第7話 強襲! 悪魔の妹(前編)

「やだやだやだ――ッ!!」


「ダメと言ったらダメです!」

 

 今日も今日とて神域に怒声が響き渡る――。


「どうしてダメなんどぅえすかー! リアルヴァイキングしたいって言ってるだけじゃないですかー!」


「殺戮も略奪も奴隷売買もダメです! そんな転生は許されません!」


 めずらしく議論は白熱していた。 


「いーじゃんたまには―。転生したら基本は自由じゃないですかぁ」


「自由にさせる女神もいますが、私は許していません! ダメです!」


「けどさー、俺ずっと優等生だったしぃ。いっつも異世界救ってんじゃん。もうあきたのよー」


「だいたい、なぜそれでヴァイキングなんです?」


「いや、アニメすごい良かったからさ……。アニメ「ヴィンランド・サガ」。大好評放送中です!」


「……どこに向かってしゃべってるんですか?」


「ま、一応ね。で、いいじゃーん。オレもあんな風に村を焼いたり、戦争したりしたいのぉ。エンジョイ&エキサイティングしたいのォ」


「アニメに感化されてやることですか!? あとそれは別のアニメです!」


 ちなみに、お前らいつどこでアニメなんて観てんだというツッコミはしてはいけない。イイネ?


「絶対に許しません!」


「かー、なんでわかんないかなぁ。このロマンが! 文明人もやしどもを原始的な暴力でねじ伏せて金・女・セックス! な。そう、バーバリアンドリームってやつですがな!」


「アメリカンドリームみたいに言わないでください! 何を言われても私には一向理解できません。そんなのはダメです!」


 かー、優等生カタブツめ! 


「今回だけでいいからー。楽しみたいのぉ。楽しいことがしたいのぉ」


「……」


 無視すんなや!


「あーあ、今回もお土産頑張ったんだけどなぁ」


「……!」


 一見変わった様子はない。しかしガー様のこと大好きなオレにはわかる! その澄ましたお顔がわずかに引きつってるぜ! 顔面の出来がいいせいかそういうのもわかりやすいぜ。


「あーあー、じゃあ。どうすっかなー。その辺に捨てちゃおうかな―」


「……一応聞きますが、モノはなんなんです?」


 ククク、こらえ性のねぇこって。


「シンプルにケーキです。ただし、ホールケーキ丸ごとだ! 直径60センチあるぞぉ!」


 人間の顔よりデカイやつだ。――まぁ、このお土産シリーズもネタ切れしてきて質より量に走った感はあるけどネ。


「ケーキ……」


 だが、シンプルであるが故に王道! 甘いものなら何でも喜んで食べちゃうガー様にコイツを拒絶できるかな!?


「けーきぃ!?」


 そーだょお!


「お姉さま、けぇき! けぇきあるって!!」


 ――んん?


「そうねー。よかったわねぇ」


 甲高い声は背後からだ。何ぞやと振り返って見れば、背後には小さなお顔が二つ並んでオレを見つめている。


 あー、これは……


 真っ赤なおめめと視線が合う。


「来ちゃった♪」


「来ちゃったかぁ……」


 誰あろう、それはあのターコイズブルーの悪魔ちゃんであった。


 くりくりおめめはブラッドカラー。時として大魔王にもただの幼女にもなりうる悪魔ちゃん、再登場の姿である。


 じっと見ていると、勝手知ったかのように、小首を傾げ、愛らしくポーズを取り、くるりと回って笑顔を見せてくる。


 ――完璧だ。完璧すぎて作ってる感がハンパない。あざとい! 


 尋常でない美少女ぶりである。――それ故にちょっと構えてしまうのは仕方のないことだろう。中身大魔王だし。


「よ、よくいらっしゃいました」


「おカオが引きつってるわよ?」


 悪魔ちゃんはオレの顔を引っ張りつつ、クスクスと笑う。


「お、思ったよりもお早いご訪問だったもので……」


「仲直りに来いって言ったのはアナタじゃない。そのお招きに従ったまでよ。さぁ、神妙になさいな」


 それは土壇場どたんばとかで使う言葉じゃないですかねぇ?


