第21話 本当の三人目? 登場「ピンク・ダーク」の悪魔!




 ――つけられている。


 違和感があった。


 いつものように転生を終えて神域へ向かう、道すがらのことだった。


 何の変哲もない。何も変わらない道程――そのハズだった。


 しかし、見られている。


 あるいは――何らかの意思に付きまとわれている。

 

 そんな感覚だ。


 尋常の手管ではない。人ではあり得ぬ手段で。そう、何者かがこちらを見ている。


「――いるな。俺の霊的死角に!」


 不意に足を止めた男は、呟きながら身を翻す。


 何者の意思によるものであろうか、襲撃か、あるいは拉致か。

 

 そして、狙いは本当に自分なのか。


「――最近は物騒だからなぁ」


 なによりも、このまま女神のもとまでこの凶兆を引き連れていくわけにもいくまい。


 この場で対処する!


 男は全神経を集中する。――感覚の端に、一ひらの違和感を覚えた。


 うたかたの錯覚にも似た、まるで散りゆく花弁のごとき、ソレ。


 ――逃がさねぇ!


 無我夢中で手を伸ばした。


「――――っと」


 そして掴み取ったのは使い魔でも何でもなく、なにか、機械的な板のようなものだった。


「なんだこれ? ――ファンネル?」


 大きさは手の中に納まってしまいそうなものだが、自在に飛び回ろうとするあたりそんな感じに見える。


「――クンクンクンクンクン。…………あ!! 女の子の匂いする!!」


 とりあえず匂いを嗅いでみた。なんだかいい匂いがするのだ。


「俺の嗅覚はごまかせんぜ! 体臭からするに小5ロリ、と言う所か……しかし、雑味が無さすぎる……人間ではない。……ふむ」


 それはそれとして味も見ておこう。


「んべろろろろろろろろぉん。んおぉ♡」


 特に意味はない。ただ、そんな女子の持ち物っぽいものがぴくぴく動いているのが、琴線に触れたのだ。


「んひゃあああああッ!」


「――んなにやつ!?」


 よくわからんものをしゃぶっていると、近くから女子の声が聞こえた。


 下手人か! 思ったよりも近くに居たなぁ。


「や、やめてください――、それは私の『耳』です」


 もうお分かりだと思うが女子である。人ではない――気配と味から察するにおそらくは悪魔!


 まぁロリッ娘だし、間違いないだろう。


 というかこの新顔の女子は普通に工学迷彩みたいなので姿を隠して俺を付けていたらしい。


 ―――やっべ。霊的死角(キリッ)とか言ってカッコつけちゃった。


「お、お嬢さん? なにをしてるんだい? ストーカーは幾つになっても犯罪だぞ」


「ええ。まさか気付かれるとは思いませんでした。『霊的死角』でなくてすみません」


「ンヒィ! なんで知ってるのォ!?」


「『耳』だと言ってるじゃないですか。返してください」


 どうやら恥ずかしいつぶやきが聞かれていたらしい。――ただでは帰せなくなってしまったな。

 

 女の子は小さい手を伸ばしてくる。――悪魔だとは思うのだが、羽が無い。


 髪色は影の掛かったようなピンクで、服装も微妙にあの悪魔姉妹とは系統が異なるゆったりとした服を着ている。


 むしろあの姉妹よりも貴族っぽい?


「ハッハッハ。残念だがストーカーさんの罪を改めるのが先だなぁ」


「ならばけっこう。――実力で返却していただきます」


 次の瞬間、何かが押し寄せてくる感覚があった。


「――ダにぃ!?」


 振り返るが間に合わない。背後から、下から、或いは真上から。


 何かが俺に殺到し、五体を殺傷するのだ! ――マジでファンネルみてぇだ。オールレンジ攻撃っていうの?


「私は6つい。計12枚の『耳』を持つ悪魔なのです。そして、それらの耳は私の意思で自在に虚空を渡り、世界の端々から諸人もろびとのささやきをかき集めるモノ」


 おのれ! この小さなピーピング・トムめ!


 改めて身をひるがえしたオレは、新手の悪魔と対峙する。――少々驚いたが、ダメージはさほどでもない。いつのツッコミや折檻に比べれば、そりゃあねぇ?


