第22話 カルラ舞う! モフ子リベンジ
「う~う~う~うーうううううううううううッ! 門を~開っけろーい!」
神域へ続く道すがら。陽気な、或いは奇怪な声がこだまする。
「開っけろー開っけろー門を開っけろ~~ッ」
今日もまた、男が一人、女神の元へ道を急ぐ。
タカカッ、タカカッ、タカカッ、ダカカ、ダカカ、ダカカ、ダカカ……。
どこぞのスキタイ人の真似をしつつ、軽快にステップを踏む。ハタから見ると完全に危ない人である。
「開けろ開けろ、開っけろォ――ッ!! 門を開っけろぉー!」
夜の帰り道などで、周りに誰もいないからと歌を熱唱してしまう――要するにあの状態なわけである。
「だけど~私は、元気です!(ハァ~スキタイ人、スキタイ人――)」
一人で合いの手まで入れてノリノリである。
不意に人が近くにいるのに気付いて気まずくなり、あとで可及的速やかに死にたくなるのまでがお約束のアレである。
「――なんてな!」
振り向く。――が、周囲は無人であった。
「死角、なし! 我に死角なし!!」
にしても独り言の多い男である。
そして、さらに揚々と腰までくねらせ、ノリノリでいつもの神域への扉の前にたどり着いた。
「おおっと、暗証番号いるんだっけ――いやー、この前のことでガー様が怒っちゃってさぁ。こんなん必要になっちゃったのよ」
誰に向けて話しているのだろうか? とにかく黙っていられないらしい。
「ええーと、暗証番号は――そう、暗証番号は! 1、1、0、2、9! い、い、お、に、くぅぅ!!」
必殺技の如く叫びながら、男は番号を叩き込む。
ちなみに催促でもされているような気がしたので、今回のお土産はいいとこのお肉だ!
「……暗証番号を叫ぶのはおかしいだろう」
必殺技のフィニッシュよろしく余韻に浸っていた男は振り向きつつ、絶叫する。
「んなぁぁぁぁぁあああああ!? なんで!? いつの間にィ!?」
背後に居たのはモフっとした毛並みの獣人の娘であった。――柔らかそうな毛並みだ。
我々は、このもふもふを知っている!
「いやぁぁぁぁぁあああああんッ!? どこから聞いていたぁ!? 恥ずかしやぁぁぁぁぁッ!」
「今来たところだが――いや、貴様の一人珍道中のことなどどうでもいい! またあったな、人間!」
獣人娘は真っ白な毛並みを逆立たせて、男を睨み据えてくる。
「ファ!? ――おお、お前はあの時の! モフ子! モフ子じゃないか!!」
「誰がモフ子だ! 勝手に名前を付けるな!!」
「そう言うな。知らん仲でもあるまいし。フフフ。あのときの『わふわふ、きゅ~~ん。わきゅわきゅ~ん♡』という愛の言葉、忘れてはいない」
「言っとらんわ!」
「まじで~? じゃあ、このもっふもふな記憶の数々はいったい……」
多分妄想であろう。首を捻っていると、いきなり刃物で斬りかかられた。
「――アッブね! 何をする!?」
「私と決闘しろ!
「辱めだ~? あのていどで~?」
どうやら、以前の狼藉(勝手にモフったこと)を不服として自ら報復に来たという訳だろうか?
「でもなんか話はついたって……」
直々に謝罪に言ったガー様からは聞いていたのだが?
「たしかに、上からはそのようにお達しを受けた。――だがそれで、はいと言う訳にはいかぬ。これはあくまで私とお前、個人同士での問題だ!」
「にしてもさぁ、謝れってんならともかく、決闘は物騒だろうに」
時代錯誤なヤツだねどーも。真面目さんか。
「たしかに、組織としては形式上の謝罪を受けている。しかしその上で私は納得ができない。上層部を言い含めて事をうやむやにしようという態度が気にくわん。故に、これは私怨である。上の決定を不服として動く以上、処分は覚悟の上だ! ――さぁ、武器を取り私と戦え!」
自らの口上でなおも高揚したようで、モフ子は勇んでナタの様な剣を振りかぶる。
「……なんか話が見えねぇな?」
どうも、以前のガー様の謝罪がまずかったらしい。――いったい何をやったんだあのダ女神め……。
「どうした! 構えろ!!」
にしても、問題なのはこっちのサモエドである。一人でヒートアップするのは構わないが、なんというか義侠心? ばかりが先走って現実が見えていないように見える。
「構えろも何も……」
「ならば――こちらから!」
そう。まったく現実が見えていない。
――力の差がわからんのだろうか?
「ぃよぉーーーーし! よしよしよしよしよし!!」
というけで、ナタを振りかぶって向かってくる小柄な身体をモフリ、とキャッチしたオレは、そのまま身体全体をホールド。
さらにおなかの辺りに手を突っ込みもふもふする。
うほぉー!! あったかい! 柔らかい! ちょっと湿っぽい!!! なんともたまらん感触よ!
「わぁぁぁぁぁあああああ!?!?」
どうせこうなるのになぁ。にしても、あぁーいいー……。
ああ、ずっとこうしていたいくらいだ……。このまま転生しなくていいや。このままもふりつつ寝ってしまいたい。
「はなせぇぇぇ!」
「んもふぅ?」
真っ白なしっぽでボフボフとやられて逃げられた。まるでおキツネ様の様な尻尾だ。これも素晴らしい。
「おのれ……この上はずかしめを……」
いえねぇ? まぁねぇ?
