041話 もんしょう
ヨコハマ中央郵便局を出た。
入ったときは人間3人と妖精1匹だった気がするが、出るときにはモンスターが2匹増えていた。
「その、可愛らしい妖精をさっきまで忘れていたのは誰でしたっけ?」
漸く少し喋れるようになったグロウが【盗聴】で俺の思考を読んでそう言った。
あれ?でも待てよ、そう言えばダンジョンに入る前は装備が増えて活躍するとかなんとか言っていた様な…。
あいつ途中から寝てるだけじゃなかったか?
「そ、それは…忘れたままでいいんじゃないかしら。」
やはり【盗聴】で俺の思考を読んだグロウが言う。
「あの宝石、たしか全部で850
俺が突然そんなことを言い出したので、残りの4人も食いつき、思い思いに会話に参加してきた。
これだけ多いと、俺にはもう収集することはできない。
と言うか、する気もない。
俺は話が落ち着くまでしばらく放置して聞いているだけだった。
あと、もう面倒だから、リズもアリスも数えるときの単位は『人』でいいや。
人間になりたいみたいだし。
会話が少し落ち着いたのを見計らって、俺は口を開いた。
「そう言えば、この後どうするんだ?」
俺はエメラルド地下街で錬金所に行ってみるつもりだった。
だが、別に急いでいるわけでもないし、グロウがまだ全快ではないので一応みんなに聞いてみることにした。
「あだじは、しばらぐ
まぁ、リズはまだセーフティエリアには入れないだろうからな。
「おぅ、分かった。
わかっていると思うが、人間を襲うなよ。」
「ばぃ。わがりまじだ」
「あたしは、あんたたちについていくぜ。
どうせそのうち、他の幹部連中に殴り込みに行くんだろ?
案内しないといけねーしな。」
金髪美少女ヤンキーのアリスは特に目的地があるわけではないようだ。
グロウは…。
寝ているようだ。
そっおしておこう。
そんな時、おずおずと手を挙げてきたのは、エリカだった。
おかしいな、普段ならもっとウザい感じでくるのに。
「あの…。
ちょっと行っておきたい所があるんスけど、いいッスか?」
「あぁ、いいぞ。何処だ?」
「それがあの…また、入管手続き窓口なんス。」
「え?さっき行ったばっかだろ?」
結構時間が経った気がするが、ルミやソラと分かれてまだ半日も経っていない。
何があったと言うのだろうか。
「それが…その…【紋章】が昇格しちゃったみたいで……。
一応確認してもらいたいんスよ。」
え?
なにそれ、初耳なんだけど。
俺のところに通知来てないぞ!
登録名:アイザワ アツシは、登録名:エトウ エリカ及び登録名:ウエノ ウララの昇格時に離れた場所にいたため通知されませんでした。
ふーん………え?
ウララも???
「あれ?ウララもなの?」
「あ、はい。実はそうなんです。
アツシに何も言わなくてすみません。」
ウララが申し訳なさそうに頭を下げる。
「あだじどしゃべっでるどぎに、何かぞぅいっでだ。」
お前にも聞こえるのかよ!
どうなってるんだ。
半径20m内にいる全員に通知します。
登録名:エリザベスは言語理解が出来る存在だったため、聞き取れたのだと判断します。
…まぁ、一応理にはかなってるな。
と言うか、リズってエリザベスの略だったのか。
…知らなかった。
「よし、分かった!
じゃあ、また行ってみようぜ!」
俺達は、もう何度目かの、入管窓口に向かう事にした。
―――
行きに通った関所には、まだ同じ守衛のおっさんずが立っていた。
守衛Aが、階段から降りてくる俺たちの様子を見て、畏まる。
「アイザワさん、ご苦労様であります!」
あれ?何か行きと雰囲気が違う。
何があったのだろうか。
「あれ、どうしたんスか?
何か雰囲気変わったッスね。」
エリカが俺の代わりに聞いてくれた。
「いや、先ほどギルドの方から通達があって、アイザワさんとその一行の皆様には最大限の敬意を払えと言われましたので…。」
何かちょっと歯切れが悪い。
要は怒られたと言うことだろう。
「アイザワさん、先ほどは申し訳ありませんでした。」
自分の三倍くらいの年のおじさんに頭を下げられて少し申し訳なくなった俺は、言った。
「あぁ、それについてはお互い様だし良いよ。
俺も上手に敬語使えないしさ。
だから、なるべく今まで通りで頼むよ。」
分かったんだか、わからないんだか、守衛Aのおっさんは頷いた。
一方、守衛Bのおじいちゃんは、
「そう言えば、行きにいなかった子がおるようじゃが、その子はどうしたんだい?」
と、言ってきた。
要は、分かったと言うことだと判断し、
「避難し遅れた子が居たから救出してきた。」
ということにしておいた。
下手にボスだとバラすよりは良いだろう。
それを察したのか、アリスは何も言わなかった。
黙っていれば人形のようで可愛いらしいのだが、喋ると柄が悪いのがバレてしまう。
せめて人前だけでも取り繕わなければ…。
そう思っていると、睨まれた。
あ、もしかしたら、こいつも【盗聴】持ちかもしれない。
あれ、そう言えば…。
俺は冷静になって辺りを見渡した。
すると、俺以外が全員美少女だった…。
やべぇ、これ、タグに偽りありってやつだ…。
俺は心の中で暗い夜道に気を付けよう…と思うのだった。
…まぁ、この世界には暗い夜道なんか無いんだけどな。
―――
百貨店の地下2階には、相変わらずルミとソラしか居なかった。
「あら、アイザワさん。また来たの?
