040話 にんげんっていいな
アツシが飛び出した後エリカちゃんと少し話して、グロウちゃんをモンスターの手が届かないであろう位置に横にすると、私は少し離れた位置からエリカちゃんのナイフにホーリーライトをエンチャントし続けていた。
エンチャントと言うのは、武器に属性を付与したりすることを言うらしい…良くわかってないけど…。
四大属性じゃないので本来は付加できないとかなんとかと、さっきアナウンスさんに怒られたりもしたが、そのお陰でアクションスキルの【エンチャント LV1】を私は獲得していた。
私がリズとの戦闘に参加してから20分と少し経った頃、エリカちゃんのところにアツシから【
エリカちゃんが、リズを捕まえながら
「アツシがキャサリンを倒したらしいッスよ。
今からキャサリンを連れて戻って来るそうッス。」
と言うので、私も慌ててリズの反対の手を掴みながら言った。
「何か、思ったよりも早かったね。
さすがアツシ。」
その後もエリカちゃんはアツシと二人で話をしていて、私は少し蚊帳の外みたいになっていた。
話に夢中なエリカちゃんは、通話しながらリズの手を軽く掴んでいただけだったのに、リズに全く抵抗すらされていなかった。
勝てないと思って諦めてしまったのかもしれない。
確かに今日のエリカちゃんの動きはそう思わせるのも納得だった。
どう頑張っても私一人の力ではリズを倒すことは出来なかっただろうから、今日ほどエリカちゃんが頼もしいと思えた日はなかった。
すっかり毒気を抜かれて、捕まったグレイみたいになっているリズが、ナチュラルに会話に参加してきた。
なんか、凄いメンタル。
「ぎゃざりんがごごにぐるの?」
それに、友達と話すような感じでさらっと返すエリカちゃん。
「そうッスよ。そしたらリズ、あなたもおしまいッスよ。」
「あー、ぞぅ。
でも、ごれであだじもぜがいのいぢぶに戻れるわげね。」
落ち込むのかと思ったら、案外スッキリした感じでリズが答える。
「リズ、世界の一部って何?」
それにつられて私もつい、話に参加してしまう。
これじゃまるで女子会……と言うよりは井戸端会議かな?
「あなだだぢ、だおざれだもんずだーが、げむりになっだあどどうなっでいるのががんがえだこどないの?」
リズが少し気になることを聞いてきた。
「んー、ないッスね。」
それに、エリカちゃんは全く考えずに返す。
内心、『ちょっとは考えてあげて!』と突っ込んでしまった。
その答えに唖然としたリズは少し沈黙した。
その後、必死に会話を戻しているのを見て、少し可愛そうになった。
「…………。ぞ、ぞぅ。
だおざれだあど、ごのぜがいのぐぅぎどいっじょになるのよ。
ぞれば、ぜがぃどいっだぃがずるのど同じでじょ?
あなだだぢ人間や、あだじのようなぼずもんずだーだげが、そのるーるがらばずれでいるのよ。
ごればのろぃど同じだわ。」
呪い…か。
確かに私たちは、モンスターに倒されたとしても、煙になった後は最後に登録した場所に戻って来る。
少し記憶を失いはするが、それでも同じ人間の状態で戻ることが出来る。
考えてみると、レヴァナントも私たちもそこにはそんなに差がないのかもしれない。
私は今まで、それを『呪い』だとは考えてはいなかった。
だけど確かに、輪廻転生から外れた存在になっている。
そもそもこの世界自体がかなり普通ではないのだけど…。
それを普通にするには、『原因』を排除するしかないのではないのだろうか。
私が考え付く範囲では、多分それは…『風の守護者』な気がする。
「呪い…ですか。
確かに、死んでも戻って来ると言う意味では私たちもあなたたちレヴァナントも同じかもしれないですね。
だけど、呪いだったとしても、私たちが必ずそれを解いてみせるわ!
あなたのボスである風の守護者を倒してね!」
「ぞぅ。ありがどぅ。
あなだ、いいびどね。
せっがぐだがら、お名前をぎぃでもいいがじら?」
私の発言に興味を持ったらしいリズが私の名前を聞いてきた。
少し嫌だったけど、断るのも何か変な感じなので答えた。
「ウララ。ウエノ ウララよ。」
「あだじが悪いもんずだーじゃなげればおどもだぢになれだがじら?」
少し上目遣いになりながら、 リズが訊ねてくる。
私はハッキリと断るのが嫌で、
「どうかしらね?
でも、あなたがきちんと罪を償って魂を浄化した後なら、もしかしたらお友達になれる日が来るかも知れないわね。」
と、言ってみた。
そして、自己嫌悪する。
誰に対しても、良い格好をしたがる自分に。
私はズルくて嫌な女だ。
それに比べてエリカちゃんは凄い。
今日だけで、レヴァナントのリズを5回も倒している。
決断が早く、思いきりが良い。
私はいつもぐずぐず悩んでしまうのに。
エリカちゃんには強くなる為の資質と、それを生かすだけの才能がある。
私はそんな彼女が羨ましかった。
でもそれと同時に、そんな彼女をサポート出来ることが誇らしかった。
彼女の隣で二人で強くなっていこう。
そう、思った。
その時、またアナウンスが鳴り響いた。
承認しました。
ウエノ ウララの紋章を【
また、エトウ エリカの紋章を【
私は訳がわからずに、エリカちゃんの方を見た。
すると、エリカちゃんも私を見ていた。
視線が重なって少しした後、急激に【紋章】の位置が痛んだ。
私はリズを掴んでいた方ではない手で、その場所を無意識に押さえていた。
…私の【紋章】は左太ももの付け根から15cmくらい下の場所にあり、正面よりも少しだけ左側の位置にあった。
―――
俺は、何故かアリスと共に中央郵便局に向かっていた。
やっぱり少し納得がいかない。
そう言えば、アリスからはあの黒い霧の様なものがもう出ていなかった。
「そう言えば、お前、あの霧はもうでないのか?」
「あぁ、あれな。
出してねーだけだっつーの。
あたしくらいのレヴァナント上位者になると、制御できんだよ。」
「ふーん、そうか。」
俺は聞き流した。
「あ、てめー、今、適当に流しやがったな!
