035話 かぎ

結局、ジェットの事だけでは収まりがつかず、10階から降りてくる話を全部することになってしまった。


それで分かったことなのだが、やっぱり俺とグロウが攻略したダンジョンは他の四人が攻略したものとは大きく違っていたそうだ。


まず、各階毎のボス戦自体が無かったらしい。

基本的には、俺達が行きの1階で戦ったようなコボルト達が主体で、それすらまぁまぁの激戦だったと言っていた。

そして5階で下級職を選択するイベントが発生し、全員が何らかの職業を選択する。

その後、1階でボスのリザードマンとオーク2体を倒す。

それから、地下1階で例のあのイベントだ。

そこだけは唯一同じだったようだ。


道理でボスらしいやつが現れなかったわけだ。


結局どうしてこんなに違いがあったのかは分からなかった。

取り敢えず、俺達の直前にクリアしたらしいサエグサと言う人に話を聞いてみることにした。


「だけど、残念なことにもう一週間以上も前でしょう?

今、どこで何をしているのかまでは分からないのよ。」


ルミが嘆く。


「えっと…、ギルド職員には…話をしておきますので、何か分かったら…連絡します。」


ソラはそう言ってペンを走らせる。

何かをメモっているようだ。


そのまま立ち去ろうとして、俺は肝心なことを忘れていたことを思い出した。

…まだ、入管手続きやってない!


「あ、ごめんなさいね。」


ルミはそう言うと、俺の首筋に何かを当てる。

どうやらそれで【紋章】のバーコードが写し取れるのだそうだ。

良くわからんが、すごく便利だ。


…理屈がわからんが、凄いな。

驚く以外に出来る事がなかった。


「まぁ、使っている私たちも良くわかってないんだけどね。」


ルミが舌をペロッと出しておどけて見せた。


だが、さすがにグロウのサイズ無いらしく、ソラが書き写している。

驚くべきことに、手で写し取っているとは思えないほどの精密さだった。


「あ、えっと、私、こう言うの得意なんです…。」


そう言いながら、ものの一分で写し取ってしまった。

俺は、ソラが写し終えたのを確認して話しかけた。


「この台帳って何のために録ってるんだ?」


「えっと…大きな目的としては、身分証明…ですね。

裁判でも…使われています…。

それと…記憶の更新です。

この台帳に…記録しておくと、最後にこのセーフティエリアに到着したときの記憶が保存できるんです。

私にも…仕組みは良くわかりませんが…。

ゲームをやる人だったらわかると思いますが…、オートセーブができるポイントを作成するイメージです。」


ソラが説明を、珍しくエリカが引き継ぐ。


「戦闘でやられちゃうと、煙になっちゃうじゃないッスか。

やられあと、最後に記録した場所に自動的に戻って復活するんスけど、その時に記憶も戻っちゃうんスよ。

要はそのバックアップッス。」


なるほど。

俺の場合はセーブがなくてもその日の最初の時点に戻れるが、そうではない職業の人はそう言う地道な苦労が必要と言うわけか。


俺は、ルミとソラに礼を言って、その場を後にした。


―――


「この四人で行動するのも久しぶりですね。

足を引っ張りそうで心配ですが、頑張ります!」


ウララが気合いをいれている。


「でも、アツシ達のさっきの話を聞いてると、中央郵便局のボス位なら、今でも倒せそうじゃないッスか?」


エリカは、自分が瞬殺されると言ったボスをすでに雑魚扱いしている。

さすがに何人もフォローしながらの戦闘は難しいと思うのだが、そう言われると何だかやれそうな気がしてくるから怖い。


まだあと2日半位は【ゲームは一日一時間】が使えないので、あまり危険は犯したくないところではある…が、サエグサと言う人も見つからない以上、何かしていないと暇をもて余してしまう。


「なぁ、グロウ!」


「嫌よ!」


「わかったよ、じゃあ、行くか!」


「全然分かってないじゃない。」


「あの、アツシ、行くって何処にですか?」


「え?郵便局だけど?」


「やる気になったッスね。」


「もう、あたしはオブジェクト化は二個までしか同時に出来ないのよ?」


「あぁ、そうだったな。

多分なんとかなるだろう。」


「だったら、その前にアトロップに寄っても良い?」


「なんの用があるんだ?」


「この間買って貰ったあの宝石をね嵌め込むヤツが売ってるのよ。」


「おまえ、それ知ってて欲しがったな。」


「チュートリアルダンジョンでは戦闘しかしてないから、少し位は羽根を伸ばしても良いでしょ?」


答えになっていないようなことを言いながら、グロウはスーっと飛んでいってしまう。

グロウを追って進むと、たどり着いたのはこの間顔見知りになったパーツ屋だった。


「おー、旦那!待ってやしたぜ!」


明らかに俺よりも年上のお兄さんが、手もみしながら寄ってきた。

正直、この店にあるものはスマホでいつでも買えるため、あまり興味がなかった。

が、この間と品揃えが少し違うように見えた。


「おっ、さすがは旦那!

