第4話 不穏のシナリオ
「お、ひかり」
「千秋。今日は一緒なの?」
今日は『ヒット・ステーション』の収録。現場でばったり千秋に会った。
「ああ。ひかりと同じ番組に出るのは久しぶりだな」
「そうね。今日はよろしくお願いします、『酒井君』」
「こちらこそ、『ひかりちゃん』」
プライベートや楽屋ではお互い呼び捨てだけど、ステージに立つときは一人の共演者として敬称をつける。それが私たちの流儀だ。
『ヒット・ステーション』は公開生放送番組。多くのファンや親衛隊が応援に駆け付け、満員の観覧席の前で歌うのはいつも緊張する。それに生放送だから失敗はできない。
番組は進み、私の番になった。
「本日の五曲目、香坂ひかりちゃんで『花かんむり』、どうぞ!」
イントロと同時にステージに出て歌い踊る。そろそろサビに差し掛かる、という時だった。
「たんぽぽの~花か、キャア‼」
何かが突然私の顔をめがけて飛んでくる。とっさに腕でかばった。何かは腕に当たって弾けた。
(これは……卵?)
観覧席がひどくざわつく。一角から怒鳴り声が聞こえたが、すぐに鎮まった。
(……いけない、歌に集中しないと)
私は構わず歌い続けた。生バンドによる演奏が止まらない限り、私はアイドルの『香坂ひかり』でいなければならない。卵による攻撃は続き、最後のひとつは歌が終わり礼をしたときに投げ込まれた。それは頭に命中し、私は卵で全身ベトベトになった。
「ひかり、大丈夫か⁉」
舞台袖に戻ると千秋が走ってきた。その後ろには伊藤さんも。
ついにアイドル、『香坂ひかり』の仮面が割れた。私はその場に座り込み、頬を濡らした。
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