。でもさ、周りからはぶられてんのってアイツの性格のせいだろ? お前がそんなことまで世話する必要あんの?」
「そうだな。ただでさえ破格の力を持つお方だ。皆こわがっている。……だが、私はむしろ周囲があの方の力にばかり恐れおののくからなのだと思う」
「フム?」
「以前のことも、あれは私のことを案じるがあまりのことだったと思う。行き過ぎてしまうこともあるが、自分のことしか考えていないような方ではない」
ふぅーん。あいつが迷惑だからって相談しに来たのかと思ったら、そうでもないんだな。
「てっきり、誰か他のお偉いさんにでも言われてきたのかと思ったぜ。お守りをしろってさ」
忌憚のない意見を述べると、ガー様が後ろから無言でひっぱたいてきた。フハハ、効かんな!
「いや、むしろ
そういや、お偉方をまとめてぶん殴ったとか言ってたなあの鳥女。まさしく孤立無援なわけだ。
「ほーん。それでも、来たんだ?」
「そうだ」
モフ子は顔を上げた。その顔に迷いは見られない。
凛々しい居住まいはシベリアンハスキーのようだ。カワイイね♡
「……珍妙な顔でこっちを見るな」
いい子いい子してあげたいんだが、ダメかな?
「いいから進めてください」
ガー様にも怒られる。
――ちっ! 仕方がない。進めよう。
「んじゃあ、手伝おうか。やっぱ同性同士でっていうのがダメなんだよな?」
「うむ。私は同性同士の、……その、そういうものがよくわからないし、何より」
ちなみに、今度はガー様が何かを言いたそうにしているが、オレはこれを視線で制する。
今アガペーがどうとか言うとこじゃねーから!
「何より……上役はなにかというと、その、あの炎を吐いてしまわれるので、正直恐ろしいのだ」
うん知ってる。さっき見たからね。
「そ、そんなになのですか?」
ガー様が引きつりながら問うと、モフ子はへにゃりと肩を落とす。
「事あるごとに出てしまうようで……。あの、もらいゲロですら2万度と言われるあの方と、こう密接にむつみあうというのは、好き嫌い以前に恐ろしくて……」
だれが測ったんだその温度。もはやプラズマ化してんじゃねーかよ!
つーかそんな危険生物、なんで野放しにしてんだよ!
「じゃあ問題点は二つだな。性別とあの炎。それをクリアすればいい、と」
まぁ、話が進まんので過去のことについては問わんこととしよう。
大事なのは未来の話だ。
「そうは言ってもな……。だいたい、上役ご本人に話も通さず何かするわけにもいくまい」
「その点については大丈夫だ! ――おーい、聞いての通りだ。出てきていいぞぉい」
カモン! レッドバード!! オレは冷蔵庫のドアを開ける。すると中からカルラが出てきた。
「う……上役!? なんで」
「わ、わだし、頑張る。男にだってなるし、炎も二度と吐けなくなってもいい!」
顔をくしゃくしゃにしていたカルラはモフ子に飛びついた。
「う、上役……?」
「だから、……だから一緒に居たいよぉ」
「…………はい。私もです」
いったんは驚愕していたモフ子も、そういって、泣きじゃくるカルラを抱き返した。
いい話だなぁ。あとモフモフしてんのがうらやましい。
……それと、何とかこう、あの四つのおっぱいの間に割り込めないものだろうか?
「バカなこと考えてるんじゃありません!」
「グワーッ! ……ま、まーさっさとすましちまいましょうかね」
「……ですが、彼女の炎を封じるなど私の力ではまず無理です。あなただって」
「いやいや、アレあるじゃないですか」
「アレ?」
「そうそう。えーと前に……そう。マスターボールですよマスターボール!」
「ああ!」
オレとガー様のやり取りをカルラとモフ子は何事かと見ている。
アレとは、以前に対悪魔用に用立ててもらったという封印アイテムだ。(第10話参照)
三つあった内、一つは使っちまったからあと二つ残っていたはず。
「これなら『金色の
その後、もろもろの事情を聞いたモフ子は、こんなことを言い出した。
「ならば、男になるのは私が引き受けよう」
「ええー!?」
カルラが声を上げる。
「いいのかよ?」
「上役だけに労苦を背負わせるのは違うと思う。私もできることをしたい」
すでに男前だなお前。
「上役は、それでよろしいですか」
「は、はい!」
いったんは驚愕したカルラも、表情を引き締める。
「私が好きなのはあなたです! 男でも女でも変わりません」
「……はい」
そういって二人は見つめ合い、そして照れ臭そうに視線をそらした。
お前ら、言っとくけどここ人の家だからな?
「まーいいか。んじゃ、ガー様封印の方たのみます」
「わかりました」
「さて、本当にいいんだな?」
オレもモフ子に向き合う。
「やってくれ」
「イヤーッ!」
オレはシャウトと共にスキルを使用! モフ子の性別が反転したぞ!
「――どうです?」
「――ほ、本当に炎が出ない!」
向こうも成功したようだな。
「……終わったのか?」
モフ子が不思議そうに聞いてくる。
「おうよ」
「しかしもっとこう、……身体が大きくなったりしないのか?」
確かに。今のところ外見上の変化がない。モフ子の体はきゃしゃなままだ。
しかしそれでいいのだ。
「うん。出来るけどしないよ?」
スキルがカンストしていると言っただろう! 細かい調整もお手の物さ!
「しない!? ――なんで!?」
なんでってあなた。
「その方が可愛いからだよ!」
あたりまえだろ。言わせんなよ恥ずかしい。
「だから、人を愛玩動物みたいに扱うな! ――やりなお」
言ってモフ子は怒るが、それを背後からカルラが抱きしめた。
「わふぅ!?」
「私も、私も可愛いままがいいです♡」
「う、上役……あの、その」
「どうかしましたか? 何か異常が!?」
「いえその、なんだか妙にドキドキして……」
そりゃあ、そんだけおっぱいに密着したらそうなるわな。すでに本能が反応しているということだろう。
「ふむふむ、経過は良好。問題なくちゃんと男になってるな。まぁ、変化には二三日で慣れるだろう。不具合が有ったらオレに連絡してくれ」
「――では、帰ります! 帰って仲直りしますんで!」
モフ子、いやモフ夫を軽々と抱き上げ、カルラはビシッと敬礼した。
「一晩かけての仲直りです! だってもう、なんの障害もないんですから!」
「えええええ!?」
抱きかかえられたモフ夫は驚愕するが、カルラは構わず深紅の翼を広げた。
「いざ!」
「ちょっと! ちょっと待ってください上役――――」
そしてそのままテイクオフし。凄まじい速度で飛んで行ってしまった。
うむうむ。今夜はお熱いことになりそうですな。
「いやー、良いことしたなぁ」
「……本当によかったんでしょうか?」
それを決めるのはオレ達じゃない。あの二人さ。
「そんな適当な」
いいから。
「そんな」
いいから!
完
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