第11話 幼女が謎の振動する器具でオレを前後から(前編)



 神域に、ありうべからざる歌声が響く――


「「「~ゆ~けー イモのごとく~」」」


「「「~野裁の剣士よ~ イモに紛れて~」」」



 ――間奏――



「~なにゆえ戦うのか それは剣に聞け~」


「「~正義だとか愛など 俺は求めない~」」


「~イモに生まれ、イモに育ち~」


「「~イモを斬りぃ裂ぁく~」」


「「「~はぁ~るかなぁ~ 古から受け継いだ~ 品種だから~」」」


「「「~ゆ~け~ イモのごとく~~」」」




「――なにを歌ってるんですかまったく!」


 悪魔ちゃん×2と共に熱唱していたところに女神のツッコミが轟いた。


 おいコラテメー、まだ途中でしょうが!


「なにって、『野裁戦記 邪牙ジャガの主題歌 〝邪牙~SAVIOR IN THE POTATO~〟ですがな!」


「それは知ってます」


 知ってんのかよ!? カラオケとか、……しゅきなん? こんどいっしょ行こ?


「というか、なんで最初からいるんですか……」


 オレのカワイイアッピルを無視すんなや。しかし、なんじゃい今さら。


 どうもガー様は悪魔ちゃんたちのエントリーが既に済まされていることがご不満らしい。


 まったく困ったもんだね。


「なんでと言われても……、気が付いたらとしか……」


 なぜならオレにもよくわかってないからな。なんかいきなり始まったわ。


「――登場に要するくだりを省いておいたわ(有能)」


「おいた!」


 ジャキーン! と悪魔ちゃん(&妹ちゃん)がポーズを決める。


「有能! あくまちゃんズは有能! ヤッター!!」


 なるほど、誰ぞが登場した、みたいなくだりも冗長になりやすいからね!


「褒めるんじゃありません!」


 しかし怒られる。理不尽だ。やつあたりか? うーん。最近ガー様、機嫌よかったんだけどなぁ。


 やっぱ悪魔ちゃんズとの確執は根深いのだろうか。


「――そうではなく……人のオフィスに勝手にカラオケボックスを設置したことを憤っているのですが」


「ファ!?」


 そう言えばそうだな。何時からあったんだこんなもん。


「ひどい――。仲直りの為にって……わざわざ持ってきたのに…………」


 持って来れるようなもんかなこれ……。しかし、悪魔ちゃんはさめざめと泣き出してしまう。


 これはいかん!


「ちょっとぉぉぉぉぉおおおおおッッ!! なに子供泣かしてるんですかぁ!? かわいそうでしょぉお!?」 


「どう見ても嘘泣きにしか見えませんが……」


 マジで!? そこんとこどうなの?


「てへー♡」


「やられた-! でもカワイイヤッター♡」


「結局それかぁ!」


「グワー!」


 新たなる聖痕が刻まれる。いやもう体中聖痕だらけなんですけど?


「はぁ……まったく……」


 個人的にはこっちのセリフなのだが、ガー様は美しい眉根をひそめて、重い息を吐いた。  


 なにやら深刻だ。考え過ぎは毒ですぜ?


 しかしその御美しさは衰えるという事がない。


 いや、むしろその美貌は苦悩してこそ磨きがかかるというもの。


 ああ。悪魔が入り浸ることにフラストレーションが溜っておられるガー様。


 お美しい


 おお。悪魔が勝手に自分のオフィスを遊楽ルームへと魔改造していることにストレスを感じておられるガー様。


 お可愛らしい 


 んぁあん。ついでに、悪魔が勝手に自分の冷蔵庫開けて物色しているのを見つけて仰天しておられるガー様。


 お素晴らしい!

 

「見てないでさっさと止めろ!」


「アバン!」


 もはや聖痕うんぬんは関係なくぶっ叩かれた。最近粗暴なふるまいが目につくなー。その辺女神としてどうなのさ?


 ――でも、そう言う所も、好っっきやで?


