第17話 天気の女神とニン……ア、アイエェェェ!!(前編)
注意
なぜかクッソ長い上にバトル展開になりました。
自分でもなんでこうなったのかわかりません。
ご注意ください。
だいたいニンジャのせい。
乱雑に聖域を目指す足音が響く。
「ったく、ようやく人間に戻れたぜ!」(前回参照)
千の海を越えてきた!
つーか千の説教を超えてきたったわ!
まったく! ここまでやったんだからご褒美の一つももらわんとな!
早くガー様に座ってもらわなきゃ! もう知らねー女の尻に敷かれるのはごめんだぜ!(錯乱中)
前世がイスだったせいか認識がいろいろおかしいのだが、それを指摘できる人間はこの場にはいなかった。
「あーあ、でもまだ『謝罪がどうの』ってハナシなんだっけ? なえるわー。もうさ、穏便に行こうよ。いいじゃんあのモフ子もガー様も、みんなでオレに座ってお茶でもしてさー(錯乱継続中)」
などと不審者そのものセリフを漏らしつつ、男はいつもの様に神域へ立ち入った。
ま、いいや。まずはガー様のお尻を拝もう。そして座ってもらおう。まずはそれからだ!
「ウ―ス! 帰ったぜハニー。とりま、尻を出せぇー! ああ尻を出せ!! ゴチャゴチャ言うのは後でもいい。だからとにかく尻を――を…………?」
「あ、どーもー」
そこで男は言葉を失った。そこには見慣れない光景が広がっていたのだ。
「…………んん?」
広がっていたというか、いた。
見覚えのない女だ。アレ? 俺の女神さまってこんなんだっけ?
「えっと、初めまして、わたし代理で……」
あかね色のふわふわとした装束に身を包んだ女だった。
例によって例の如く実用性のなさそうな衣装は、ところどころが空色とあかね色とのグラデーションになっており、その境界がゆらゆらとさざなみうっている。
奇妙にうつろう色合いの装束だった。
袖や襟を飾っている雲のようなフワフワも相まって、なんともメルヘンチックな格好に見える。
体型も記憶のそれとは真逆で、小柄だが、しっかりと出るところは出ているアンバランスなスタイル。
ハリがあるというよりは、ひたすらにふくよかで甘ったるい印象を受けるほっぺたのライン。
真っ白な手足も首元も、とろっとした締まりのない感触がうかがえる。
声もまたとろんと間延びしていて、人のものとは思えぬ美貌も、愛玩動物のような愛らしさに満ちている。
記憶にある女神のそれとはまるで逆だ。
凛として精緻な美貌。完璧と言うべきしなやかな肢体。扇情的でありながら神秘さの結晶ともいうべき装束。
それが彼の奉ずる女神だったはず。
まるで違う。
どういうことだ!?
ガーター。そうだ、ガーターだ!
「あのー、だいじょうぶですかー?」
ガーターを確認するのだ! それさえ見れば本人かどうか一目で確認出来るハズ。
クソ! なんで今日に限ってヒザ丈のスカートなんて履いてやがる!
男は勢い、総合格闘家のような流れるようなタックルで女神に肉薄した。
「――わ!? なになに!?」
「御免!」
そして、その女神の膝丈のスカートを全力でめくり上げた。
「――き、きゃあああああぁぁぁぁぁ!?!?」
あった! ガーターあった! ――でも違う! 俺の知ってるのと違う!?
このガーターは白っぽい! ガー様の奴はシックで艶めくような黒だったはず!
すっげぇエロいの! アレ大好き!!
で、これは違う! コレはコレでいいけど! でもそう言うことではない!!
てかパンツ見えちゃってる!?
モロ見えだ! ガー様ならあり得ない!
というか可愛いパンツだ! パンツまで可愛い! コレはコレでいい! なかなか良いパンツだ!
だが――確信した。コイツは、この女神は、俺の女神じゃない!!
「誰だテメェーッッ!!!」
「だから、代理のものですぅー!!」
「だいりぃ?」
なんだそういう事か。先に言ってよそういう事は。
「言ったよぉ!!」
……どういうことだ?