「名乗らせていただきます。――私は通称「ピンク・ダークの悪魔」。以後、お見知りおきを」


 言葉どおり計12枚の『耳』を虚空に浮かべた幼女はドギャァーン! とばかりにポーズをとった。


 おのれぇ、小癪な幼女め! 通称とは言え固有名詞を主張して来るとは!!


 なんたる大胆不敵!


 しかし名乗られたならばこちらも応えねばなるまい。挨拶は大事。


「これはご丁寧にドーモ。オレは」


「けっこうです。あなたのことは既に聞き知っていますので」


「つーことは、やっぱ悪魔ちゃんの友達なのか」 

 

 ホントに友達いたのか。


「まぁ表現によっては変わりますが、とりあえずそんなところです」


 友達の自覚薄そう! 不憫ふびん! 悪魔ちゃん不憫! 


「ま、いっか。それで? なんでピーちゃんは俺のことを付けてたんだい?」


「……見つかった以上は仕方ありませんね。あなたの向かう先の神域とやらに用があったのです」


 いきなりのピーちゃん呼ばわりもスルーか。器がデカイのかそれとも自分の呼称に興味がないだけか……。


「悪魔ちゃんに言えば連れて来てもらえるんじゃないの?」


「もちろん頼みましたが、どうもイジワルをされたようで。教えてもらえなかったのです」


 ……アレ? ホントにこの娘、悪魔ちゃんの友達なのか?


「しかし、私の『耳』の良さは魔界一なのです。感度☆良好なのです。自分でそれを調べ上げるなど。人んの庭の花を手折たおるよりも簡単なこと。という訳で、わたしを早くそこへ連れて行ってほしいのです。」


 なんでわざわざ人ん家の花を摘むのさ!? やめてよ! 大事に育ててるかもしれないでしょうが!


「――だから人ん家から摘むんですけど?」


 サイコかよ。いや悪魔だった。というか人の心を読むな! ったくどいつもこいつも!


「それよりさ。さっき舐め回した『耳』大丈夫? 拭いたげようか?」


「……アッハイ。親切にどうも。コレです。こっち側――加齢臭がして不快でした」


「思っても言わなくていいヤツだよねソレ!? ……ふむ」


 それでもおとなしく顔を向けてくるので拭いてやる。――当然それだけで済むはずもないのだが。


「フーッ♡」


「ひゃあぁぁぁぁ!???」 


 という訳で、片側6枚のファンネルが本来の耳の位置で重なり合うようにして合体したのを見計らい、俺は必殺の息ウィスパーボイスを吹きかけたのである。


「そんなに感度☆良好な耳が6枚も重なるとなれば、即ち感度も6倍、いや、それ以上という事! Q・E・D! 証明終了――――ぐぁぁぁぁぁああああ!」 


 オレが勝ち誇っていると、再び分離した「耳」はその身を刃と化して俺に殺到した。


「……なんなんですか。わたしの邪魔をすることに意味があるのですか?」


「くぅ……、幼女の耳が四方八方から飛来して俺を襲い来る――こ、これは、新しい!」


「……」


 ファファファ。さすがに若干引かれているようですな。――だがオレもまた引かぬ!


「まぁ、いまのは思い付いたんでやってみただけです。けどね、なーんか君の物言いが不振だからさ。――神域に行きたいなら連れてってもいいけど、まずは目的を訊きたいね?」


 悪魔ちゃんがあえて連れてこなかったってのも気がかりだ。イマイチ考えが読めない顔してるし、何かあるよなぁ。


「……ハァ。仕方が有りませんね。」 


 そう言って、この幼女――ピーちゃんは息を吐いた。やはり、何か独自の目的を持っていたようだな。


「私は別にこの先の神域をどうこうしようなどとは思っていません。神も悪魔も、そして人も、わたしにとってはどうでもよいこと」


 そしてこのジト目幼女は語り出した。


 ――そう、ジト目なのである。ジト目。ここ重要。


 悪魔ちゃん姉妹に劣らぬ美幼女であるのは確かなのだが、あの二人とは明らかに方向性が違う。


 伏せられたまつ毛、終始気だるげな表情、そして物憂ものうげな所作までもが、とても幼女とは思えぬ空気を醸し出している。


 悪魔ちゃん達はある意味で「子供らしい」のだが、この悪魔は気配からして魔性を想わせる。今までにないタイプだ。


「私にとっての意味ある。唯一の価値基準、それは――」


 そんな彼女が陶器の様な唇から囁いたのは――


「――おっぱいです」


 そんな、耳を疑うような一言であった。


「パ、パードゥn」


「おっぱいです」


 訊き返そうとする言葉が遮られた。――速い! その語調に揺るぎない意思を感じる!


