第20話 おモチの女神様(後編)


 というわけで一塊のモチにされました♡


 ――って、そんな状況あるゥ?


「って、なんだよモチの女神って!? せめてウサギの神とかだろ」


 一通り俺をモチにして満足したのか(なんだこの怪文)、後輩ちゃんあらためモチ神はガー様のテラスに腰かけた。


「……もともとは月の使徒であり、うさぎの眷属で正しいのですよ。ただ……」


 ガー様も席に付き、申し訳なさそうに眉尻を下げている。


「あ、「月」つながりで先輩後輩ってことなん?」


 ちなみに俺もイスの上に乗せられている。何とも間抜けな格好だ。ダルマじゃねーんだからよ。


「そだよ。で、元がウサギだっつーと、変な妄想してくるヤツらがいるから嫌なんだよ。だからモチの神だって名乗ってんの」 


「ホーン、けしからんヤツラだな」 


「だろぉ?」


「それはそうと、ちょうどバニーガールのコスがあるから着てみ――グワーッ!」


「そういうセクハラにムカついてるってんだろ!」


 またモチィっとしたキネ的なアレでぶっ叩かれたのだが、やはり痛みのようなものはない。


「なんでそんなものを当たり前に所持してるんですか……」


 ガー様が他人事のように言ってくる。って、本気で言ってんのかテメー。


「なんでもなにも。ガー様に着てほしかったからに、きまってんでしょうが―ッ!」


 がんばって仕立てたんだゾ?


「だゾ。――じゃありません! 勝手にそんなもの作らないでください、気持ち悪い」


「大丈夫! サイズとかもピッタリなはずですから! 頑張った! オレ! スゴイ! ガンバッタ! ホメテ? ホメロ!!」


「なんで片言!? 余計コワイですよ!?」 


「そんなら、なおさらアタイに着せてどうすんだい」


「確かに……ガー様用だから後輩ちゃんにはだいぶキツそうだな……」


 お肉(それとも上品におモチと言うべきか?)がこぼれちまうわな。胸元も腰回りもな。はっはっは――――


「ってグアーッ!」


 二人して無言で攻撃すんな! 痛くねぇけどびっくりすんだろ!?


「つーか、それはそれとしてなぜおれをモチにした!?」


 よく考えたら意味が解らんぞ!?


「これ以上セクハラさせないようにだよ!」


「なんだと!? じゃあ、俺は今回なにをしたらいいんだ!?」


「他にすることはないんですか!?」


「相変わらずフザけたヤツだね。――少なくとも、今回はこれ以上何もさせないよ」


 ファック! しかし却下だ! 読者の期待と興奮を裏切るわけにはいかぬ!


 たとえ手足を切り取られても、口さえ動けば、セクハラは可能なのだ! 見せてやるぜ、オレ様の華麗なる舌鋒ぜっぽうをなぁ!


「あー、ちょちょちょちょ、ちょま! 待って! 待ってください! 口は塞がないで。その太ぉい♡ ので口は塞がないで。それやられるとマジでダルマになっちゃうから! 主人公置き物のままじゃ進行できないから!」


 駄目でした。テヘペロ♡


「ったく」


「……それでもセクハラを止めないのはなんなんでしょうね」


 とりあえず口だけは勘弁してもらえたようだ。しかし、改めて考えてみれば、本当に喋る以外の行動の一切が出来なくなっている。


「うーむ。モチにされただけでここまで無力化されるとは……」


 そもそも動けないし、スキルも魔法もマジで使用できない……。


「そーいうこった。神をなめんな」


 ガーン。なんてこった。あのニンジャ野郎へのリベンジどころか、正直ナメ腐っていたこのオチチ神にすら完封されるとはグワーッ!


「誰がチチ神だ。せめてモチ神といえ」


 いや、それはそれでどうなんだよ。あと心を読むな!


 くっそう……アホな権能だと思ったけど、マジでシャレにならんな……。


「つーかそれってどこまでできんの? マジでなんでもモチにできるん?」


「なんだい、疑ってんのかい? これでも『神の力』なんだ。ウソはないよ。マジでなんでも、さ」


「じゃあウンコとかも!?」


 モチィ!


「グゥワーッ!!」


 さらに突かれました。なんでや!


「なんで真っ先にそれが出てくんのさ!? いい加減にしないと次はホントに口も塞ぐよ!?」


 ぐへぇーッ! いや、だって率直に気になるじゃないですか。出来たら食糧問題は解決するやん。


「アタイがソレをモチにするまでがキツイだろ!!」


「それに……それで出来たモノがどれだけ美味しくても誰も食べないでしょうし」


「……たしかに、それもそうか」



 閑話休題



「つーか、それで、なんでそのモチ神がオレに対してキレんだよ?」


 グダってきたから、オレは話を本題に戻すぜ!


