第5話 涙色のイマージュ
千秋を含め、私たちは事務所に戻り、会議室に籠った。伊藤さんは席を外していたがけど、千秋は何も言わずに私のそばにいてくれた。
進也が太陽だとしたら、千秋は月だ。優しい光で包み込み、安心させる、そんなタイプだ。温かいバリトンの声や笑顔は、いつだって私に安らぎを与えてくれる。年は変わらないのに、まるで兄さんみたい。年下の女の子のファンが多い理由がわかる気がした。
「だいぶ落ち着いたか?」
「ええ。ありがとう、千秋」
「ひかり!!」
ドアが勢いよく開き、花梨が飛び込んできた。その後ろには進也と彼のマネージャーの五十嵐さん、そして伊藤さんと続く。
「テレビで見ててすんごく心配したんだからね!怪我してない?平気?」
花梨の目にはうっすらと涙がにじんでいた。
「心配かけてごめんね」
「うう・・・・・・親友のひかりに、いや、人間にこんなことするなんて許せない!」
怒りをあらわにし、こぶしを握り締めた花梨に伊藤さんもうなずいた。
「……おそらく、今回のことは、樋口君のファンがひかりに嫉妬して起こしたことだろう。現に、事務所にカミソリ入りの手紙が大量に届いていた。これも一緒にな」
伊藤さんが見せたのは雑誌『夕星』の切り抜きだった。
「これって、前にインタビューを受けたときの……」
「そう。ひかり、この時相当樋口君についてしつこく聞かれなかったか?その一部始終が載っている」
それだけでなく、脚色がかなり入っていた。私が進也のことが好きだって言っているような……そんなファンに誤解を招くような書かれっぷりだ。
「前々から二人の噂は流れているからな、いやがらせの手紙は時々届いていた。けどこの記事を読んでさらに拍車がかかったんだろう。もともと女性アイドルは男性アイドルのファンから憎まれがちだ。ただひかりは女性ファンやレディース(女性の親衛隊員のこと)も多い。だから大丈夫だと思っていたんだが……読みが甘かったな」
重々しい空気が部屋を支配する。沈黙を断ち切ったのは伊藤さんだった。
「言いづらいんだが……実際はどうなんだ、君たち二人は?」
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