第31話 脅威! 言語収奪ツルハシオノ!!


 いつもの神域へ続く道。


 実はここ、見つけにくい横道があり、そこに入ると商店街に行けるのである。


 意外だよね。


 今日は特に土産も用意できなかったので、またファミチキでも買っていこうかとその横道に入った。


 すると、見たことのある女を見つけた。


 何やら抱えてニコニコしながら歩ている。


「おぅカサ子じゃねーの。何してんの?」


「きゃあ! ……び、びっくりしたぁ」


 なんだかリアクションが過剰だな。


 ――なにかある。オレの直感がそう告げていた。


「なんか買ったのぉ」


「なななんでもないよ!? ほんとに大したものじゃないから」


「ほーん? ――見せろや」


 カサ子が抱えていたブツをスティールする。


「あー!! 返してぇ」


 無駄な抵抗はやめておけ。オレのスティールのスキルはカンストしているのだ。 


「!! ――お、おま! これは!!」


 オレは驚愕した。それは全長30センチはあろうかという十字手裏剣であったのだ!


「つまり、プレゼントか!」


「そ、それは何とも言えないっていうか。誰にとかも言えないっていうか」


 いや、他にいねーだろ。あのニンジャだろどーせ。


「まぁ、今更だからそこは別にいいんだけどさ……」


 つーか、そもそもこれが何する道具なのかって知ってんのかなこの娘?


「……?」


 カサ子は小首をかしげている。


 ……多分そこまで考えが回ってねぇんだろうなぁ。


 まぁいい。わざわざ言うようなことでもないしな。


「交際は順調みたいですなぁ。まぁ話してみろ。名実ともに恋のキューピットと化しつつあるオレがアドバイスしよう」


「……えー、いいよぉ」


 不信の目を向けられた。ショック!


「いやっマジでマジで! この前も鳥とワンコのカップル成立させたしさぁ。オレに任せとけって」


 しかし、そこで何やら穏やかでない騒音が聞こえてきた。


「なにごとだ!」


「い、行ってみる?」


 オレはカサ子とともに現場へ向かった。


 そこで見たものとは!


「どけどけどけどけー」


「うきゃー♪」


「オラオラ―(棒)」


「テロか!?」


 商店街の一角が何者かに破壊されていたのだ! 


 誰だ―、こんなことするのはぁ(怒)


「あらごきげんよう。そうよテロなの。今日は『テロの日』だから」


 テロリストは見知った相手だった。


 そう、ターコイズブルーの悪魔ちゃんである。(他二名)


 てか「テロの日」ってなんだよ。


「悪魔ちゃん!? やめるんだ! ――あと、その祝日決めたヤツの名前と住所教えてくれる?」


「それはできないわ。これは悪魔の文化的活動なので、邪魔をするとヘイトとみなされるわよ!」


 テロに対抗しようとするとヘイトになるっておかしくない?


「それが悪魔というものよ」


「うきゃきゃー♪」


 その間にも妹ちゃんが大破壊を繰り返している。このままでは商店街がシャッター街になっちまう!!


 なんてピンチなんだ。それはつまり、オレの出番ということだな!(確信)


「ちょっとがすぎるなお嬢さんたち。ここはオレの関西弁が火を噴くぜ?」


 噴くぜ噴くぜェ~。


「「ピィ!?」」


「笑止! 浅はかですねマイフレンド。この私がそれに対して何の対策もしていないとお思いですか!?」


 姉妹たちはひるんだが、ピーちゃんは不敵に笑う(無表情)


「ピーちゃんも久しぶり! ――って、そ、それはまさか!!」


 すると幼女たちはいっせいに手にしていたモノを掲げた。


「ええ……? なにあれ? こわい」


「一緒のマジックアイテムだ。その名も『言語収奪ツルハシオノ』!」


「余計コワい! なんなのぉ?」


「うむ。かつて貴族だけが魔法を使える世界があった。そこで下層階級民たちが決起するときに使用した道具だ」


 あれを使うことで、相手の言語を一時的に奪うことが出来る。


 つまりあれを使われると、今から言おうとしていた言葉をしたみたいになるのだ。


「言語をしてしてまえば、魔法を詠唱することも出来ない!」


 後は魔法を使えなくなった相手を物理でタコなぐりにすればいいという、おそるべき対魔法アイテムなのだ!


「ちなみに、あれよりも前に「言語封殺ツルハシ」ってのものあったんだけど、『封殺』だけだと無詠唱呪文で対応されるから、バージョンアップしてああいう形になったらしい」


「それで斧がついちゃうんだ……」


 うん。なんかね、技術的なアレでね。


「とにかく! あんなものを出されては、オレは無力だ――すまない」


「わ、わかった。私が何とかするね!」


 わかったのかよ。素直かお前。


 カサ子は無謀にもテロリスト達に接触をはかる。むちゃだ!


「や、やめてね? そんなことしないで?」


「うぉー♪」


「あうぅ……危ないからしまってねぇ」


「うぉー♪」


 残念ながらテロリストは耳を貸さない。対話って無力なんだなと思わされる光景だ。


「隙ありぃ!」


「あぁーッ」


 その上、カサ子はとうとう拘束されてしまった。


 ほんと口ほどにもねぇなこの神。


 でもこの流れだとニンジャ出てこねぇか? やべぇよ? 全員スレイされる気がすんだけど? なぜかオレもふくめて。


「うぅ……こわいぃ。こんなことしてどうする気なのぉ」


 左右から姉妹にぎゅっとされたカサ子は正面に回ったピーちゃんに問いかける。


「愚問ですね。私の目的は、最初からこれです!」


 言って、ピーちゃんは拘束されたカサ子のおっぱいにダイブ!


