第3話 ゆ・れ・て取材
「それでは、香坂ひかりちゃん、インタビューを始めます」
「よろしくお願いします」
今日は雑誌『夕星』の取材の日。デビューのきっかけ、好きな食べ物や花、趣味、尊敬する先輩など、当たり障りのない質問に答えていく。
「――じゃあ、あなたは同じ事務所の松本聖乃さんに憧れて?」
「そうなんです。中学の頃からずっと好きで。家でもよく真似して歌っていたんですよ」
「最近も『ヒット・ステーション』の歌まねコーナーで披露してましたよね。お上手で」
「まあ、そんな……ありがとうございます」
「ところで」
記者の人が一呼吸おく。
「ひかりちゃんは今度、ドラマに出演するそうで」
「ええ。初めてなのでドキドキしてます」
「共演相手は今をときめく樋口進也君、と」
記者の声に熱気がこもるのが分かった。私はコーヒーを一口すすって座りなおした。
「以前からコマーシャルなどで共演することも多いですが、今回は恋人役ですよね。手をつないだり、腕を組んだりというシーンもあると思いますが、実際の進也君との関係は?」
「そうですね……彼はいいライバルです。アイドルとしても、ドラマに出る俳優としても」
「でも、『ヒット・ステーション』など音楽番組でも隣同士に座ったりすることも多いですよね。今も放送中のチョコレートのコマーシャルも一緒ですし」
今日の人は随分としつこい。内心はそう思いつつもボロが出ないように笑顔で受け流す。
「同期で同い年ですしね、きっと深い意味は無いと思いますよ」
「では、ファンの方が心配するまでもないと?」
「はい。たまたま一緒になるだけで。私も皆さんに聞かれるので少し困っているくらいです」
相手はあきらめたのか、少しため息をつくと次の質問に移った。最近、マスコミが躍起になっている――千秋の言葉が頭の中で反響する。
私はもう一度コーヒーをすすった。カップはとうに冷め、生ぬるくなっていた。
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