「――も、申し訳ないんですが、その、意味がよく」


「おっぱいを見に来ました」


 ジト目はジト目のまま、しかしあまりにも揺るぎない眼光を湛えるそれを前に、もはや言葉を返すこともままならない。


「私はおっぱいを見に来たのです。見て、眺め、観察し、あわよくば揉んだり吸いついたりするために――私は、ここへ、来たのです!」


 もはや目的は疑いようもあるまい。しかし、なぜ!? ――これがわからない。


 目の前に居るのは幼女なのだ。おっさんでもあるまいに。なぜそんなことになるのか。


「しりません。理由などどうでもいいのです。そこに乳がある。だからそれを目指す――それだけなのです!」


 ナンデ? と訊いてみるが、この調子である。――なるほど、アタマ痛くなってきた。


「それと、この前――『凄いものを見た。奔放ほんぽうに上下していた。それは乳と言うにはあまりに大きすぎた。白く、火照り、艶めいて、それはまさしく、つき立てのおモチであった』――などと小耳にはさみまして」


 多分悪魔ちゃん達か――もしくは前回のサバトがどうのという噂を聞きつけたという事か。てか誰だはそんな大業な表現をしてたやつは。


 間違ってないけど!


「いや、でも今回そのオモチ神はいないかもだぜ?」


「既に情報は得ています。しかし、そのモチチチ(餅乳)が居るという警備部に乗り込むわけにもいきません。ならば――まずは手堅そうなところからパイタッチしていく所存なのです」


 ピーちゃんは鼻息も荒く、そんなことを言う。


 ふむふむなるほどね。


「まぁ、悪魔ちゃんみたく領土侵犯しに来たんじゃないのは分かったよ」


「そうでしょうそうでしょう。さぁ、早く私を噂のおっぱいの元へ」


「だが断る!」


「――!」


「ナンデ? って顔してるから先に言っておくぜ! 今お前さんが気軽にパイタッチしようとしているのはな、オレが敬愛する女神様なのさ!」


「……」


「たとえ毛ほどであろうとも、それに危害を加えようとすることは、このオレが許さん! ひっ捕らえさせてもらおう!」


 ガー様は、俺が守る! ――しかしそう大喝するオレに、ジト目の悪魔は、少しだけ表情を柔らかくして、微笑えみかけてきた。


 ――どういうことだ!?


「いいですか? おっぱいは2つあるのです。私とあなた、一つずつ、と考えれば誰も損をしないのでは?」


「それもそうだな。良し、行くぞ!」


 なんだいい奴だなお前。


「おー!」


 オレ達は駆けだした。目指すはおっぱい。おお、二つの連なる双丘よ。たえなる山嶺いただきなり。






 ――神域――


 今、その静寂が破られる。


「さぁて、スーパーMMS(見たい・揉みたい・吸いつきたい)タイムの時間だオラァン!!」※


「遅かったです――ねって、なんですかいきなり!!」


 開幕早々に全力でダッシュするオレに、おっぱいが叫ぶ。


 覚悟しろおっぱいめ! 今日こそキサマの右側の所有権をいただく!


 しかし、その全力の侵攻は光の壁に遮られた。


「防御障壁! ――忘れてた!」


「なんで忘れてるんですか!? というか、これは何事なんです!?」


「なんてね――オレはおとりさ!」


「――は?」  


 すると、おっぱいの脇には、光の防御壁をいとも簡単に通り抜けて見せたピーちゃんがいた。器用だね!