 やはりそれか! 最初から最後までこの幼女の目的は一つなのだ! 


 知ってたけど!


「むぉぉ。悪くない……悪くないですよ……。アナタ着やせするタイプですね。ふかふかおっぱい……まるで雲の上にいるような」


 もむだけではなく顔を埋めてぱふぱふ状態のピーちゃんだが、対してカサ子は悲鳴も上げず泣き出しもしなかった。


 あれ、意外と平気そうな顔してんな?


「いいの? おっぱいもまれてるけど」


「うん。これくらいなら別にいいよぉ、女の子だし」


 カサ子は普通に笑顔だ。むしろ、自分の胸の中にいるピーちゃんを抱きかかえ優しくなでている。


「よしよし」


 マジかよ。今度女の子になってお願いしてみよ。

 

「あらら、捕まっちゃったわ」


「ねーさま、つまんない」


「そうね。テロってリアクションないとつまんないわね」


 つまる/つまらない、のハナシではないのだが、まぁ、つまらないことだと思ってもらえるならこのままでいいか。


「じゃあもう帰りましょうか。ねぇ、なんか買って♡」


「買ってー♡」


 ハハハなんだよもぉー、さてはおじさんの財布が目当てだなキミたちー。


 あーつれー。美幼女にたかられんのまじつれーわー。誰か変わってほしいわ―。


 スヤァ……。


 思ってもないことを呟いていると、なにやら寝息が聞こえた

 

「あ、寝ちゃった」


 ピーちゃんはカサ子の胸の中で眠りについていた。


 うーむ、しょせんは幼女か。


 我々にとっておっぱいは始まりに過ぎないが、ピーちゃんについてはおっぱいはゴールなんだよなぁ。


「じゃあ、お昼寝しようね」


 というと、カサ子は自分のスカートのあたりについていたぽわぽわを取ると、その辺に転がした。


 すると、その真っ白いぽわぽわはむくむくと巨大化し、見る間に一軒家くらいの大きさになった。


「よいっしょっと」


 カサ子はスヤァ……しているピーちゃんを抱きかかえて、その雲の家のような物の中に入った。


 そこには子供が10人は寝られそうなドでかいベッドがあった。 

 

 カサ子がそこにピーちゃんを置くと、その体はするりと雲の中に吸い込まれてしまった。


 頭だけ出して雲の布団にくるまっているような感じだ。


 見るからに心地よさそうである。 


 やたらとファンシーだが、何気にすごいことをしてくれる。カサ子が神っぽいことしてんの初めてみた。


「しかしすげぇベッドだな。マジでふっかふか」


「ダメよ! 危険だわ。寝たら最後、捕まってしまうわ」


 お、そうだな。


「じゃあピーちゃんはどうする?」


「あれは置いといていいわ。私たちは逃げるのよ! ファミマ行くわよファミマ!」


 君も好きだねぇファミマ。まぁ、妹ちゃんも喜ぶだろうし……って、アレ?


「妹ちゃんは?」


「あー!?」


 悪魔ちゃんが声を上げた。


 スヤァ……×2。


 気が付いた時には遅かった。


 妹ちゃんはピーちゃんのとなりですでにスヤァ……していた。


 まー、この子はそうだよね。そうじゃなくてもすぐ寝ちゃうし。


「助けなきゃ!」


「ダメだ悪魔ちゃん、もう遅い! 逃げるんだ!」


「ダメよ! 妹を置いてはいけないわ!」


 悪魔ちゃんはオレの手を振り切り、雲のベッドに飛び込んだ。


「戻るんだ悪魔ちゃん! ――悪魔ちゃーーーーーん!!」


 ちゃーーーん。


 ーーーーん。


 ーーん。



 スヤァ……×3。



 はい、寝たぁぁぁぁ!!



 だろうと思ったよ。


 テログループはみな仲良くご就寝しました。


 そろって幸せそうな顔しやがって……。


 しかし、意外にやるなぁカサ子。


 結局三人とも捕まえちまったよ。


 まぁニンジャが出てこなくてオレとしては良かったけど……。


「わぁー、みんなおねむだね。いっしょにお昼寝するのってなんだか楽しいよね。……なんだか私もお昼寝したくzzzzz」


 って、本人も寝たぁーー!?


 なぜかテロリストを捕縛したはずのカサ子もまた雲のベッドに埋まり、幸せそうに寝てしまった。


「捕まえたんじゃなくて、ほんとに寝かしつけただけなのォ!?」



 スヤァ……×4。



 問いに答える者はない。全員寝てる。


 なんだこの状況は……。


「…………」


 一人取り残されたオレはふっかふかの雲に触る。確かにいいベッドだ。夢の寝具だよな。思わず寝たくなるのもわかるというか……。


 そして、オレは何も言わずに雲の中にもぐりこんだ。


 おやすみー。



 スヤァ……×5。






 完

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