第28話 女神さまはジャングル転生がお気に召さない
「……ところで、前回の転生についてなのですが」
毎度おなじみの神域である。
ガー様と二人、お土産をつまみながら次の転生の打ち合わせをする。
穏やかな時間だ。あー、落ち着くわぁ。最近はこういう時間もなかなかなかったからなぁ。
「なんか問題ありました?」
だというのに、この女神はどうにも顔色が優れない。せっかく二人きりだって言うのにねぇ?
もうちょっとこう……いやらしい話とかしようぜ?
「……また転生先で悪魔との接触が有りましたね? 気を付けてもらわないと困ります」
「あー、そうそう。なんか『簡単に強くなれる~』みたいなハナシがあってさ、試しに召喚してみたんだよね」
「なんでそんなバカなことを……」
「いや、心配はご無用ですよ。なーんか出てきた悪魔がうさんくさいヤローだったんで、念のために悪魔ちゃんを呼んで話を聞いてみたんですよ。したらクソみてぇなサギ犯だっていうじゃないですか。だから、その後二人で力を合わせてぶっ潰したんですよ!」
だから大丈夫♡ というオレに、しかしガー様は目をとんがらせる。
「だから、悪魔の力を借りないでと言ってるじゃないですか!」
何を言っているんだ?
「いや、だからね? すんでのところで悪魔に騙されなくて済んだという話をね?」
「そっちの悪魔じゃないです!」
「よくわからんな? どゆこと?」
「……もういいです」
「うん。じゃあ次の転生についてのリクエストなんですけど」
「……」
「な、なんでそんなに不満そうな顔するんですか?」
もういいって言ったじゃん!
「そのうち痛い目に合いますからね……」
なんだろうなぁ。そんなに悪魔ちゃんたちを邪険にしなくてもよかろうに。
「大丈夫! もう、だいぶ痛い目には合ってますから! いまさらですよ、いまさらぁ! ハッハッハ!!」
「……なんで笑ってられるんですか?」
泣いても得られるものがねぇからだよ!
「ぞれよりぃ、リ゛グエストなんでずけどぉ!」
いいから聞いて! オレの涙がこぼれてしまう前に!!
「……わかりました。取りあえず、今は先の話をしましょう」
「なんかこう、山ごもり的な事をしたいんですよ」
「世間の流行とは真逆の要求ですね……。ですが前にも似たような理由でジャングル転生したでしょう?」
そうなんだよねぇ。
「ただジャングル行っても、いまいちレベルアップに成んないんですよね。なんかこう、もっと過酷な環境に身を置かないとダメかなと思いまして」
「あるにはありますね。――高温。高気圧。高重力。さらに、その環境ではぐくまれた生態系が待ち受ける、極限の世界……」
うおお!? まじですか!
「っしゃあ! やったるでぇ!! 見ててくださいよ! 素手でドラゴンボール超出れるぐらい強くなってきますから!」
「ですが、これはダメです」
なぜかガー様はこの案を握りつぶしてしまった。なんでや!?
「――ハッ! まさかガー様、オレの身を案じるあまり……。ですが、今のオレには、そんな想いを受け入れるわけにはいかないんです! ああ、なんという運命のいたずらか!!」
「あ、いえ。そーいうことではなくお土産が期待できないので」
「なんじゃそりゃあああぁぁぁぁぁっ!!!」
オレは勢い余って三回転半したのち、床でしたたかに後頭部を痛打した。
「グワーッ!! ――って何をさせんだコラァ!」
「私に言われても……」
「てか、オレの身よりもお土産ですか!? あんたの倫理感どうしちゃったんですかァ!?」
するとガー様はオレの抗議に、艶めかしい溜息で応えた。
なんだ? その吐息をくれてやるから、怒りを治めろとでも言うのか?
OK。その取引、乗った!
オレはガー様が吐いた当たりの二酸化炭素を選別して取り込んだ。今の俺オレには簡単なことよ!
うへへへ、女神様の溜息おいちぃぃぃ!!
「人の溜息を回収しない!!」
「グワーッ!!」
くそぅ! どういうことだ!? 取引は成立したんじゃなかったのか!?
「とまーバカなことばっかやってても進まんので、はなしを元に戻しますけども」
「……急に冷静にならないでください」
「いやどこ行ったとしても土産はちゃんと持ってきますから大丈夫ですって。前にジャングル転生した時もちゃんと持ってきたじゃないですか」
「……」
うむぅ? なにやら女神が不満顔だな?
その時はなにもってきたんだっけ? えーと……
「あ、そうだ。パルミットだ。美味かったでしょ? 気に入らなかったんですか?」
パルミットとは!
