第6話 渚のジュリエット

「――俺たちは……付き合っています」

 何も言えなくなった私に代わり、進也が答えた。

「俺と花梨は知っていました」

 千秋も付け足す。

「ごめんなさい、黙っていて……アイドルは恋愛禁止なのに……」

 私はうつむいた。

「どうか、俺たちのこと認めて頂けませんか、お願いします!!」

「お願いします、二人を引き裂かないで……!」

 進也だけでなく、花梨や千秋も頭を下げる。

「うーん……」

 伊藤さんが渋い顔でうなっている隣から、予想外の言葉が飛び出した。

「私は知ってましたよ」

「え?」

「へ?」

 私たちは頭を上げ、伊藤さんはポカンと口を開ける。声の持ち主、五十嵐さんは淡々と言葉を続ける。

「そりゃわかりますよ、それだけ親しく、仲良くしてりゃ。まあ隠してるみたいなので黙っていました」

「五十嵐……なんでお前教えてくれなかったんだ!」

「そんなもん、自分で察してください。人から聞くもんでもないでしょ」

 伊藤さんが心底悔しがるそばで、五十嵐さんはクールな表情を崩さない。

「移動のバスや飛行機でさり気なく隣同士にしてあげたのは、誰のおかげだと思ってるんです?」

 私はもう一度黙って頭を下げた。懺悔ではなく、感謝の気持ちだ。

「だがな」

 ようやく現実を受け入れた伊藤さんが口を開く。

「なんにせよ、世間にはばれちゃいけんだろ。噂が流れているだけでこのざまだ。今日は卵だったからまだよかった。石や空き缶、ビンだったらと思うと……ゾッとする」

「そうですね、女の子、なかでもティーンエージャーのファンほど恐ろしいものはないですし。だからと言って、共演の多いひかりさんを恨んでいいというわけでもないですけどね。対策だけはしないと。『ヒット・ステーション』は公開生放送ですからね、今頃は全国で話題になっているはずです。この先も何かはあると思っておいたほうがいいでしょう」

「とりあえず、ひかりと進也は距離を置いたほうがいいな」

「うん、私と千秋が間に入るようにしよっか」

「それに、樋口君は激しい恋の歌はやめたほうがいいな。ひかりも、今恋をしてます、幸せ~って雰囲気の曲は歌わないほうがいい」

「そうですね、けど失恋ソングを歌うのはわざとらしいですからね。いっそ、恋愛っぽくない曲のほうがいいですね」

 千秋や花梨、伊藤さんやいが五十嵐さんまで……私の視線に気づいたのか、五十嵐さんがふっと表情を柔らかくする。

「あなたのマネージャーが知らなかったのは予想外ですが、私を含め、芸能関係者で勘のいい人は気づいていました。あえて言わなかったのは、可能性に賭けていたからです」

「可能性……?」

「アイドルは恋愛禁止。確かに、ファンの方の夢を壊さないように、自分がスキャンダルを起こさないように、と考えたら恋愛は避けた方がもちろんいいです。けど、アイドルだって人間です。どれだけ神格化、偶像化されようとね。出会って、運命を感じたのがたまたま芸能人で、自らも芸能人だった。それだけでしょう」

 五十嵐さんは両手を握り占めた。

「あなたがたはあからさまな態度をとらないし、お互いに迷惑をかけまい、周囲にも気を使っています。少しでも恋が成功する可能性があるのなら、応援したいと思うのは当たり前でしょう。私はあなたがたを『ロミオとジュリエット』にしたくないんです。その想いは、みんな一緒だと思いますよ」

 五十嵐さんの視線の先では、同期三人と伊藤さんが騒いでいる。花梨が伊藤さんをからかい、千秋が止め、進也が笑っていた。

 ふと進也が私を振り返りドアの方を見た。私は立ち上がり小さくうなずいた。五十嵐さんは何も言わずに隣の部屋の鍵を貸してくれた。

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