第16話 古き神々とよこしまな企て


「それ、悪魔じゃないですよ!」


 ガー様は唐突にそう叫んだ。


 ああん? 


「いやでも、神にはみえなかったんだけど……」


「た、確かに我々とは種別の異なる種類の『神』ではありますが……ああ、なんてことでしょう」


 ガー様は頭を抱える。


 そんなに問題なんです?


「……簡単に言うと、業務提携している相手とでもいいましょうか」


 なんだそりゃ!?


「つまり……我々は無数の世界を「管理・維持」する神なのですが、彼らは世界を「創り・増築」する神々なのです」


 創るって……それじゃあ。


「創造神のこと言ってんの? 管轄が分かれてんのか?」


「というより……国つくりの古き神、というべきでしょうか」


 あー、なるほど呑み込めてきた。


「つまり『巨人』※か」


 なるほど、それならあのもふっこいのが「巨人」の力を使ったのにも合点が行く。


「そうとも言いますね。つまり、我々のような神々が生まれる以前、人よりも先に世界に生育していた古き種族を指します」


 なーるほど、それでか……。


「ギガス、ティターン、霜の巨人にだいだらぼっち、盤古、ネフェリム……さらには太古の巨獣たちってところか。ナルホド神とは似て非なる古き者ども。ってことね。そういう連中が集まってる別組織なわけだ」


 どおりで毛色が違うと思った。


「ああ、問題になってしまう……先ほどモフった、といいましたが、その……どのくらい? どんなことをしたんですか? まさか狼藉のかぎりを……」


 うーん、そう言われると言いにくいんだけど……


「ぶっちゃけ、やりました♡」


 男はあらん限りのゲスな笑顔を浮かべた。


 雷撃が落ちた。


「アバババババ」


「なんでそうなんです!? 女性と見れば見境なく――」


「いやだって、悪魔だと思ったんだもん、しゃーないじゃん」


 すると、ガー様は「うっ」と言葉を詰まらせた。


 オレがあの白いのを悪魔だと思って取り押さえようとしたのはガー様から悪魔を捕まえるように言われていたからだし、何よりオレはそんな連中ががいるなんて今の今まで知らなかったのだ。


 今回ばかりはガー様にも非があるんじゃないの?


 ――――いや、まぁ散々もふって相手お怒らせたのは、すべて私の判断であり所業なんですがね(ゲス顔)


「た、――確かに私のミスです。ですが、まさかこんな場所で鉢合わせるなんて……」


「そーいや、あのワンコは何でこんなとこにいたのさ?」


「おそらくはお使いのようなものかと」


 なるほど、それで業務提携、ね。


 てことはアイツは巨人の飼い犬。使いっ走りだったわけね。

 

 どおりで「力」が弱いわけだ。


「ほぉーん。巨人ってつおいの?」


 巨人は世界のあらゆる「力」の根源であり、法則ものもの、とも呼ばれる。あの引力の巨人がそうであるように。


 さすがに戦争とかになると困るよねぇ。神と巨人て常々争ってるイメージあるし。


「バカなことを考えるんじゃありません! 争うべき相手ではないのです。現状険悪な間柄でもありませんし」


「でも、決して気を許していい相手でもない、と」


「……その通りです。――となれば、すぐにでも謝罪の報を入れておかないと……」


 そう言ってガー様はバタバタと書類を引っ張り出し始めた。


 いまどき書簡かよ。それで「お使い」が必要なわけか……。


「ちょっと待っていてください」


「へーい」


「というか、反省はしてください! 相手を間違えたにしろ、あなたのやり方にも問題はあったんですから!」


「わーかってますって」


 そして、女神は男を余所にせわしなく作業し始めた。






 じゃあ、待ってる間ヒマだし、潔く今回の件の反省を――――――


 ――――――しねぇよ?


 そう。しない。この男、この期に及んで反省の色など絶無であった。


 反省などしない。反省点などない。


 つーか、反省しなさいなんて言われてホントに反省するやつなんているのかね?


 そもそも、相手を悪魔だと思ってなかったんだとしても、オレは間違いなくあのもっこもこしたのをもふっていた。


 ぶっちゃけ、次会ったときもモフモフするつもりでいる。そりゃあもう可愛がるとも!


 すなわち、反省の必要などない、ということだ!


 QED! 証明終了!


 というわけなので、することもなく、ヒマである。


 ガー様は忙しそうだ。パンツ見えそう。


 つーか、なんでああも、クソ真面目かねぇ。


 別に一報でもいれときゃいいじゃん。あとはシラを切ればいいんだよ。


 でかい組織の末端構成員がカチあったからって、そんな大事になるとは思えないし。ガー様の過剰反応なのはわかっている。


 ったく、なんでそう、全方面に対して生真面目に、誠心誠意対応しちゃうんだろうか?