ヤシの若木の芯のことで、ヤシの若芽などとも呼ばれる食材だ。
ヤシの木が生えてりゃあとりあえず手に入るし、火を通さずとも食える食材ということもあって、ジャングルでのオレのお供、もとい軽食だったわけだ。
「ガー様だって、ちゃんと受け取ってくれたじゃないですか」
「……確かに美味しかったですよ」
しかし、そう言いながらもガー様は不満顔だ。
「でも――あれって野菜じゃないですか!!」
その通り。アレは要するに、タケノコというかアスパラと言うか、そういう食感を味わう食い物なのだ。
「いやでもガー様、毎回甘いものってのも身体に悪そうだし……それにジャングルだとなかなか甘いものってのものねぇ?」
毎回毎回甘いものを持ってくるのも芸がないかなと思ってのことだったのだが、ガー様的にはとにかく甘味を倍プッシュしてほしいらしい。
「いえその……ヤシの新芽っていうから多少は甘いものなのかと……」
「……ガー様、ヤシの木はサトウキビじゃないんですよ……」
どんだけ甘味に飢えてんのさ?
「……とにかく! ジャングルに送ってもあまりいいお土産がもらえなさそうなので、却下します!」
ガー様は真っ赤になってぷくっとしたまま言い切った。とうとう本音を隠さなくなったな……。
「しかしなぁ、それならどこへ転生すれば強くなれるのかなぁ……」
「そもそも、別に強くならなくてもいいじゃないですか……」
「やーだー! なーるーのぉ!」
「……」
「なんか言えよォ!」
悲しくなるだろ!
「あ、じゃあ『魔界』とかどーお?」
「却下です。そもそも転生者を送り込むことが出来ませんし……。それにあそこのお菓子って、溶岩みたいじゃないですか」
「うん。味は悪くないんだけどねぇ……」
ちょくちょく悪魔ちゃんが持ってきてくれるのだが、なに持ってきても真っ黒なんだよなぁ。とにかくグロい。アレは悪魔の文化なんだろうか? 基本狂ってるからなぁあそこの文化って。
「もっとかわいいのが良いので、却下です」
なんか、要求が加速してませんか? なに? 次は見た目にも可愛い甘味を持ってこないとダメなの??
「…………」
ダメらしい。『ダメなの!!』とでも言わんばかりの鬼気迫る視線が、オレをさいなむ。好きや。
くそ! いつの間にかオレのリクエストじゃなくてガー様のリクエストになってるじゃねぇか!
「修行にもなって? そんでゴージャズで綺麗で甘~いお土産が手に入るところに行かなきゃならないってことぉ?」
いやどこだよソレ。なんでハードルが上がってるんだよぉ!
「いっそ……パティシエとして修行してくるというのはどうでしょう?」
「『修行』なら何でもいいってハナシじゃないんですよ!」
オレをどうしたいんだアンタは。
「では……神のもとで修業でもしてみますか?」
ああん?
「どっかの神様にナシつけてくれるってこと?」
「ええ、その神の支配地域に転生するということなら問題ないでしょうし」
「それって、オレが知ってる神ってこと?」
「そうなりますね。初対面の相手にあなたを預ける気にはなりません」
なんだとう! 失敬な! 反論はあえてしないけど!
「けど……それで修行にもなって、甘いものを持ち帰れそうな相手って、もう一人しかいないよな?」
「そういうことです」
「モチ子か。――でも、ガー様はアイツが突くモチは食べ飽きてんじゃないの?」
「実はなかなか本気で突いくれないのです。面倒がって。――なので修行ついでに、あの子が本気で突いたおモチを持ち帰ってきてください!」
いつになく力を込めて、ガー様は言う。ほうほう。なんかアホくさいが、それはそれとしてそそるミッションじゃねぇの!
「てか、美味いの? 本気のモチって」
「それはもう……」
「へぇ……」
じゅるり×2。
「しゃあ! んじゃあ行ってみっか!」
「ではそのように」
方針は決まった。なんだかんだであのモチ神にもやられっぱなしだしな。転生ついでにリベンジしてやるぜ。
「ん? でも、モチ子に許可とんなくていいの? いきなり押しかけてもアレじゃない?」
「そのあたりは、まぁ、なんとでもなるでしょう」
ガー様はコンソールをいじりながら言葉をもにょらせた。
んん? どういうことだ?
「そもそも、オレが押しかけてもモチ子にはメリットがなくない? なのにガー様は問題がないと言う……これはいったい」
などと言っていると、毎度おなじみの転生用魔法陣がオレの足元に浮かび上がる。
「最後になりましたが、転生先ではあなたはあの娘の
「はぁ!? 聞いてないんですけど!?」
なんてことだ! だ、だまされた!
しかし、抗議しようにもオレの身体は否応なく魔法陣に吸い込まれていく。
受け入れるしかないのか。これが惚れた弱みってやつなのか?
「――ちゃんとおモチ持ってきてくださいね!!」
いや、一応オレの心配もしろや。
しかし、オレは親指をあげながら神域を後にした。
最期にガー様の笑顔が見えたような気がしたからだ。
やれやれ、こんなんでヤル気になっちゃうんだから、本格的に惚れた弱みってやつだねこれは。
まぁ仕方がない。ちょっと気合い入れて神様の手伝いと行きますか。
――ついでに、あのモチ神のぶら下げてるモチをこねまわしてやるぜ!! 待ってろよみんな!
完(つづかない)
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