 まぁ、何時かは来ると思ってたし。しかたねぇか。――ガー様にも話は通してあるし。


「…………」


 と思ったら、当の女神は距離を取って物陰に隠れている。


 なんじゃそらぁ!


「ちょっと、ガー様、何やってんの!?」


「……ですけど」


 いや、親戚がいきなり家に来た時のニートじゃあるまいし、仲直りしろって言ってんだろ! アンタのためでもあるんだよ!


「ちょっと、ちょっと待っててね」


 と、そこでこのダ女神を捕まえに行こうとしたところで逆手をつかまれる。


「――――お? おぉ!?」


 で、引き込まれる。――どこの巨人かドラゴンかというほどのパワーで!


「おおおおおぉぉぉぉぉッッ!?」


 で、軽く。ほんとに軽々と、マジで布きれか何かみたいに振り回されて、ベチーンと床に叩き付けられた。――な、なんなの!?


「ねぇ!! けぇきは!?」


「あらあら、大丈夫?」


 そう、悪魔ちゃんの妹であろう黄色い幼女である。それがオレを軽々とふり回したのだ。


 つーか、悪魔ちゃんも『あらあら』じゃあねーって。普通の人間ならミートパイみたくいになるんですけど!? 中身出ちゃう中身!


「ごめんなさいね。この子ちょっと力加減が苦手で」


 いや、そういう設定のキャラよくいるけどさぁ。そんなヤツホントにいるゥ? 現実味なくない? 日常生活大変そうだし。


「んねぇっ――てば!」


 一方、いかにも愛らしくむーっとした妹ちゃんは、さらに俺を振り上げてバンバンやろうとする。――あれだよ。子供が枕とかでバンバンやるヤツ。あれを人間でやろうとしてるのね。


 さすがに、何度もやらせはせんがな!


 そうだ。そう何度もバンバンされるオレではない。両の足を踏ん張り、耐える。――が、


「ちょい待ち! ちょい待ちって! 待って待って、死ぬから! そのうち死ぬから! 人間は死ぬやつだから君のパワーは!」


 全力であらがっているはずなのだが、振りほどけない。なぜか綱引き状態だ。というか、あろうことか、微妙に力負けしている。


 嘘だろ? オレこう見えても40メートル級の巨人ぐらいなら素手で行けるんだぜ?


 各種ステータス操作・スキルの重ね掛けしてるってのにまだ押し負けるってどんな馬力してんだこの幼女!


「んんんんん―――――ッ!」


 向こうもお顔を真っ赤にしてひっぱるひっぱる――いや、なんでだぁ! 話を聞け! あげるから! ケーキあげるから!


「直ぐ持ってくるから! すぐに出すから! お願いだから止まってぇ!」


「けぇきぃ!?」


「ウン。ケーキケーキ!」


「ホントぉ?」


 パッと笑顔を見せた幼女はそのまま手を離しやがったので、俺は当然後方にぶっ飛びましたとさ。――ハハ。なんだコレ。


「もう、だめよぉ?」


 そうですね。叱ってくださいお姉ぇさん。暴力で意を通そうとするのは良くないのことですよ?


「でもよかったわねぇ」


 ――よくねェえですよ!? てか「ダメよ」で終わり!? どういう教育してるの!?


「おにいさん。けぇき!」


「――げ、元気な妹さんですねぇ?」


「かっわいいでしょ!」


 さらに笑顔で寄ってくる妹悪魔と、ドヤ顔を見せてくる姉悪魔。


 ――フム。どうもこの姉のほうは連れてくるだけ連れてきて制御する気はねぇようだな!?


「す、――すっごくかわいいですね(半ギレ)」


 上等だ! そっちがそう言う気ならこっちもやり方ってものがあるぞ!


「けぇき! ねぇ、早く!」


「ちょっと待った! ――ケーキの前に、やることがあるんじゃないか?」


 立ち上がったオレは腕を組み、決然とこの幼女を見据えた。(ダメージリカバリー中)


 妹ちゃんは困ったように首をかしげる。――カワイイね! だが手加減はせんぞ!


 こうなったら、――オレが直に教育しなおすまでよ! 