「だーかーら―、お前が焚き付けたせいであのニンジャが妙にやる気出してんだよ!」


 んー? だからなんであの野郎が――――あー、そういや。


「後輩ちゃん警備部なんだっけ? で、あのニンジャ野郎は警備部の主任だとかなんだとか……じゃあアレが上司ってこと!?」


「そうだよ」


 ぶひゃひゃひゃ。ニンジャが上司て。なんかウケるわー。ってグワワワワッ!


「や、やめろ伸びる! つーかちぎれんだろうが!」


 このモチ女……おモチチ女は刃物のような目をして、今や滑らかにつるりとした俺のモチ肌を掴み、そのまま、ぐにぃ……とちぎり取ろうとしているのだ!


 い、痛みが無いからこそ、逆に恐怖!


「ちぎってんだよこのバカヤロウ! おかげでアタイらは、あのニンジャと模擬戦させらたんだよ!? 都合半日以上も!」


 そういって、後輩ちゃんはさめざめと涙を流す。


「ううっ。幻術と分身と変わり身使いまくってこっちの探知にも一切かからず、しかも攻撃も一切通じず、つーか攻撃されたことにも気づけないようなバケモノにさんざんなぶられるこっちにみにもなってみろぉぉぉ!」


 ――俺のバディをモチモチとちぎりながら。


 いや、だからちぎんな!!


 悪かったから! ハナシは聞くから! だから俺の身体を小分けにすんな!


「それで怒ってんの!? つーかそれでオレにキレるのってどうなのよ? そもそも訓練も仕事のうち――うぎゃああああッ!!」


 もっちん! とさらに身体が引きちぎられる。


「し、る、か! ――お前が悪い!」


「たしかに、――あの方も迷惑だったとは言いつつ、機嫌が悪いわけではなかったですね」


 などと言いながら、ガー様は小分けにされた俺の一部を皿に取り分けつつ、さらにテーブルに皿を並べていく。


 ――てか皿を並べんな! しまえ! 新しい皿を出すな! なんでそんなに皿があんだよ!?


「いえその……お土産に備えて食器一式を新調しようとしたのですが……興が乗ってしまって進められるままに購入してしまったんです。……300枚ほど」


 ガー様は若干気恥ずかしそうにそう言った。可愛い♡


 てか買い物下手か! どんだけお土産楽しみにしてんだよ。悪かったよ今回なにも無くて……。


 つーか、そもそもなにしてんのアンタ等!? 俺の身体どうなってんだよ!? サバトか!? サバトの用意か!?


「むしろね!? 喜んでんですよあのニンジャ! 『久しぶりに歯応えのあるヤツを見つけた』とかなんとか! いや知らねーし! アタイら知らねーし! だからとばっちりなんですよこれって!」


 ほぉーん!? そんな事抜かしてやがったの? ズイブン余裕じゃねーのあのニンジャ野郎ォ――必ずリベンジを、


「それを止めろって言いに来たんだよ!!」


 ぐぇーッ!


 本体(?)がぺったんこにされた! 何をする!? せんべいか? せんべいですか!? やめろォ! オレを加工すんな!!


「今回限りの八つ当たりならいいさ! けどね、おまえさんが突っかかるたびにあのニンジャにやる気になられたら、こっちの身が持たないんだよ!」


 モチ神はさらにぺったんぺったんしながら、小分けにした俺のバディを平たく、なんというか、食べやすいサイズに加工していく。


 うーむ、なんという手慣れた動作だ。さすがモチの神を自称するだけはある。


 とまぁ、感心している場合ではない。加工されて並べられているのはオレ自身の肉体なのだ。


「まじで止めろ! 海苔のりを巻くな! きな粉をまぶすなぁ!」


「だから、今日はこのまま制約してもらおうか。もう二度と神に危害を加えませんってな」


 はぁ~!? ワロス(古い) するわけねぇーじゃんそんなの。


「しないなら――このちぎったお前の身体を、――――ご近所に配る!」


「な、なんだってー!!」 


 なんということだ! 身体の大部分を食われては、さしものオレもどうしようもない。これには観念するしかないのか――


「――――なーんてね♡」


 オレは再びテヘペロした。


「なんだい余裕のつもりかい?」


 後輩ちゃんはいぶかしげに、不敵に(そしてモチィっと)笑う俺を見下ろす。


 当然だ! この程度で狼狽えるオレではない!