まぁいい。違うなら違うでハナシを聞くとしよう。
「で、どういうことなの?」
「そのまま進めるのぉ!?」
なんだぁ? スカートまくられたくらいで食い下がるねぇ。
しょうがねぇなぁ。一応謝罪の演技ぐらいしとくか。
「す、すみません……、どうも記憶が混乱しているみたいで、失礼を働いたようだ……。きっと転生の影響だ。ああ、オレはなんてことを……。ついいつもの調子で……」
「そうなの……? 混乱……? いつも……? いつも……してるの? いつもォォ!?」
女神はスカートを押さえたまま驚愕している。
そんな驚くことありました?
「そうですが何か?」
「えっ……と、その、わ、わかりました。じゃー、仕方ないし……」
なにが仕方ないのか、この女神は顔まであかね色に染めて何かに納得したようだ。
「(ちょろいなコイツ……)で、ガー様……つーか俺の女神はどこ行ってんの?」
「ふぇ!? (キャー! 「俺の」なんて……そう言う関係だったのぉ!? い、いつもこんなことしてる関係!? ふぇぇぇぇ……)え、えっと……ちょっと出張先から戻ってくるのが遅れてるみたいで……」
出張だとぉ!?
「ン―? 前回の、あのティターンズのとこにお伺いを立てに行って、……そのまま帰ってきてないこと?」
「うん。私たちは『お山』って呼んでるけど。巨人さんたちの国だよね。なんだか引き止められてるみたいで」
引き止められてる!? だとぉ……!?
あの鬼の如くスケジュールを厳守しようとするガー様が!? これはただ事じゃねーんじゃねーか!?
「あ、でも『心配しないように』って伝言もあずかってるから大丈夫だと……」
「いや無理無理。心配すんなとか無理」
なにせ、あのガー様のことだ。一見しっかりしてそうで、あれほど危なっかしい女もいない。
なんというか、相手が正論を盾にして来ると、妙な要求でも一旦は受け入れちゃうようなところがあるんだよなぁ、あのひと。
「ま、まさか、ガー様は相手の要求を断り切れずに、クッソいやらしい折檻を受けているのでは……!?」
なんてことだ!? おれの愛する女神が巨人の巨大な
「えええええぇぇぇぇぇ!?!? そ、そんなことあるわけ」
「あるんだよぉ、あの(隙の多い)女神に限って!」
「あるのぉ!? (なんでそんなことになるのぉ!? まさか自分からそういう身体を張った謝罪をするってこと!? ありえないよぉ……でも、あの娘すっごいキレイだし。もしかしたらぁ……)」
ぐぁぁぁぁぁッ! 想像するだけで五体が張り裂けそうだ!!
――が、同時に興奮もするぅ! 想像すればするだけ最悪の気分なのに、なぜか
――――はぁ、興奮した。たまにはNTR妄想もよいものだ。
ま、実際あり得ないけどな。
「……まさか、でも、そんな……きゃぁぁぁ! ああ、そんなぁ……」
と、なにやらこっちでも妄想の真っ最中らしい。つーかツッコミが弱いから調子が狂うぜ。
「いや、冗談はこの辺にして話を進めますか」
「冗談なのぉ!?」
どうやら本気にしていたらしい。アタマの弱い子なんだろうか?
「ちなみにどこまで妄想してたん?」
「し、してないですぅ! 妄想なんてしてません!!」
ふぅーん?
「でも、たまにここで
「きゃあああああ!!」
アカネ色の女神は飛び上がる。……あれだ、キュウリにびっくりして飛び上がる猫。あれが近い。
「こ、こここここ? ここで!? ダメだよぉ! なんてことしてるのぉ!?」
「ちなみに、今君がすわってるとこな。――前そこびっちゃびちゃだったんだよ?」
女神が再び悲鳴を上げて、床に転がる。
――マジで信じてんのか!?
なんつーか、たのしいヤツだのう。
「う、うううウソ! うそでしょ!? ウソつかないで!!」
「うん。ウソ。――でも
「きゃあああああ!!!」
女神はあらん限りに赤面してとうとう耳を塞いでしまった。
「ツライこと(?)だよな……でも、これが現実なんだ。実は夜な夜な悪魔もよんでサバトしてるんだ。大乱交状態で俺の
「――――――ッッッ!!!」
自分でも何を言っているのかアレだが、女神は真に受けているらしい。
うーん、しかしリアクションがあるといいねぇ。ガー様はさいきん下ネタには露骨に無視で返してくるからな。
しかも俺との
許しがたい。オラ、なんだかイライラしてきたぞ?
