039話 しょうかく

俺はこの世界に来て初めての単独行動をしていた。

目的は戻って来る者レヴァナントのキャサリンを葬り去るためだ。


だが、ヨコハマ中央郵便局の裏に建物なんかあっただろうか?

不安になりながら、郵便局とヨコハマ駅の間にある、通称SAGA鉄口へと向かう細い通路に飛び込んだ。

普段から人通りの少ないその通路は時間が止まっているのかそうでないのか分からないくらいに普段通り……つまり、人気がなかった。


道なりに進むとその建物は突然現れた。


「ここか。」


俺は呟いた。


―――


「アツシ、凄く怒ってたね。」


2回目のリズを倒し終えると、ウララちゃんが話しかけてきた。


「グロウちゃんの様子はどうッスか?」


私はウララちゃんに訊ねる。


「あ、うん、多分もう大丈夫だと思うよ。」


「そっか。良かったッス。

それよりも、次は私達だけでリズを倒さなきゃなんスよね。」


私は少し不安を漏らす。

既に2回リズを倒しているというのに、どうしてこんなに不安になるのだろうか。


「そうだね。ちょっとドキドキしてきた。

でも、アツシに任せられたから頑張るよ!」


どうやら、ウララちゃんも同じ様に緊張していたらしい。

そっか、私だけが緊張しているわけじゃないんだ。

ウララちゃんがいれば…一人じゃなければきっと大丈夫!


「ウララちゃん!一緒に頑張ろうね!」


私はそう声をかけるのだった。


―――


人気のない通路に突如として現れたのはアトラクション然とした不思議な建物だった。

そうか、これがフシギビルと言うやつか。

最近出来たらしいと言うことと、名前以外は、詳しく知らなかったが、最近流行っているナゾトキが楽しめる施設らしい。

もっとも、オブジェクト化しているので今は無理なのだが…。


まるで入ってこいと言わんばかりに、入り口の扉が黄緑色に輝いている。

俺はふっと、短く息を吐くと、頬を両手で叩く。


「よし、行くか。」


俺は扉の前に立った。

……ここも手動だった。


入るとすぐに階段がある。

これで一気に4階まで行けそうだ。

俺は一気に階段を駆け上がった。


駆け上がった4階はまだ改装中だった。

オープンに間に合わなかったのだろうか?

だが、なるほど、これなら潜むのにもうってつけと言う訳だ。


おそらくだが、キャサリンの方がリズよりも頭が切れるタイプなのだろう。

リズを上手く利用して、自分は安全なところで身を守っている。

いけすかないヤツだが、それだけに厄介かもしれない。


他の階を見ていなかったので比較することは出来ないが、ここも郵便局内のように薄暗かった。

もっとも、改装中なので元々そうなのかもしれないが…。


話は変わるが、一つ嬉しい誤算があった。

巻物スクロールを補充しようと魔法屋を覗くと聖光の巻物ホーリーライトが追加されていた。

魔法屋のレベルアップ以外でも、誰かに魔法を詰めて貰ったりすると、それが購入出来るようになるらしい。

と言うか、魔法屋、めちゃめちゃ都合が良いな。


このフロアもスケルトンやらゴーストやらレイスやらキョンシーやらが湧きまくっていて、捜索以前に、ただ進むのもはかなり大変だった。


一方通行ではないため、進んだ先が行き止まりだと言うことも何度もあった。

そして、当たり前だが行きはもちろんだが引き返す時にもまた戦闘になるのだ。

それを何度も繰り返すと、歩き回らずに簡単にボスが探せれば良いのに…と、思うようになってくるが、そんなに都合良くボスが探せたら、ダンジョンなんか意味が無い。


歩き回ること十数分、ヨコハマ中央郵便局に比べて移動できるエリアが広いお陰で少し苦労したが、ようやくそれらしいヤツを発見することが出来た。


フランス人形のような金髪に青いドレスを着た小さな女の子の幽霊だった。

てっきりリズのような真っ黒な衣装の同型の幽霊だと思っていたので、少し肩透かしを喰らった気分だ。


「お前がキャサリンか?」


「なに?あんた。」


明らかに不機嫌そうな態度で金髪美少女らしからぬしゃべり方をする幽霊が答えた。


「俺は、アイザワ アツシだ。

お前を倒しに来た。」


「はぁー。マジ、チョーうぜー。」


いつの時代のギャルだよ。

俺は違う意味で目眩を覚える。


「で、お前がキャサリンなのか?」


俺はもう一度訊ねる。


「あたしをキャサリンとかクソダセー名前で呼ぶんじゃねーよ。

あたしは亞璃朱アリスってんだ。

リズのセンスのなさには呆れ返ってんだよ。

な?わかんだろ?」


ギャルを通り越して暴走族の様な名乗りをする元キャサリンのアリスが俺に同意を求めてくる。

俺に言わせれば、どっちもどっちだ。

と言うか、色々面倒なので、金髪ヤンキー娘とかにしてくれた方がまだ助かる。


「そんなのは知らん。

俺はお前を倒さないとリズが何度も復活するから倒しに来ただけだ。」


「はぁ。あんた、マジでそんなこと信じてんの?