「ウンコのハナシと同じよ。どんだけ美味いモチでも、――元がおっさんならば誰も食おうとは思うまい!」


「いや、自分の扱いウンコと一緒でいいのかい?」


「そこに喰いつくな!」


 流せや! ウンコだけにな! 


「上手くないんだよ!」


「うまうま」


 いやだから喰いつくな……って、


「ハロー。来たわよ」


 ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!?!?


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!? なんでも口に入れちゃう子とそれを止めようとしない姉ぇぇぇ! 二人とも、今日も可愛いね♡」


 そう、ご察しの通りあくまちゃんズのエントリーである。マジでさらっと来ちゃうよねキミら。 


「……余裕だねぇお前さん」


 そうなのである。ご挨拶もそこそこに、妹ちゃんはさらに小分けにされていたオレのバディをワンコそばの如く平らげていくのだ!


 やめて! それはおじさんの一部なのよ!?


「うふふ。ありがと。でもな―に? 神とその使徒ともあろう者が汚物のことばかりくっちゃべって。下品だったらないわ」


 と悪魔ちゃんは失笑する。うーん、来て早々煽りよる。


 でもこれは言い返しようがないね。


「おまえさんが言い始めたことだろがい!」


 モチィ! (打突) 


 やめてぇ! 


「それはそうと、なんだか愉快なことになってるわね? どうしちゃったの?」


 今や掌大になってしまったオレに、なぜか悪魔ちゃんは嬉しそうに訊いてくる。悪魔的には望ましい状況なんですか?


「つーか、妹ちゃんが汚物食ってるけどいいの?」


「失敬ね、これはウンコじゃないわ!」


「ウンコって言っちゃってるじゃないですかやだー」


「おまえさんも自分を汚物ってカテゴリーに入れるんじゃないよ……」


「うんまい」


 脇でわちゃるのも構わず、妹ちゃんはどんどん皿を空にしていく。


 ――そんでガー様よ! あんたも若干嬉しそうに皿を進めんな! いつもの悪魔アレルギーはどうした!? そんなに皿使いたかったのか!?


「ま、アタシがついたモチだからな。元が何であれ美味いだろーさ」


「とりあえずお茶をいただけるかしら?」






 そうこうしているうちに、結局、俺のバディは妹ちゃんに9割がた喰われてしまった。(初対面の悪魔ちゃんズとモチ神のあれこれは省略)


「げふー」


「けっこうなお手前でした」


「はいはいお粗末さまでした(オレが言うのもなんだけど)。で、どうすんのさこれ」


 お前の責任だという目をモチ神に向けるオレ。このままだとこの掌大のモチのまま転生することになるだろうが!


「うーん、まさかホントに食う奴がいるとは思わなかったからねぇ。まー新しいモチを補充すれば元に戻るし」


 解決策シンプル!! つっても材料がねぇ―じゃん。


「問題ない。空気を突いて〝エアモチ〟をつくる」


 万能の神かテメーは。


「モチツキ? 見たい!」


「風流ねぇ」


 悪魔ちゃんズも盛り上がっている。風流かどうかはしらんけど。


「じゃ、先輩手伝ってください」


「えぇ!?」


 嬉しそうに皿を洗っていたガー様が、一転、驚愕した。


「なんで私まで……」


「合いの手が入ると早いんですよ。ほら、はよ」


 すると、仕方なさそうに腕まくりをしたガー様はモチ子の脇にスタンバイする。


 しかし、そこにはウスに該当するものはないし、当然モチ米もない。――なにが始まるんです!? 


「よいせ! よいせ!」


 すると、モチ子は高く掲げたキネを何もない空間に対して突きおろし始めた。


「……」


「よいせ! ――掛け声!」


「は、はい」


「よいせ!」  


「ほ、……ほいせ」


 後輩に促され、何もない場所でモチをひっくり返すような動作をしていたガー様が、渋々という感じで声を上げる。


「声が小さーい! よいせぇ!」


「ほいせ!」


「よいせ!」


「ほいせ!」


「よいせ!」


「ほいせ!」

  

 うーん。オレ達は何を見せられているのだろう!? 


「すごーい……」


「たしかに、すす、すごいわね……」


 ちなみに悪魔ちゃんズが驚愕しているのは、ジャパニーズ・モチツキ・プロトコルを目にしたからではなく、二人の女神が一心不乱に息に動くたび、両者の胸元がばるんばるんとダイナミックに暴れているからである。


 うーむ、絶景だ。詳しいことは良くわからんが、とにかくスゴイ光景であることは確かなようだ。永遠に見てられるな。


「――あのー、失礼しまーす。お邪魔じゃなかったですかぁ。お見舞いに来ましたぁ」


 と、その時、如何にも控えめな声が背後から響いた。


 見れば(動けないんで悪魔ちゃんにサポートしてもらった。気が利くね♡)そこには傘を携えたあかね色の女の姿があった!