「しりません」


「ぐおッ!?」


 ぶっ叩かれながらも秋波(色目を使うという意味。ポエット!)を送る俺を、やおら引き倒すと、ガー様はまさかのスタンプ攻撃に出た。


 見上げる眼前に絶景が広がる! ――嘘だろオイ!!


「とりあえず、戯言を言い終わるまで待ったことを褒めてください」


 えーと、有能! 流石はガー様! 有能!!


「声に出して」


「ぐおお!? え、えーと、好きです! あとパンツが予想以上にスゴ――グワーッ!」


「そこを褒めろとは言ってません」


 さらに踏みにじられた! でもやった! 見えた! ヒールがかなり痛い! でもヒューッ! 黒かよぉ! 予想以上にエグい! パンツエグい! 最早ただのヒモじゃねーか! ヒモパンヤッター!!!


 下品! はしたない! でももっと好きになりました!


 ハハハハ、ラピュタは本当にあったんだ!!


 ハハハハハハハッ―――――――――― 





 ――――はッ?


「……?」


 気が付くと、何時ものようにガー様と向かい合って座っている。


 なに? 何が起こったの???


「……」


「……え? ドユコト?」


 ガー様はマジマジとこちらを見ると、一言、こういった。


「――――幻覚です。……いい悪夢ゆめは見れましたか?」


 ザッケンなよテメェ! あと「GetBackers」なんておっさんしか知らねぇだろうが! 


「ハァァ!? なに? ようやくパンツ拝めたと思ったのに! つーかどっから幻覚なの!? パンツ幻覚だったの!?」


「幻覚の中で何を見てたんですか!?」


 つーかなんでいきなり幻覚見せられてんだよ意味わかんねぇだろうが!?


 ――いや、それよりも悪魔ちゃんたちまで幻影だったというのか!?


 そんなバカな!


「悪魔ちゃん。悪魔ちゃんはいずこにおわす!?」


「ここにおわすわよ」


「やった! いた! ラピュタはほんとうに(略」 


「ふふーん!」


 見つけた悪魔ちゃんを高々と掲げ、オレはしばし飛行機よろしく旋回した。


 あーよかった。ロリコンから苦情が来るところだぜ。


「なぜと言えば、悪魔を当然のように同伴したことに腹が立ちました」


 ガー様はツラっとそんなことを言う。いやまて、私的制裁じゃねーですか。


 最近、ずい分とラディカルになってきたじゃねーかこの女神さまもよぉ。でも好き♡


「それよりみて―」


 一方妹ちゃんが愛らしく背伸びをしながら何かを見せてくる。


「おや、妹ちゃん。なんだいそれは」


 うふふ。こういうやり取りは心があったかくなってきちゃうよね♡


 こんなにかわいいんだからガー様もへんに意地を張らなきゃいいのにねぇ?


「つくったのー」


「そっかぁ」


 よく作ったねー。こんな――


 こ、こんな――――って、


「えええええ!? なにこれぇ!?」


 小さなおててに乗せられたのは機械仕掛けの……なんだろう? 心臓のような?


 あるいはスチームパンク的に改造されたモンスターの内燃機関のようにも見えた。

 

 なんなのコレ!? とにかくグロいんですけど!? 


「あらー、よくできたわねぇ」


 するとこちらもまた、可憐なおててのうえに――これまたみょうにグロロロぉい石器の内臓器官のようなものを乗せた悪魔ちゃんが言った。


 やだ! ビックンビックンしてる!


 どういうことなのぉ!? なに!? 何する気なの? まさか俺をフランケンシュタインの怪物の如く改造する気!?


 う、うあああああぁぁぁぁぁ!! よ、幼女に改造されるぅぅぅぅぅビクンビク(以下略) 


「さぁ、合体よ!」


「おー!」


 なんだ改造じゃねぇ―のかよ。期待して損した(?)ぜ。

 

「でさぁ。あれ何やってるの!?」


「知りませんよ……。まぁ何かしらの呪われたアイテムでも作成しているんでしょうが……」


「うへぇー、あれも悪魔の手習いなんかなぁ……」


 悪魔幼女のお稽古事はデンジャラスだなぁ……。


「知りたくもありませんが、出来れば止めてください」


 なんだろう? にしては意外と反応が薄いような?