「あくま……サバト……スマッシュ……うそ……そんなのうそぉ」
そろそろ泣き出しそうだな。やりすぎてもアレだよね?
「はいはいウソです。全部ウソ。だから先に進めてください」
猫のように持ち上げて立たせた。が、この女神はいまだにのぼせたかのようにふらふらしている。
「ウソ……? ホントに……? でも、う、うそにしては、――リ、リリ、リアリティが……」
いや、今の下ネタにリアリティなんてねぇだろ。
どうも切り替えが苦手なタイプのようだな。ガー様は多少思うところがあってもけっこう切り替えてくれるのに。
うーむ、息が合わんなぁ。
いや、こういうのも
お互いに相手に合わせていかんとな。みんなもあんまり自分勝手な
「はい、座って。仕事して仕事。ね?」
しかし、女神は先ほどまで腰かけていたイスをじっとりと見つめ、近づこうとしない。
――いや、ウソだって言ってんだろ!? そこで
まじまじと見るな! ごくりと喉を鳴らすな! ほてったような視線を逸らすな!
びちゃびちゃとかウソだから!
「でも、……でもぉ……」
あーもう、完全にのぼせたまんまだよこのひと。
うーむ、切り替えてもらわんとハナシが進まん。
「――さっきから気になってたんだけど、なんで室内で傘なんて持ってんの?」
「え? ――これ? わたしの神器。わたし、天気の神様だから」
すると、一転して嬉しそうに返答した。
うむ、具体的な話題を振られると大丈夫なようだな。
やはりな、なんというか、一つのことに過剰に囚われちゃうタイプなのかね。
他人に話題を切り替えてもらえればちゃんと話もできるようだな。
まぁそれはそれとして、とりあえず、
「天気の……映画「天気の子」大ヒットおめでとうございます」
一応言っておくか。流行は押さえておかないとね(周回遅れ感)
「あ……うん。わたしぜんぜん関係ないけど、どうも」
関係ねぇーのかよ。
「……カ、カワイイ傘だねぇ? で、神器ってなに?」
気まずくなる前に話題を変えるぜ。
実を言うとクソほども興味はないのだが、話題を逸らすにはちょうどいい。
相手を褒めるのは会話の基本だね!
「知らない? 神はみんな、自分のシンボルとなるアイテムを持ってるの。私の場合はコレ」
ほぉーん? そういやガー様も杖みたいの持ってたな。――主にオレを貫いたりするのに使ってばっかだけど。
「――――つ、つつつつ貫く!? ――って、えええええぇぇぇぇぇ!? それってそういう!?」
そういうってなんだよ!? 知らんがな。
「待て、誤解をするな!」
そんなプレイに興味などない! 貫かれたのはケツではない! 心臓とかわき腹とかだ!!
「心臓!? わき腹!? ――あああああぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉ!!!」
赤面するとこではないよね? ふつうスプラッターだよ?
なんかいろいろバグっちゃってんなぁ。
「もう、もうやめて! エッチな話しないで! 終わり!」
先ほどから止めようとしているのだが……つーかアンタが勝手にそっちに持ってってるだけなんだけどね?
おもしれ―んだけど、マジで話が進まねーなこの娘。
「わかったわかった。エッチな話は終わりね。――じゃあ、ちょっと見せもらっていい?」
オレは神器だという傘に手を伸ばした。
正直そこまで興味があるわけではない。ただ、神器だなどといわれると話は違ってくる。
そういえばガー様は触らせてもくれなかったもんなあの杖。
ちょうどいい。この際だから鑑定スキルにでもかけてみるか。
「ダメ!」
「おん?」
しかし、女神は――面倒だから傘子と呼ぼう――傘子はしっかりと傘を抱きしめ、遠ざけた。
「人に触らせちゃダメなんだよ!? それくらい大事なものなんだから!」
へぇ―? そうなの? そう言われちゃうと……。
おじさんも意地になっちゃうなぁ?