「始めまして悪魔です。あなたの左側の所有権を主張しに来ました」


「あ――――ああああくま!? それも、また新……」


 おっぱいも気付いたようだが、時すでに遅し。


 ふにふにふにふにふに。


「きゃぁぁぁぁぁあああああ!?!? ――ななななにを!?」


 ガー様に組みついたピーちゃんはオレとの約束の通り、左側のヤツだけを揉む。


 とりあえず無心で揉んでいる。揉む。揉むべし。ひたすらに。抉りこむように! 揉むべし!!


「い――――やぁぁぁぁぁあああああ!!」


 ガー様も身を捩るが、たよりの神器は既にファンネルで確保されてしまっている。手際もいいね! さすがはピーちゃん。


 そして、戦闘員でもないガー様では、悪魔に抵抗など出来まい。


 チェックメイトや!


 よし、早くふんじばるのだ!


 縛り上げたうえで、まずはじっくり観察しようじゃないか。せっかくのおっぱいだ。忙しねぇのはいけねぇや。


 ――が、


「や――、ぁん♡ ん、ふ、ぅ……め♡ ……んぅ♡ ――や、め、――やめなさい!」


 おっぱい――もといガー様が力いっぱい振りほどくと、何故かピーちゃんはこちらに吹っ飛び、ずざざーと床を滑ってきてしまった。


 え? なに? 力負けしてんじゃん? 悪魔の怪力はどうした!? あの姉妹ならこうはならんぞ!?


「――良い、おっぱいでした」


 なに満足そうにしてんの!?


「いやいやいや! 計画はどうした!? まずは拘束するはずだっただろうに!」


「揉むのに夢中で『耳』のコントロールがおろそかになったようです……にしても予想以上にいいおっぱいでした。満足――」


 マジかよ……このおっぱいフリークを左側だけで満足させるとか、どんだけ極上の乳してやがんだよ。妄想はかどるぅ↑


 っていやいや、妄想などしている場合ではない。もう目の前にエルドラドがあるのだ。ここであきらめてなるもの――


 ――か。と再起を測ろうとしたその時、まるで氷の様な目をしたガー様がおれ達を見下ろしてきていた。


 ふむ。『最後に何か言う事は無いか』と言いたげな眼だな。――では。


「良い声してましたよガー様。いやー改めて惚れ直し」


 無言のまま、神器たる杖が脳天に振り下ろされました。



  



「てか、なんでピーちゃんそんな弱いのさ」


 光の拘束帯みたいなものでぐるぐる巻きに去れたオレとピーちゃんは現在荷物よろしく搬送の憂き目にあっているのであった。例の説教部屋行きである。


「私は情報戦特化の「戦略型」の悪魔なのです。あの姉妹は高度戦闘特化の「戦術型」。一緒にされては困ります」


 君たちは兵器かなのかなのかい?

 

「なんだよぉ、もう~。それならそれでやり方あったのに」


「いえ。それでも同じだったことでしょう。どのみち、揉んだ時点で計画など頭から抜けてしまいました」


 それほどのおっぱいだったという事か。


「でもさぁ結局オレだけ揉めてないのに、お仕置きだけ受けるってさぁ」


「でも見たでしょ?」


「見た見た。凄かった」


 そう、左側を揉まれるガー様は美しかった。


 声とか出ちゃってる所が特によかったね。ハナマルあげよう。


「ああ、そう考えると、オレも満足かもしれないな」


 確かに。『見』に徹するのもおっぱいの楽しみ方のひとつではある。


 ――そうか、一つのやり方に固執する必要はないんだな。


 そうしてオレとピーちゃんは静かに笑い合い。語らった。まるで幼いころからの友達のように。


「ちなみにこの後千年分の説教、頭に叩き込まれんだけど大丈夫?」


「コレで5回目なので、まぁ余裕です」


「そっか。んじゃ次の計画どうする?」


「次のファーストアタックはあなたに任せますよ」


「マジで? ありがとナス!」


 というわけで、オレとピーちゃんは親友になった。次こそはオレも直に右側の所有権を主張したいところだ。 









補足


見たい・揉みたい・吸いつきたい


全ての男が常に我慢を強いられるという「おっぱい三原則」のこと。


漢の宿業三原則などとも呼ばれたり呼ばれなかったり。


注 ただしピーちゃんは男の娘とかじゃなくてれっきとした女子なのであしからず。


出典はジャンプコミックスの「幕張」。かなり好き。歳がバレる。

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