別にあたしを倒さなくてもリズは倒せんだけど?」


「どういう意味だ?」


「リズのオーラを浄化すれば良いだけだっつーの。

ほら、こう言う黒い霧みたいなやつ。」


そう言ってアリスは自分が放つ霧を指差す。


「そうか。分かった。」


俺は聖光の巻物ホーリーライトを二つ取り出し、合成すると、アリスに対して投擲した。


『簡易合成魔法ホーリー・クロス』だ。

多分そろそろ気付いていると思うが、EOにも簡易合成魔法なんてものはない。

俺が勝手にそう言っているだけだ。

まぁ、効果は実際に合成出来てるからいいんんだけどな。


「ちょっと、あんた!なにすんだよ!やめろって!」


アリスは突っ込みながら光の粒子にのまれ浄化されていっ………あれ?


「お前、何で無事なんだよ!」


浄化されたかと思った次の瞬間、新しいアリスが現れた。

俺は呆れてツッコミをいれる。


「ばか!無事じゃねーよ!

てめーのせいで一機失っちまったじゃねーか。」


アリスは地団駄を踏みながら怒っている。

悔しがりかたが、まるで子供だ。

見た目もそれっぽいので見方によっては可愛らしくもある。

…だが……言葉使いはまるでヤンキーだ。


「…シューティングゲームかよ!」


2度目のツッコミをいれる俺。


「あーもう、一機増やすのにどんだけ時間かかると思ってんだよ!」


「知らねーよ…。」


「まぁ、でも、これでもう一回リズを倒せば、あんたの希望はクリアーだな。」


「はぁ?どういう事だよ?」


「忘れたのかよ。

自分で言ったんだろ?

あたしを倒しに来たって。

それで今、あたしを倒しただろ?」


…いや、お前は倒れてねーだろ。


「だから、最後にもう一回リズを倒せば良いってことだよ。

じゃあ、その様子を見に行こうか。」


…え?

お前、ここを守ってたんじゃねーの?

あ、守ってたやつは倒したのか…?

良くわからんが、とりあえず、気負っていた分、急に疲れた気がした。


―――


「アツシがキャサリンを倒したらしいッスよ。

今からキャサリンを連れて戻って来るそうッス。」


思念伝達コミュニケーション】でアツシが連絡をしてきた。

何故かとても疲れた声をしていた。

キャサリンが実は亞璃朱アリスとか言うヤンキーで、それを倒したから連れてくると言っていたが、私には全然理解が出来なかった。


リズとはあの後3回くらい戦っていたが、アツシの話だとどうやら次が最後らしい。

最後は、アツシの連れてくるアリスと言う名のキャサリンも見たいらしく、私とウララちゃんでリズを取り押さえているところだった。


馴れと言うのは恐ろしいもので、もうリズには恐怖を覚えなくなっていた。

そうだなー、喋るザコに成り下がった感じ?

昔皆で戦ったサーベルタイガーの方が全然強かった気がする。

ウララちゃんもそんな感じらしく、捕らえたリズを挟んで雑談出来るようになっていた。


「何か、思ったよりも早かったね。

さすがアツシ。」


「ぎゃざりんがごごにぐるの?」


「そうッスよ。そしたらリズ、あなたもおしまいッスよ。」


「あー、ぞぅ。

でも、ごれであだじもぜがいのいぢぶに戻れるわげね。」


「リズ、世界の一部って何?」


「あなだだぢ、だおざれだもんずだーが、げむりになっだあどどうなっでいるのががんがえだこどないの?」


「んー、ないッスね。」


「…………。ぞ、ぞぅ。

だおざれだあど、ごのぜがいのぐぅぎどいっじょになるのよ。

ぞれば、ぜがぃどいっだぃがずるのど同じでじょ?

あなだだぢ人間や、あだじのようなぼずもんずだーだげが、そのるーるがらばずれでいるのよ。

ごればのろぃど同じだわ。」


リズとは思えないような事を言う。

もしかすると、リズは誰かに倒して欲しかったのだろうか…と、少し思ってしまった。

そんな訳ないか…。

倒される覚悟が出来た時に、そう思い至っただけだろう。


「呪い…ですか。

確かに、死んでも戻って来ると言う意味では私たちもあなたたちレヴァナントも同じかもしれないですね。

だけど、呪いだったとしても、私たちが必ずそれを解いてみせるわ!

あなたのボスである風の守護者を倒してね!」


「ぞぅ。ありがどぅ。

あなだ、いいびどね。

せっがぐだがら、お名前をぎぃでもいいがじら?」


「ウララ。ウエノ ウララよ。」


「あだじが悪いもんずだーじゃなげればおどもだぢになれだがじら?」


「どうかしらね?

でも、あなたがきちんと罪を償って魂を浄化した後なら、もしかしたらお友達になれる日が来るかも知れないわね。」


私は途中から話についていけずにただただ聞いていることしか出来なかった。

モンスターが世界の一部?

魂の浄化?

ダメだ、考えるだけで眠くなってくる。

でも、一つ考えてみたことがあった。

それはウララちゃんって、アコライトと言うよりエクソシストとかプリーストの方が向いてる気がする…と言うことだった。

多分、私では倒すことは出来ても救うことは出来ない。

きっと、ウララちゃんにはそれが出来る気がする……そう、思った時だった。


突然、アナウンスが鳴り響いた。


 承認しました。

 ウエノ ウララの紋章を【女教皇ハイプリースティス】に昇格致しました。


 また、エトウ エリカの紋章を【魔術師マジシャン】に昇格致しました。


私は突然の出来事に驚き、ウララちゃんと顔を合わせた。

その後、左肩にある【紋章】が 鈍く痛むのを我慢するように、捕まえているリズの手を強く握るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る