「そうか。――じゃあ、とりあえずこれを見てくれ」
俺はおもむろに自分の
「きゃあああああぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」
誤解しないでいただきたい。ただの目くらましだ。決して見せて興奮するつもりがあったわけではない。
――なら、じっさいに興奮はしたのかって? それはまた別のはなしさ。
その間に、顔面を覆うのに忙しい両手から手放された傘をつかみ取る。
「ほーん? 軽い……。なんかオモチャみたいだな」
「ああああぁぁぁぁぁ!? か、――返して! ダメなんだってばぁ!」
かたいことを言うな。そんなやわっこそうな身体をしおってからに。
傘の神器を掲げ上げて遠ざけると、傘子はわき目もふらず手を伸ばしてくる。
いやアンタ、それじゃ届かないのは目に見えてるでしょうに。
――狙ってんのか?
狙って、その非常にやわっこいボディを俺にこすりつけているんじゃあるまいな!?
「かえしてぇぇぇぇぇッ!!」
うーむ、計算だとしたら末恐ろしいことなのだが、どうも素でやっているらしい。
ガー様とは違った意味で危なっかしい女神である。
さて、どうしたものか。ほんとはテヘペロして傘を返却し、さっさと転生させてもらうのが正しいのだが、――困ったことにコイツをからかうのが非常に楽しくなってきてしまった。
なんというか、奇妙な魔力……魅力? いや、いわゆるいぢめてオーラみたいなものを感じる。
「ほーら、こっちだょお?」
「返して! 返してよぅ!!」
うーむ、誘惑に逆らえん。なんだかもっといぢめたくなってくる。
「わかったわかった。――取ってみ?」
「やぁぁ! 届かないよぅ! ……うう、もうやだよぅ」
いかんな。ダメだとは思いつつも調子に乗ってしまう。
「しかし、俺が持ってもなにも起きんな……」
「そうだよ! だから返して」
「ヘヘ。なら中身を見てやるぜ! 中身が本物(のパンツ)と同じかどうか見てやるッ!」
「やめてよぉぉぉぉぉ!!」
傘子はとうとう泣き出してしまった。――いや別に傘の中は見てもよくない?
だが、オレの加虐心は留まるところを知らない。
「あぁ~ん? なに泣いてんのぉキミぃ? 泣いてどうにかなるのは入社三週間目の正午までと決まってるんだよぉ!」
知らねぇのかぁ!? ああ~ん? とスゴんで見せると、傘子はいよいよ身を縮こまらせて粛々と涙をこぼす。
「じ、知りばせんでしだ。……ごべんなさい。おねがいです。返してくだじゃい……」
ぼろぼろと涙をこぼす。
ふぅーッ、ダメダメ。そういうのがダメなんだよキミさぁ。だからいぢめられるんだよぉ?
もっと毅然と対応しないと……。
うむ、後学のためにも、もうちょい厳しく指導する必要があ――
◆ イヤーッ!! ◆
――る。とほくそえもうとした、その時、一陣の閃光が傘をとらえていたオレの手を貫いた。
な――――なぁにぃぃぃぃぃッッ!?
オレの驚愕は、いきなりのアンブッシュ(奇襲)のせいばかりではない。
手の甲を貫くその刃の形にこそある。
十字形の鋭い星型の刃。――すなわち
「――そこまでだ、下郎」
しずかに、しかし重苦しく轟くような声音が、神域にコダマする。
何もなかったはずのその空間からは、その雄々しき肉体を、いわゆる忍者装束に包んだ偉丈夫が現れた。
覆面によって覆い隠された面貌はうかがい知れず、ただ人ならざる光を宿す眼光だけが鬼火の如く瞬き、確かにこちらを見ている。
腕を組んでこちらを見降ろしてくる。
その位置関係は明らかにならず、ぼやけている。
高い所にいるようで、そうではないような。天を突く巨人であるようで、そうではないような。
内実をうかがわせぬ、奇妙な立ち姿は対峙するものを委縮させるに十分すぎた。
奇怪な、そして稀有な威容が空間を席巻していくかのようだ。
「て、てめぇ――」
数瞬の遅れをもって、男はこの
それほどに、予期しえぬ
さしもの無限転生者も、これほどの状況に陥ったことなどなかった。
「――そ、そのいで立ち、この手裏剣、そしてそのござる口調――てめぇ、まさか!」
驚愕に喉を震わせ、絞り出す言葉は、それでもなお己の正気を疑わざるを得ないようなものであった!
「ニンジャか!!!」
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