042話 しょうたい
俺達4人はやっとの思いでエリカに俺達の記憶が何処か別のところに記録されているのではないかと言うことを理解させることができた。
ダンジョン攻略に使った時間が4時間位だとすると、理解させるまでにその倍である8時間は必要だった。
ソラは何にでも詳しいと思っていたのであまり気にしていなかったが、意外なことにルミの前職――つまり、この世界の時間が止まる前の仕事がIT関連の会社で、その道のプロだったと言うのには驚いた。
エリカに理解させた後、気が付くと俺とウララも含めた3人は、ルミやソラから授業をして貰う形になっていた。
何となく知っていると思っていたことが、裏ではこうやっていたのか…と言うのは俺としては勉強になったのだが、エリカには難しかったのだろう。
その頃にはもう瞼が開いてなかった。
「エリカ、もう終わったぞ、大丈夫か?」
「頭の使いすぎで、もう限界ッス。」
フラフラしながらエリカが言う。
「エリカちゃんってたまに鋭いこと言うから忘れてたけど、そう言えばこう言う子だったわね。」
ルミが苦笑いで言う。
「いつもご迷惑をお掛けしてすみません。
私からも良く言って聞かせますので…。」
ウララが自分の子供が何かをやらかした時のように頭を下げた。
そんな事をしているうちに、若い男性のギルドの職員風の人が入り口の方から近付いてきた。
これはもしかしたら、サエグサと言う人が見つかったのだろうか?
…と、思ったら全然違った。
それとはまた別の人間をギルド本部が探しているらしい。
なんだよ、紛らわしいな…。
「……と、言う訳で、高校生くらいのイケメンで、最近来た少年を探しているのですが、心当たりはありませんでしょうか?」
そう言うと、そのギルド職員は俺の方をチラッと見た後、目をそらした。
はいはい、どうせ俺はイケメンじゃ無いですよ。
だけど、俺以外にも、最近来た男子高校生がいるのか。
もし知り合ったら仲良くなれると良いな。
「えっと…あの…それで、その高校生の名前は…分かりますか?」
ソラが台帳を捲りながら聞いている。
「それが、その、情報が錯綜しておりまして、『I』がつくらしいのですが…イザワとか、イハラとか…。
なかなかサブマスが口を割らないらしいんですよ。」
サブマス?口を割る?イザワ?
俺は少しだけ嫌な予感がして、吹けない口笛を吹きながら百貨店の入り口の方に歩き始めた。
「あぁ、だったら多分、アツシの事ッスね。」
空気を読まないエリカがそう言った。
それが聞こえた瞬間、俺は全力で出口に向かってダッシュしたが、【高速移動】を持つエリカにあっさり捕まるのだった。
「あぁ……あなたが……。」
エリカに取り押さえられて連れ戻された俺を見て、明らかにガッカリした様子の職員がそう言う。
「確かに、台帳を確認しましたが、イザワさんやイハラさんと言う高校生の方はいらしてないので、恐らくアイザワさんで間違いないでしょう。
アルファベットの『I』ではなく、普通に『アイ』がつくんですね。」
ルミが嬉々として補足説明をする。
なんと言うか、分かったからもうやめてくれ。
俺はエリカに両腕を捕まえられたまま、罪人のように項垂れていた。
時おり背中に感じる柔らかい感触だけが俺の気持ちを和らげてくれた。
だが、何故かウララには睨まれ、相変わらずアリスは隠れたままで、普段ならうるさいグロウも眠ったままで、誰も俺を助けようとはしてくれなかった。
踏んだり蹴ったりだった。
だけど俺、何か悪い事したっけ?
そんな事を考えていると、ギルド職員が跪いてこう言った。
「アイザワ様、貴方を賓客として我がギルド『フェアリーテイル』の本部である『フェアリーロイヤルガーデン』に招待にあがりました。
案内致しますので、ご足労戴けませんでしょうか?」
「あぁ、あれか。」
俺は呟いた。
少し間があいた後……。
「「「「「「えぇーーー!!!」」」」」」
俺を除いた
アリスは兎も角、これでグロウの寝たふりが確定した。
「それって、あたしも行って良いの?」
何処からともなく現れたグロウがそう言って飛び回る。
……ほらな?
「勿論でございます。
アイザワ様のご一行を全員お連れするようにと申し付けられておりますので。」
急に執事っぽい雰囲気を出してきたギルド職員がそう言う。
だが俺は、あいつが目をそらした瞬間の事をこれからも忘れはしないだろう。
「あの、私たちも良いんですか?」
ウララが訊ねる。
「エリカとウララですか。
本来はギルドメンバーですので除外となるのでしょうが…、アイザワ様が許可を下されば良いと思いますよ。」
ギルド職員は、エリカとウララが服につけていたギルド章についている番号を確認しながらそう言う。
と言うか、服にあんなの付けてるの初めて知ったよ。
番号見ただけで誰か分かるあの職員も大概だけどな。
「あの、そう言うことなので、連れていって貰っても良いでしょうか?」
「あぁ、もちろん良いぜ。エリカもな。」
「やったッス!
エリカ、初めて行くッスよ!」
何か喜んでくれてるみたいなので、良かった。
でも、出来れば、その前に俺の両腕の拘束を解いて欲しかった。
まぁ、その後気付いて慌てて解いてくれたから良いんだけどさ…。
でも、ギルドメンバーなのに初めてってどう言うことなのだろうか?