 好きだけどさー、そういうとこ。


 それはそれとして、もうちょいだな。


 こう、椅子からずり落ちるような感じで姿勢を低くするとね?


 今だ! ほら、向こう向いて尻を突き出してるじゃん!


 ううむ、いいケツだ! か細いくせになんでケツだけデカいかね。人体の神秘!

 

 お、お。……もうちょい! もうちょい下から行けばあのスカートの中が見え――見え……


 見え――――なーい!


 ファックオーフ!


 なんで見えへんのじゃあ!!


 つーか考えたらオレ、ガー様のパンツ見たことないじゃん。


 ウソだろ!? 何千回も転生し続けて何千回も対面して、いろいろあったのに……


 いや、一回見えたことあったっけ? いやあれは幻覚だった。ぐぬぬ……ぬか喜びさせやがって……。

 

 憤りを抱かざるを得ない。


 ただの一回も、あの短いスカートの中が見えないだと?


 そんなのありえねぇだろ!?


 何かカラクリがあるのか?


 ――――調べねばならないのではないか?


 ちょうど、ガー様はこっちの思考を読むほどの余裕がないらしい。


 いまなら見れんじゃねーの?


 むしろ、千載一遇のチャンスなんじゃねーの!?


 いや、しかし反省しろと言われているというのに、即そんな真似ができるのか?


 できるんだなーこれが(ゲス顔)


 いやしかし、さすがに怒られるのではないか?


 そもそも、真面目に事態の収拾を図ろうとしているガー様を、そんな目で見ていいのか!? 


 いいんだよ細けぇこたァ。


 ま、バレなきゃ問題ないって話よ。



 

 


 よし。というわけで、グダグダ言っている間に用意は整ったぜ!


 えー、まずは「モデリング」のスキルで作成したデジカメ付きのドローンがここにあるじゃろ?


 さらに、これを「ステルス」のスキルで見えなくするじゃろ?


 で、「リモート」のスキルで、これを遠隔操作する、――っと。


 ――よし、感度は良好。


 あとはいかにも反省しているふりをしつつ、この見えないドローンを使って、確実にパンツを激写できるところまで接近。


 パシャリといくだけよ!


 ふぅ~! 完璧なプランだ! 我ながらほれぼれするぜ!


 さぁ行くのだ我が分身よ! 悲願を達成せよ!




 ~ドローン進行中~




 ……うーむ、この下から、じっくりと舐めるかのようなアングル。


 なんという犯罪的な視点だ。


 犯罪的というか犯罪そのものだ。


 控えめに見積もって犯罪者のそしりを免れまい。


 だが引かぬ!


 んなもん恐がって異世界転生ができるか!(暴論)


 その間にもドローンはじっくり、じっくりと近づいていく。


 相手は神。慎重になりすぎるということはない。


 うーむ、しかしあいも変わらず長く伸びたしなやかな御御足おみあしが素晴らしい……。


 ぶっちゃけパンツなんぞ見れなくても問題ないと思えてくる。


 いや、目的を忘れるな! 初志を貫徹するのだ! 大事なのは真実パンツに向かう意思!!


 ――よし! いいぞ、もっと近づけ!


 よし! よし! よし!!


 いけるいけるいける! もうちょっと……。あ、見える!? 見えそう、おお、エルドラドの入り口が見える!


 ああ、分かる。唐突に理解した。オレの生は、いままでの数千にわたる異世界転生の軌跡は、すべて、この一瞬のために――――


 そして、とうとう、ドローンはガー様を、ほぼ真下から見上げるところまで到達した。


 これで見えぬはずがない。


 さぁ、すべてをさらけ出すのだ、我が愛しの女神よ!


 我が双瞳よ、魔を宿せ! 刮目するのだ、刹那の世界を切り取るがごとく――


 ――――いざ!!!!




  

 

 ――


 ――――


 ――――…………み、


 見えない!!


 見えねぇ!? なんだコレ!?


 おかしいよぉ!? なんで見えないのぉ? こんなの絶対おかしいょお!!


 と、そこでいつの間にかこちらを向ていたガー様が足元のドローンとスパーンと蹴っ飛ばした。


 ぁぁぁぁぁあああああ!? 我が分身んんん!!


 しかし嘆く間もなく、翠緑の瞳がこちらを見ている。


 ヤッべ。完全にバレてる。


 いや、待て、どこまでバレているかはわからない。最後まであきらめずにシラを切りとおすのだ!