「いやいや、落ち着いてほしい。オレに敵対する気はないのだ。モフったことにも謝罪させてもらおう。だがら決闘はやめようぜ」
「もみ消そうとしておいて白々しい!」
んー。平行線だなぁ。ガー様に任せずに自分で行けばよかったのかなぁ。
しかし、モフ子は至って本気だ。謝ってもそれだけではおさまりがつかんのかもしれん。
――ならば、この決闘を受けるしかないのか?
「仕方がない。――そこまで言うなら、相手になってやろう。ただし!」
男が大喝すると、モフ子はビクリと全身を戦慄かせた。
「本気の決闘だというなら、オレも容赦はしない。それは分かってるんだな?」
ゴクリ、とモフ子はナタを構えて息を呑んだ。
力の差があることは承知の上なのだろう。緊張が走る。
「――それでもなお、向かって来るというなら」
「なら、――なんだ!?」
「オレの子を産んでもらうことになる!」
モフ子は盛大にズッコケた。
「な――なんでそうなる!?」
「フハハハ! なぜならお前を打ちのめしたところでオレに益などないからだ! ならば、決闘にかこつけてモフりたいほうだい楽しむのが吉よ!」
「お、おのれ……」
「さらに、その後は二人で温かい家庭を築きあげ、そして生まれてくる子らの成長過程をユーチューブで配信! 一気に10億回再生を達成! トップユーチューバ―の仲間入りじゃあ! 運営! 金の盾一ダース用意しときな!」
なんてことになってもいいのか? いやだろ? ならばさっさと帰れ。という意味だったのだが、
「お、……おのれ外道め! 我が子を見世物にしようとは何事か!」
なんか意外な反応返ってきたんですけど? えー、ツッコむトコそこぉ~??
バカらしくなって帰るかと思ったんだが、なんだかさらに反感を買ってしまったらしい。
なんつーか、コイツ、ガー様とは違った意味でクソ真面目なヤツみたいだなぁ……。
さて、どうしたものか――。
ん? アレ? ――でもさ、それでも向かってくるってことは、いいってことじゃね?
ここまで忠告してんのにそれでも律儀に向かってくるという事は――負けたなら産されてもしかたがないってことなんじゃね?
産んでもいいのよ? ってこと?
アレ? これフラグ立ってない?
モフ子ルート入ってない?
「ク……ククク。そういう事か。――まぁ見世物にするかどうかは置いといて、負けたなら産む覚悟はあるという事だなぁ」
ニタリ、と男は悪魔のように笑った。
その舐めるような視線にモフ子は総身を粟立たせたが、すぐにまなじりを決した。
迷いを振り払うように、おのれを叱咤するように、声を張る。
「負けるつもりなどない――キサマの様な外道に譲る道はないというだけだ!」
「ま、なんとでも言うがいいさ(素直じゃないなぁ♡)――間合いだぜ?」
男は無造作に距離を詰めていく。
「やぁ!」
打ち込まれた刃を素手で受け止めた男は、そのまま大ナタをベキリとへし折ってしまった。
残念だったな。オレの『無刀取り』のスキルはカンストしてるのさ。
そして、小柄なもふもふをがっちりとゲットする。
「あぁーッ!!」
ククク、さらには俺の『骨子術(カンスト)』の前に抵抗など無意味よ!
さぁ、それでは皆さんお待ちかねですね? そう、子作りの時間だ! もっふもふのムフフタイムの始まりだぜ!
――あ、ここから先は有料になりますので、以下のURLにアクセスしてもらって必要事項に記入のあと――――――――
「さ――――せるかぁ!!」
次の瞬間、ムフフなケモミミドリームにトリップしていたオレの意識を断つかのように、モフ子とは別の真っ白な太ももと、赤いフンドシが、視界を塞いでしまったのだ!
「ぶべぇ!!!!」
何が起ったのであろうか!?
まるで理解できない。ただ、次いで飛来したのが、これまた真っ白で傷一つないヒザ小僧であったのだけは分かった。
ヒザが入ったのはまぁいい。大したことじゃないからな。普段からいろんな突っ込みは受けている。
が、このヒザは違った。何が違うって、まずはその威力!
――なんてヒザ蹴りだ。いや、上から来たところを見ると飛び蹴り……飛びヒザ蹴りであろうか。
おいおい、ムエタイ・マスターじゃねェんだから、トニー・ジャー※みてぇな真似はよそうぜマジで。
にしても、とんでもない威力、そして速度のヒザだった。
まぁ多分に? 真っ白い太ももと際どいふんどしに視界が奪われていたのは事実ではありますがね?
それでもなお、弾丸を視認して回避できるオレの反射神経に仕事をさせなかったことを考えれば、この新手が、どれほどの強者なのかが察せられるというものである。
そう、新手だ。オレにいきなりのアンブッシュを仕掛けてきたのは初めて見る女だった。
「だ、誰だテメェ!! ――てゆーか!」
なにジャマしてくれてんだよ! 一番ワクワクのとこだったでしょうがぁ!!
「う、
モフ子と同様、なんちゃって山伏みたいな格好をしたヒザ蹴り女は、モフ子を立たせ、そしていつくしむようにその頭を撫でた。モフモフ。
「まったく――心配しましたよ。何も言わないで行くんですから」
モッフモフモフ。
「で、ですがこれは私情です。上役の手を煩わせるなど。――う、うわや……」
モッフフ。モフフフフフフ……。
「んふふ。何時までも他人行儀な子ですねぇ」
ンモモモモモモモモモ(以下∞)
「んねぇー? ちょっとー、聞いてますぅ? ねぇ? そこの翼とふんどしの赤いおねーさん。アンタに言ってるんですけど……」
すると、モフリ回していた女は身をひるがえす。
「お、――お待ちください上役!」
しかし、返答は音波ではなく、逆巻く炎によって成された。
――見るも美しい『金色の炎』だった!
後編につづく
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