 何気にオレってば、幼児対策も万全なのさ。だてに転生しまくってねぇからな!


「――なに? けぇきは!?」


 ぷっくりとしたほっぺで威嚇してくる。――フハハ。効かんぞ!


 さて、この妹ちゃん。姉とは違い、オレンジと言うか黄色と言うか、こう、柑橘系の色合いのまだらな髪と、暗いブラウンの瞳をした女の子だ。


 姉妹と言うだけあって、顔かたちは姉とよく似ている。――しかし、時として妖艶さを見せる彼女と違い、こっちはとにかく感情豊かで表情がコロコロと変わる。


 なんというか年相応な愛らしさがあるというか。――ホントの歳とか知らんけど。


 今はオレがじっと見下ろしているせいか、困惑気味に見上げてくるばかりだ。


「初対面の人でしょ? ご挨拶あいさつした?」


 姉が助け船を出すと、アッというカオをした後で、その後ろに隠れてしまった。


 そうだ。何をするにも、まずは挨拶。これぐらいは常識の範疇だろう。


 形式上でも、挨拶を交わすというのは「私はアナタの敵ではありません」という意思表示になるのだ。


 どんなコミュニティでも、挨拶がダメなやつは何時まで経っても異分子のような扱いを受けるものだ。


 説教くさい話かもしれんが、これマジだから! 理由なくて言ってるわけじゃないから! おっさんだから説教したいわけじゃないからマジでマジで!


「は、――初めまして。おねぇ様の妹です」


 すると、おずおずしながらか細い声でそう言った。


 ――よかった。これぐらいの常識は通じるんだね!? やだ泣きそう!


 ちなみに、やたらと横文字の固有名詞を並べると読者の負担になるので、このシリーズでは極力キャラの固有名詞等は伏せた状態でお送りしております。ご了承ください。


 そもそも、悪魔はあんまり実名――いや、真名を明かさないって話だからな。だから仕方ないネ。


「はい。初めまして妹ちゃん。おねぇちゃんに似て可愛いね」


 そうって小さい頭をわしゃわしゃすると、妹ちゃんはニヘーっと笑ってくれた。


 そうそう、幼女っていうのはこうじゃないとな(ゲス顔


「もう、わしゃわしゃってしないで! レディの髪なのよ!」


 一方で悪魔ちゃんはキーキー言いながら妹の髪を整える。――そういうとこだけは熱心なのね?


「じゃあ。ケーキはたっぷりあるからみんなで食いましょうかね」


「「はーい」」


 姉妹は並んで席(デスクとは別のカフェ風のヤツ)に向かう。


 2人並んで歩く姿はいかにも可憐だ。はぁ、何とかなった。早くも転生しそう。


 ――が、俺に安楽の時は訪れない。妹ちゃんを背後から見て気付いたことがある。


 妹ちゃんの背中の「羽根」は姉のそれとは違い、明らかな人工物であったのだ。


 メカだ。マシーンだ。メカニカルだ! 機械仕掛けのエクスマキナ(重複表現)だ!


「――な、なんてことだ」


 我ながら喉がわなないているのが分かる。まさか、こんなところで、奴らに出会うなんて!


「どーしたのー、おにいさん?」


 妹ちゃんはくりっと見上げてくる。


「キサマ――〝メカニト〟※の手のものか!?」

 

 なんてこった! 悪魔かと思ったら宗教団体かよ!


「〝めかにと〟ってなーに―?」


「ええい、こうなれば話は別よ。早く財団に連絡を――」


 しかし、そこで取り出したスマホがはたき落された。


「痛い!」


 悪魔ちゃんである。


「〝メカニト〟じゃないのよ?」


「え、いやでもメカの」


「いいわね?」


「アッハイ」


 違ったらしい。






後半へ続く






※ メカニトとは


 メカニトとはSCP Foundationという怪奇創作コミュニティサイトの投稿作に登場するSCP財団の敵対組織のことであり、やばい奴らである。


 同作には基本的にやばい奴らしか出てこないのだが、その中でもだいぶやばい奴らである。でもたまに世界とか救ってるらしい。「巨象」はロマン。


 解説すると終わらないから、解説はしない。気になったら調べてみてね!


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