「――いえ、シラを切るも何も、全部聞こえてますから」


「ズコーーーーッッ!!」


 オレは思わず古典的にずっこけた。


 じゃあ何かい!? あの恥ずかしいモノローグも全部筒抜け!?


「恥ずかしいという自覚があるならなぜ自重しないのですか……」


「ぉぎゃあああああぁぁぁぁぁあああ!!!! それなら反応してくださいよぉ!」


「忙しいといったでしょう。――それと、正直何処まで増長するのが興味がわきました。――まったく反省していませんね」


 ううむ。まるですべての衣服を剥ぎ取られて、あらゆる部位を白日の下にさらされているかの如き羞恥だ。


 一周まわってキモティいい……。


 ――が、事はそれで済みそうもない。


 いやー、さすがに、怒ってますよね? ただ、その前に一つ質問があります。


「……なんですか?」


「なんで見えないんです?」


 そこが問題である。物理的におかしい。


「私の権能は「月光」と「月影」。すなわち、闇夜の陰影を司るもの。何を明らかにし、何を覆い隠すかを選択する権を持つのです」


「……つまり?」


「私自身が見せようとでも思わない限り、中が見えることは有りません」


 えー。


 なにそれチートじゃん。はぁーなえるわー。やってられん。もう帰るわ。


「ところで、私も悟ったことがあります」


 ――う! 


 答え③ 帰れない。現実は非常である。


「な、なんでしょうか?」


「言葉で何を言い聞かせても、無駄な人種というものはいるのだということです」


 困った奴らもいたもんですよね♡


「……」


 む、無言が恐ろしい。だが、そんなあなたもお美しい。


 ぶっちゃけ、これから何をされるのかと興奮もしてくる。――じゃあオレはお仕置きされたいからこういうことしてんのかな?


「…………とりあえず、私は今から一度、先方まで出向いて伺いを立ててきますので、細かいことは次回に回しましょう」


 ああ、そっちの事情はそんな感じなんですね。忘れてた♡


「で、その前に――軽くですが、あなたも受けてみますか? 「千年説教」を」

 

 ふぁ!? それってこの前のザk……赤い悪魔ちゃんがやられてたやつ!?


 い、いやだ! あの娘、結局廃人になってたじゃねーか! レイプ眼だったよレイプ眼! 


「あ、あははは。やだなー。そんな時間ないじゃないですかー。ガー様は出かけなきゃだし、オレも異世界転生しなきゃなんないんだし……」


「そうですね。なので次の転生は「千年説教の説教部屋の椅子」への転生とします!」


 げげぇ~!?


「ちょっと待てって! そんなん異世界でもなんでもねぇだろ!?」


 職権乱用だ! 炎上案件やぞ!!


「お黙りなさい! ちょうどいいので、きっちり千年の説教を千回ほど受けていただきます」


 そのぐらいでちょうどよいでしょう。――なんて、言いやがる。


「あ、あははははは。やだなーガー様、目がマジですよ!?」


「ええもちろん。マジですので」


 オレは逃げ出した。逃ーげるんだよスモーキー!


 とりあえず、ほとぼりが冷めるまで悪魔ちゃんの所にでも転がり込もう。


 なーに、ガー様は怒るときは怒るが、そう言うのが持続するタイプじゃないからな。


 怒りはするが恨みはしない。そう言うタイプだ。


 だから愛してるぜ!


 とういうわけでアデュー! しばしの別れだ!!


「逃がしませんが」


 時速270㎞でダッシュしていたはずのオレの身体は、しかし、いつの間にか透明な椅子のようなものに座らされ、さらに光るガラスのような拘束までハメられているではないか。


 なんだコレ!? なにこれ!? 質量のあるホログラム!?


「私の権能はこういう使い方も出来ます。月光とは温度のない光、陽光とは別の現実を描き出す軌跡――少々あなたを甘やかしすぎたかと、反省しています」


 うそーん。自分で反省しちゃうのぉー。


「うう……ガー様に拘束されてると思うと興奮する――じゃなくて! いやマジで待ってください! レイプ眼になりたくない! 百歩譲って、やるならガー様がやってください!」


 それなら受け入れるから! 逆レイプも受け入れるから!


「これから出かけるといっているでしょう。いいからちゃんと反省してきてください!」


「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 哀願むなしく、オレの身体はそのまま椅子ごとボッシュートされてしまったのであった。


 ちゃんちゃん。






 ――つーか千年×千回ってなんだよ。無限地獄じゃねーか。なえるわー。


 ああ、せめて座るのが可愛い女子でありますように……。












補足


※各国の巨人たち


有名どころを適当に上げただけなので詳しい設定とかは無い。


しかし文化が違っても巨人伝承なんかは偏在するあたり興味深いものがある。

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