もしかすると特別なときにしか入れない場所なのかもしれない。
何も言ってこないが、多分アリスもついてくるだろうと判断し、俺達はそのなんちゃって執事に連れられて、そのなんたらガーデンに向かうことになった。
もう何度目かのルミとソラとの別れを経て、俺達はエメラルド地下街の先にあると言うギルド本部へと向かうのだった。
―――
「そう言えば、さっき、『あぁ、あれか。』とか言ってたけど、知ってたの?」
久しぶりに見た飛んでいるグロウが聞いてくる。
「いや、今思い出したけど多分お前たちにも話したはずだぞ?
ケンザキ姐さんに会って招待を受けたって。
あれ?言ってなかったっけ?」
チュートリアルダンジョンを抜け出した後、ケンザキと会ったと言う話はした記憶があったが、ケンザキとの個人的なやり取りもあったので、詳しくは誤魔化して喋った可能性もあったが、押し通すことにした。
「グロウちゃん救出の脱出の際にサブマスターと会ったと言うところまでは聞きましたが、内容までは聞いてなかったですね。」
グロウの代わりに、ウララが答えた。
ウララが聞いていないと言うことは、間違いなく言ってなかったのだろう。
少なくとも、他の二人よりも説得力がある。
ウララの事だ。
そう判断して、敢えて発言したのかもしれない。
「そうか。すまない。
言ったつもりだったんだが、言うのを忘れていたのかもな。」
俺は取り敢えず謝る振りだけする。
「でも、普通忘れるッスかねぇ?
何か隠してることがあったんじゃないッスか?」
こう言うときだけ鋭いエリカが突っ込みをいれる。
「きっと袖の下でも貰ってるのよ!」
グロウも悪ノリしてくる。
この二人が元気になると、話が色々ややこしくなるので、もう少し寝ていて欲しかったくらいだ。
「そんなことよりも、グロウ。
お前、体の調子はもう良いのか?
骨とかボキボキに砕けてたらしいじゃねーか。」
「そうなんですよ。
もう粉々すぎて粉末みたいだったんですから。」
ウララが主語が骨とは思えないような単語で同意してくる。
「良くわかんないけどさ、今こうしてるってことは、大丈夫だったんでしょ?
きっと、ウララとこの宝石のお陰ね。」
グロウが他人事のように言う。
宝石の効果ってそんなのなんだろうか?
だとすると、使える機会ほとんどねーよな。
つーか、ゴミだと思う。
登録名:グロウ・ホワイトの所持している『赤い宝石の胸当て』の効果は、魔法攻撃力の上昇です。
ダメージ軽減効果はありません。
…だろうな。
元が指輪なんだし、攻撃系の効果だと思ってたんだよな…。
それにしても、俺達が後ろでわいわい騒いでいるのに、なんちゃって執事は全く後ろを気にする素振りも見せず、淡々と目的地に案内している。
話しかけてきたりもしないので、逆に気になる。
「なぁ、今ギルドではどれくらい人間が働いてるんだ?」
俺は誰に言うでもなく、そう聞いてみた。
「ギルドメンバーは30人が上限ッスよ。
上限までメンバーが登録されているか知らないッスけどね。
ちなみに、私のメンバーIDは127ッス。
それと、職員数は全く知らないッス。」
答えたのはエリカだった。
メンバー上限が30なのに127って完全に溢れてんじゃねーか。
いっぱい欠番があるってことなのか?
「ちなみに、職員の数はおよそ50人でございます。」
なんちゃって執事がフォローする。
よし、しゃべらせてやったぜ。
だが、俺が想像していたよりも意外と少なかった。
まぁ、普通に考えるとギルメンの稼ぎで50人も賄うのは大変だろうしな。
もしかしたら、他の収入源もあるのかもしれないな。
「一応、ヨコハマ駅に住む人から住民税は頂いておりますが、それほど大きな金額ではありません。
ちなみに一律で年間で12
つまり、投げクナイ1本と投げナイフ2本分か。
今まで投げた風魔手裏剣の事を考えると、悲しくなってくるな…。
「そう言えば、今、一年当たりって言ってたけど、今までどうやって時間を計測してたんだ?」
「簡単に言いますと、砂時計で計測しております。
錬金術を使うことの出来るアルケミスト達におおよそ1日が計測できる砂時計の作成を依頼し、それで計測しております。」
なるほど、そうだったのか。
何か世の中には体感で10秒ピッタリが分かるやつがいるもんな。
それをもとに時間を計測すればだいたい分かるって訳か。
普通、体感で10秒を計測するとだいたい9秒から11秒の間くらいに収まるから、1日当たり、狂ってもプラスマイナス2.4時間か…。
…うん、まぁまぁな誤差だな。
「ですが、その砂時計についてもつい最近、誤差修正が行えるようになりまして…。
おっと、これ以上は私からではなく会談の際に…。」
そう言うとなんちゃって執事は再び口を閉ざしてしまった。
そうこうしているうちに、エメラルド地下街を抜け、俺達は巨大なホテルの前に立っていた。
このホテルの中に、目的の場所があるらしい。
なんちゃって執事が促すまま、俺達はそのホテルの中へと足を踏み入れるのだった。
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