 そう、今回のオチ要員こと傘子である!


「あら初めまして」


「コンチワー」


 しかし、女神が謎のモチツキ儀式にかかりっきりなので、悪魔ちゃんズが対応するしかない。オレもモチだし。


「わー可愛い! どこの子? ちっちゃーい。……は! ちがうちがう。わたしお見舞いに来たの。ねぇ、おっきい男の人知らない? 転生者の」


 子供が好きなのか、傘子は悪魔ちゃんズに花の咲くような笑顔を向ける。多分悪魔だってわかってない。


「よー。見舞いって俺の見舞いに来てくれたん!?」


 ヤダぁー! 超、う・れ・し・いー(だみ声)


 オレはテーブルの皿の上から声を掛けた。


「えぇー!? なに!? どうしちゃったのぉ!?」


 まぁー、驚くわな。さて、なんと説明したものか。


「食べちゃったー」


 すると、妹ちゃんが元気に手をあげつつ率直に告げた。……間違ってはいないね。


「た……たべ……?」


 傘子は若干笑顔を引き攣らせる。


「そうなの。みんなで会食してたところなのよ?」


 次いで悪魔ちゃんはニターっと笑顔を浮かべると、そんな事を告げた。


 なんかニュアンスがおかしくないですかねぇ?


「食べ……え? 人間を? そんな……」


 傘子は目に見えて蒼ざめる。


「どういう事? そう言えば、アナタたちなんなの!?」


 ようやく、こんなところに幼女が居るのがおかしいと悟ったのか、傘子は不安げな声を上げる。


「あーうん、この娘たち悪魔なんだよ」

 

「あ、あああ悪魔ぁぁぁぁぁあああああ!?」


 意外! それはデーモン・シスターズ! しっかし気付くの遅いなこの女神。


「いやぁ! コワい!」


「ふふーん。今ごろ知ったのね? もう遅いわよ!」


「おそいおそーい!」


 傘子のリアクションが良いせいで気を良くしたのか、悪魔ちゃんズは飛行機よろしくおててを広げて傘子の周りを旋回し始めた!


「うぇーい♪」


「うぇーい♪」


「ぁぁぁぁぁあああああ、コワいよぉぉぉぉぉおおおおお!!!」


 ――どの辺が恐いんですかね?


 恐怖のツボと言うのは良くわからんものだ。


「だ、誰か、――誰かいないのォ!?」

 

 しかし辺りには大量の食器と手のひらサイズになったオレ、そして虚空で一心不乱に杵を振るいエア餅つきに興じる女神たちしかしない。


「サ――ササササ」


 サ? 笹? なんです? 傘子はわなわなと震えだす。


「サバトだぁぁぁぁぁあああああッッ!」 


 そしてワッと泣き出した。


 あー、そういやこの前そんな冗談を言ったような。


「そーだぞー」


「たーべちゃうぞぉ」


「おぎゃあああああ!! サバトだぁぁぁぁぁあああああ! ホントに悪魔とサバトしてるぅぅぅぅ!! いやぁあああスマッシュブラザーズぅぅぅぅぅ!!!」


 悪魔ちゃんズにフニフニワキワキされて、ついに恐怖が頂点に達したのか、傘子は猛ダッシュして聖域から飛び出して行ってしまった。


 ――うん、スマブラはサバトと関係ないけどね?


「けっこうやるわよ?」


「えぇええ!? スマブラぁ!? サバトでェ!?」


「うんうん」


「あ、わたし超ツオいよ!」


「えぇ……」


 適当だったんだけどなぁ……。現実は小説よりも奇なりというヤツですかねぇ?






「――――おーし、出来たぞぉ。やー、人間一人分のモチはかさ張るねぇ」


「つ、疲れました」


 しばらくして、何もない虚空から見事にモチを捻り出して見せた女神たちがモチを運んできた。


 運んできたというかモチが自立して動いている。――不気味だ!


 それがオレの身体になるのぉ?


 なんかヤダな。


「うん? 誰かいたのかい?」


 すると、モチ子が開きっぱなしのドアに気付いた。


「――うん。いや、大したことじゃなかったよ」


 そういう事にしておこう。


 ――さーて、じゃあそろそろ、今回も転生(逃亡)しようかなぁっと。






 完



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