前回からちょっと品揃えを強化したんでさー。」


確かに、以前にも増して何に使うのか分からないものの種類が増えている。

結局、言われるがままに色々と買わされてしまった。


後で確認したら、スマホのパーツ屋のレベルが2に上がっていた。


ちなみに、魔法屋のレベルも2、錬金所は1のまま変わらずで、実店舗を見たことの無い道具屋はレベルのところに-と記載されていた。

多分、レベルアップしない店なのだろう。


俺がそんなことをしている間も、グロウは自分の宝石の嵌め込み先を探していた。


「あれ?おっかしいなぁー。

前回見たときは欠けた宝石の指輪が売ってたんだけどなぁー」


「あら、お嬢ちゃん。…って、グロウか。

もしかするとお前さんの探してるのは、これかい?」


声に反応して振り返りながらパーツ屋のお兄さんが言う。

今の会話からも、グロウはあのお兄さんとも冒険をしていたようだ。

パーツ屋のお兄さんは店の奥から、宝石の部分が欠けている指輪を持ち出してきた。


「あら、良くわかったわね。

そうそう、これを探していたの!」


グロウが持っていた宝石を合わせてみると、ぴったりとくっついた。

どうやら間違いないようだ。

だけど、完成品の大きさから考えるとグロウの手には大きすぎると思うんだが…。

グロウにも何か考えがあるのだろう。

あの宝石だって、普段は何処かにしまっているし、俺の道具袋みたいなものがあるのかもしれない。


「旦那の連れだし、サービスでくっつけてやっても良いぜ!

購入代と合わせて500Kキロeteでどうだ?」


グロウが無言で俺を見つめる。


「ちっ、しょうがねーな。

分かったよ、買えば良いんだろ?買えば。

エリカとかウララは何か要らねーのか?

なんに使う素材か良くわかんねーのばっかりだけどな!」


「おっ!さすがは旦那だ!

旦那の連れなら、特別価格で何でも提供させて頂きやすぜ!」


パーツ屋のお兄さんも悪のりしている。

もしかすると、キジムナーの時もそうだったし、見た目が怖い人の方が良い人が多いのかもしれない。


お兄さんがそういってくれたお陰で、今まで遠巻きに見ているだけだったエリカとウララも、商品に興味を示し始めた。


エリカはガラス製っぽく見える透明な指輪を、ウララはキラキラしたアクリルっぽい欠片のようなものを欲しがった。


俺はそれらの代金を支払いながら、あることを思い出した。

俺は倉庫からあるアイテムを取り出し、お兄さんに見せてみる。


「旦那、これは何処で!?」


「あぁ、何か宝箱に入ってたんだけど、良くわかん無いんだよね。」


「なるほど、道理で。

こんなに純度の高いマテリアルは初めてでさぁー。」


あ、やっぱり想像した通り、何か知ってそうだ。


「お兄さんは、マテリアルって何かわかるのか?

これってどうやって使うものなんだ?」


「マテリアルって言っても、純度と大きさによってピンキリなんで、使い道は全然違うんですけどね……。

例えば、うちでも扱ってるこの低ランクのマテリアルの欠片は……。」


そういいながら、さっきのグロウの指輪に擦り付ける。

すると、傷口が修復され、綺麗にくっついた。


「この通り、小さなものを修復できるんでさぁー。

逆に言うと、この程度のマテリアルだとこういう使い方しかできないんですけどね…。」


俺が知らないうちに買わされていたものの一部は、低純度のマテリアルだったらしいことが分かった。

この店、実は意外と凄い店だったのかもしれない。


もう少し詳しく話を聞いたところ、マテリアルと言うのは『世界に干渉できるもの』の総称で、純度と大きさによって扱えるものが異なるのだそうだ。

俺の手に入れたマテリアルは、例えば、『異世界を繋ぐ扉』や『時間を動かす鍵』などのとんでもないものに干渉できるだけの力を持っているのではないかと言うことらしい。

実際にそう言うものがあるのかは分からないが…。


ちなみに、マテリアル自体は一部のモンスターが体内で生成することも出来るのだそうだ。

それを精製することによってある程度までは純度を高めることも出来るらしい。


これ以上は、錬金所の人の方が詳しいだろうと、お兄さんは完成した赤い宝石の指輪を手渡しながらそう言った。


指輪を受け取ったグロウはそれを宝石の部分が左の胸をガードするようにぴったりとはまるように、肩から斜めに掛けた。

さらに活性化して隙間を調整したらしく、元からそう言う防具であるかのように変形させる。


グロウは一個だけで850Kキロeteもする『赤い宝石の胸当て』を手にいれたのだった。

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