この状態だったらてめーらのセーフティエリアとか言うところにも入れんだぞ!
攻撃とか何もできなくなるけど……。」
アリスが何やら聞き捨てのならないことを言う。
「……は?え?マジで?」
…って言うか、最後、ちょっと危ないこと言ってなかったか?
「リズはまだそこまで制御出来ないだろうけどな。
何なら、風の守護者の他の幹部の場所まで案内してやっても良いぜ!
その代わり、一個条件がある。」
「え?マジか!それは助かる。
条件って、急に『悪魔の契約』的なもん持ち出してきたな。」
「いや、別にそんなに難しいもんじゃねーよ。多分。
あたし、人間になりたいんだ。
手伝ってくれよ。」
意外なことを言うアリスに、俺は真顔になった。
「どうすればなれんだよ。」
「………わかんない。」
だが、肝心の方法は知らないらしい。
「わかんなければ手伝いようがないだろ?」
「…だよな。わりぃ、忘れてくれ。」
少し寂しそうにするアリス。
「何か調子狂うんだよな、お前。
分かったよ、出来る範囲で手伝うよ。
お前が悪いことをしないって言うならな。」
俺は、アリスの『条件』を『条件付き』で受け入れた。
「お、おぅ!わかった!」
アリスは一瞬だげ嬉しそうな顔押して、またいつもの表情に戻った。
そして、俺に顔を見せないように走って郵便局の方へ向かった。
居ても立ってもいられなかったのだろう。
もしくは、素直に喜ぶのが恥ずかしいのだろうか?
俺は、アリスが20m以上離れたのを確認してアナウンスに聞いてみた。
どうすればアリスは人間になれるのかを。
すると…。
わかりません。
ただし、人間には腐敗していない体と浄化された魂が必要不可欠です。
アリスにはそのどちらか、あるいは両方が不足しています。
なるほど。魂の浄化は俺には難しいが、腐敗していない体と言うのは俺にも手伝えるかもしれない。
錬金所当たりで聞いてみても良いかもしれない。
そう、思うのだった。
―――
俺が郵便局に戻ると、エリカとウララが間にリズを挟んで仲良く手を繋いでいた。
それだけじゃなく、その状態で三人で会話していた。
あれ?めっちゃ和んでんじゃん。
俺がいない間に何があったのだろうか。
そこにアリスが近づいていって、リズに説教をし始めた。
「リズ、てめー、また腐敗が進んでんじゃねーか。
もっとしっかりしろよ!」
アリスの話では、体は心がしっかりしていないとすぐに腐敗してしまうのだそうだ。
逆に言うと、しっかりしていさえすれば、元に戻るのだそうだ。
何か、めっちゃ便利じゃん。
「うぅ、ぎゃざりん、ごめんなざぃ。」
リズがそう言ってアリスに頭を下げる。
それから、アリスが今度はエリカとウララに向かって頭を下げる。
「リズのせいですまない。
あんたたちの仲間を傷つけちまったんだろう?
こいつ、根は悪いやつじゃないんだけど、おつむがモンスター抜けきれてなくてな……要はバカなんだよ。
謝っても許されることじゃないのはわかってるが…。」
「実は、その事について先ほどお話ししていたんです。」
そう言ったのはウララだった。
「このままリズを消し去るのではなく、別の方法を探したいんです。
ダメでしょうか?」
そう、アリスに言う。
「あだじ、人間になりだぃの。」
リズも真剣だ。
「リズ、あんたもそうだったのか。
実は、あたしも人間になりたいんだ。
だけど、リズ、あんたもせめてセーフティエリアに入れるようになるくらいはならねーとな。」
「「えっ!?」」
ウララとエリカが同時に声をあげる。
やっぱりそうなるよな。
「俺もさっき聞いて驚いたんだが、アリスはセーフティエリアにも入れるらしいんだ。
それで、風の守護者の他の幹部のところまで案内してくれるらしいんだ。
アリスが人間になるのを手伝えば、だけどな。」
「それは、探す暇が省けるッスね!」
エリカが言う。
「どごろで、ありずっでだぁれ?」
リズが訊ねる。
「あ?あたしだよ。」
半ギレのアリスが答える。
「えっ!?ぎゃざりん、なんで?」
動揺するリズ。
「てめーのつけた名前が気に入らねーからだよ!」
「ぞ、ぞんな…。」
リズがショックを受けている中、とりあえずヨコハマ中央郵便局ダンジョンは一応?クリアとなった。
アナウンスもそれで良いと言ってくれた。
「まぁ、一人手伝うのも、二人手伝うのも一緒だからな。」
俺はそう言って、良い話風におさめようとした。
「あたしも連れてってー。」
背後でピンクに発光する何かがそう言っているのに暫く誰も気がつかなかった。
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