第8話 みずいろの天使

 あれから二週間。私は公開収録型の番組に出ることは控えていた。よって、卵を投げられることはなかったけどカミソリ入りの手紙は相変わらずだった。

 そんなある日のことだった。

「なあ、ひかり。『ベスト・スタジオ』から出演依頼が来てるんだが、どうだ?」

『ベスト・スタジオ』は月に一回の音楽番組で、出演者が自ら歌唱曲を決めることができる。今ヒットしている曲、ファン人気の高いアルバム曲、自らが気に入っているB面の曲――何を歌ってもいいという自由な番組だ。観覧の人たちも直前まで何が歌われるかわからないから、親衛隊は腕の見せ所だと気合を入れる。

「まだ、樋口君のファンが怖いか?」

「……NOと言えばウソだけど……出ます!しばらく出ていなかったし、お声がかかったんですもの」

「よし!じゃあ何を歌うか決めておいてくれ。あ、あとこれ」

 伊藤さんが胸ポケットから取り出したのは一通の手紙だった。

「本物のファンレターだ」

 胸が熱くなる。

「じゃあ俺は会議に出席してくるよ。ラジオの収録は11時からだからな」

 伊藤さんが出ていったあと、私は開封して読み始めた。中学生の男の子からの手紙で、デビューしたときからファンであること、毎朝新聞のテレビ欄をチェックしてから学校に行っていて、友達とファンクラブを作ったこと、好きな曲のこと、将来は親衛隊に入って応援したい……といったことが几帳面な字で綴られていた。

「ありがとう……」

 私は手紙を胸に押し付け、熱い涙が頬を伝って流れた。

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