何か忘れ物?」
ルミが言う。
まぁ、何度も来ているとそう言うとリアクションになるよな。
「あ、違うんだ。今回はこの二人が…。」
そう言って、俺はエリカとウララを押し出した。
「あの…実は特殊な【紋章】に昇格してしまいまして、再登録をしておこうかと思って…。」
ウララが申し訳なさそうに説明する。
「えっと…その…特殊な…と言うのは、アイザワさんやグロウちゃんみたいな……と言うことですか?」
ソラが訊ねる。
「あ、そうッス。
私が【
必要だったら、アナウンスさんにアナウンスしてもらうッスけど…。」
エリカが答えると
「大丈夫よ、今さらあなたたちを疑ったりはしないわ。」
ルミが申し訳なさそうに言う。
まだ、前回のことを気にしているのかもしれない。
「えっと…じゃあ…前回と変わっていないか…見せてもらってもいいですか?」
ソラが台帳を持ってエリカに近づく。
「あの、アイザワさん、ごめんなさいね。
終わるまで少し離れたところで待ってもらってもいいかしら?」
ルミがそう言うので、俺は百貨店の外まで行くことにした。
確かに【紋章】は人によって場所が違うからな…。
際どいところに【紋章】がある人もいるだろう。
いくらパーティーとは言え、男である俺に紋章は見せ辛いよな。
…と言うか、際どいところって何処だろう。
健全な青少年である俺は暫くあの二人をまともに見れないような妄想を膨らませるのだった…。
「てめー、最低だな。鼻の下伸びてんぞ。」
俺の顔を見上げながら、アリスがそう言った。
あ、やっぱりこいつ持っていやがったか。
今ので確定である。
あれ、そう言えば、百貨店の時、アリスいたっけ?
「仕方ないだろう?締め出す方が悪い。
それよりも、お前、さっき百貨店の中で透明になってなかったか?」
「透明にはなってねーけど、認識されないようにするスキル使って隠れてた。
バレると面倒くさそうだったからな。
おっさんはともかく、女は根掘り葉掘り聞いてきやがるしな。」
アリスがそう言うのだから、そう言うもんなのかもな…。
まぁ、口は相変わらずめっちゃ悪いな。
あ、これからはアリスの発言には通販番組みたいに、『個人の意見です』ってつけとくか。
「その『個人』は作者の事だろう?」
おい、止めろ。
作者なんかいない。
俺はキッと睨み付ける。
「ちっ、分かったよ。」
アリスがそう言ったと思った瞬間、また姿が見えなくなった。
何か、認識されなくなるスキルやベーな。
今まで喋ってたのにわかんなくなったぞ?
でも、なんでフシギビルのダンジョンで使ってなかったんだろう。
使われてたら見つけらなかった自信がある。
そんなことを考えていたら、エリカが俺を呼びに来た。
「お待たせしたッス!
ちょっと来てほしいッスよ!」
俺は極力平静にエリカの後を追った。
少しだけ前屈みだったのは、気のせいだ。
気のせいだから、気にするな!
「アイザワさん、お待たせしてしまってごめんなさいね。」
ルミが言う。
「えっと…【紋章】なんですが…結論だけ言うと…バーコードには変化はありませんでした。」
ソラが続けて説明した。
「つまり、どう言うことなんだ?」
「恐らくなんですが、私たちの個人情報はこのバーコードを読み込んだ先に保存されていると思うんです。」
ウララが言った。
なんだよ、サーバーみたいなのがないとそんなの管理できないだろ…。
…あ……あるのか…。
「私には良くわからないんだけど、きっとデータを登録できる何らかの存在があるんでしょうね。
現代社会にあるクラウドサーバーみたいなものかしら?」
ルミがそう言った。
そう言えば、『空の回廊』は文字通り雲の上に繋がっていた。
その先に風の守護者がいるのであれば、そこに俺たちの個人情報を記録する施設があってもおかしくないかもしれない。
もっとも、違う場所かもしれないが…。
とにかく、この【紋章】自体に全てが記録されているわけではないと言うことが分かったのは、新しい気付きなのかもしれないと、俺達は頷きあった。
ただ一人、エリカを除いて…。
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