「悪魔を野放しにしておけば、こんなことは日常茶飯事なのです。世界に害を成すものを造りつづける……。この前だって病気を造り始めたでしょう」


 そ、そう言えば………………ウっ、思い出したら、なにもされていないはずの愛息に激痛が!


 ――幻肢痛かな?


「まぁ、元手が無ければ大したランクのものは出来ないでしょう。ここは神域。本来あのようなアイテムの作成には向かない場所なのです」


「ほーん、じゃ、ただ遊んでるだけなのかね?」


 あの子らもわざわざここでそんなことしてるってことは、気ぃ使ってるってことかねぇ? 構ってほしいかも? 


「あー、それでガー様も黙認してるってこと?」


「……」


 そんな事は無いと言わんばかりの鋭い視線を向けられる。――が、効かんな。むしろご褒美さ!


「そーいや、ランクって何よ? 神様視点でもそう言うのあんの?」


「当然です。神や悪魔が造り出した物品は、それだけでは人間の世界に影響を与えるものなのですから」


「へー。じゃあやっぱパンツ持ってったのは正解――ゴハァッ!」


「二度とやらないように」


 制裁ついでに鬼神のごときき視線を向けられる。――ま、まだまだ、げ、元気イッパイ……だぜ。へっ、ご褒美さ……。


「しんめとりかるぅ~」


「どっきんぐー!」


 などと言っているうちに合体は完了してしまう。


 すると幼女たちの手の中で結合したブリキめいた左心房と鉱石に煌めく右心房は、互いに連動するように奇怪な脈動を轟かせ始める。


 …………ほんとに「取るに足らない」アイテムなのアレ???


「なんか……オレの眼には今にも世界を裏返しそうな危険物にみえるんですケド……」


 見た目は完全にケテルだ。ヤバくない? ヤバげやない?


「奇遇ですね――私の眼にもそのように映ります……」


 ヤバいんじゃねーか!


 少女たちの手を離れたそれは虚空にぴたりと静止しつつ、紫電を放ち、周囲の空間を波打たせながら脈動を加速させていく。


 ――明らかにヤバい。


 てか、なんの装置なのアレ?


「てか、ランク! アレのランクとか分かんねーの!?」 


「ちょ、ちょっと待ってください……」


 ガー様は虚空に浮かんだホログラム的なコンソールをアレコレといぢる。――すると、画面上にでかでかとそのランクは表示された。


 表記は「SSS」だ。


「……確認としてききますけど、これっていいの? 悪いの?」


 ランクって言ってもいろいろあるからね? 早合点はダメだよね?


「……危険度最高を示すランクです」


 オゥ……。オレたちはそろって目を覆った。なんてこったい。


「つーか、さっきの話はドコ行った!? えげつないもん完成してんじゃねーか!!」


「わかりませんよ! 出来るハズが無いんですあんなもの!! いったいどうして……ッ!?」


 言い合いをしているうちに、極光を放ちながら脈動し続けていたソレは、――不意に消失した。


「いぇーい!」


「やったー、成功!!」


 悪魔ちゃんたちは相変わらず、可愛らしくやんやしている。


 ――が、事態としては、どうやら何か致命的な、とても致命的な何かがクリティカルしてしまったらしい。


 オーマイガット!


「なんですか」


 テメェじゃねーよコノヤロウ!


 ええい頼りにならん! こうなったら直接のインタビューじゃ! 


「えーと、悪魔ちゃんたち。今のはなんなんだい?」


「えー、おしえなーい♡」


「ねー、おしえなーい♡」


 幼女たちはキャッキャしてばかりで教えてくれない。うーん。いや、すごくね、可愛いんだけどね。


 そういうハナシじゃねーんだわ。おじさんキレそうなんだけど?


「もー、仕方ないわねぇ」


 と、コッチがギリギリンチョなのを見かねて上機嫌のあくまちゃんが歩み出てくる。


「工作してただけよ。ほら、上等な素材が転がってたから、見逃す手はないもの」


 上等な素材ぃ?





つづく


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