ギルド編
034話 あなうんす
エスカレーター前では、俺を除いた女性達……と、変な妖精が話に花を咲かせていた。
もちろん、話題の中心にいるのはその変な妖精のグロウだ。
「あぁー、本当にグロウちゃんったらかわいいわぁー。」
…あのー。
「ルミ程じゃないわよ。」
俺、見えてないのかな?
「グロウちゃんも言うようになったッスね!」
…もしもーし。
「あの、えっと…私も!…可愛いなぁって思ってました。」
……おーい、無視しないでー。
「私、ちゃんとグロウちゃんと話せるようになれて嬉しいです。」
主人公の人がほったらかされてますよー。
「あたしもウララがちゃんと『ちゃん』付けで呼んでくれるようになって嬉しいわ!」
2話前の盛り上がりはどこかに行ってしまったらしい。
いや、俺以外はまだ盛り上がってるか…。
そう言えば、微妙な変化だがグロウが人の名前を呼ぶようになった。
だからなんだって話だが…。
まぁ、グロウが何か色々な問題から解放されて喜ばしいのは分かる。
だからと言ってこんなに一生懸命アピールしているのに無視されるのは納得がいかない。
せっかくの黒一点?緑一点?を無下に扱わないで欲しい。
と、言うかいつの間にか俺の周りが女性キャラばっかりになっている気がする。
良くそんなんでハーレまないとか言えたな。
…まぁ、全然ハーレめてないけどさ…。
もう、この世界で俺に優しくしてくれるのは、アナウンスくらいしかいない!
な!そうだろう?
そのご要望にはお答えできません。
なんだよ。俺、主人公なのに…。
…はぁ、そんなもんだよ…。
多分、今までがちやほやされ過ぎだったんだ……。
と、思って膝を抱えて座り込んでいたら、意外な人物が俺に声をかけてきた。
「アツシ、何でこんなところで座り込んでるんスか?」
いや、意外でもないか。
て言うか、いつぞやと逆だな。
「お前らが全然相手にしてくれないからだよ。」
「相手にしてもらいたかったら話しかけないとダメッスよ!」
それは、確かにその通りだ。
アピールだけで相手にしてもらえると思っていた俺が傲慢だったらしい。
「チュートリアル終わったし、これで俺も入管手続き出来るかな?」
「【紋章】貰えたんなら大丈夫だと思うッスよ。」
「エリカは何って言う【紋章】貰ったんだ?」
「え?何言ってんスか?
【紋章】に名前なんか無いッスよ?
ただのバーコードッスよね?」
エリカが変なことを言っている。
俺は確かに【愚者】と言う【紋章】を手に入れた。
ん?首の裏か?まぁ、いいや。
なぁ、そうだよな。
登録名:アイザワ アツシは【
あれ?そう言えば…。
「エリカってこのアナウンス聞こえてる?」
「アナウンスってなんッスか?」
………え?
俺は空を指差しながら答える。
「空から聞こえてくるやつ。
あれ?俺だけなの?」
ポカンとしたエリカの代わりに、アナウンスが答える。
登録名:アイザワ アツシ以外にも『アナウンス』が聞こえるようにしますか?
今までしてなかったのかよ。
て言うか、簡単に出来るならしろよ。
登録名:アイザワ アツシの個人情報のみダダ漏れになりますが、よろしいですか?
何でだよ、それ。
どうして俺だけなんだよ。
その辺りは配慮してくれよ。
……………。
おい。
無視すんなよ。
砂嵐とマイク音だけ流すとか妙に芸が細かい事しやがる。
登録名:アイザワ アツシの近隣20メートルにいる全員に公開を開始しました。
マジかよ。
あいつ、勝手に公開しやがった。
報告も微妙に事後感出してるし。
そのせいで、アナウンスが突然聞こえるようになった、グロウ以外の4人が驚く。
「今のなんッスか!?」
「えっ、今のはなんですか!?」
「あら、今のなにかしら!?」
「あの…えっと…今のは…なんですか!?」
グロウは聞こえてたハズだから当たり前か。
「あら、皆、どうしたの?
何かあった?」
「あぁ、アナウンスが聞こえるようになって驚いてるらしい。」
「そうなんだ。
あたし、聞こえないようにしてたから気がつかなかったわ。」
…おい。
ちゃんと聞いてやれよ。
…それと、俺にもミュートにする方法、あるなら教えてくれよ。
永遠にミュートしますか?
普段通りの無機質な声だが、明らかに怒っているのがニュアンスでひしひしと伝わってくる。
すまん、俺が悪かった。
怒らないでくれ。
次は無いと思ってください。
…はい。
俺はアナウンスにも怒られてシュンとなる。
「アツシ、どうしたんですか?
何で怒られてるんですか?」
ウララが心配そうに見つめてくる。
そうか、『アナウンス』だけは聞こえるんだった。
あれ?アナウンスだけだよな…???
「さっきあの声に怒られてたのは、アイザワさん?」
「えっと、あのー、大丈夫ですか?」
ルミとソラもわざわざ近寄ってきた。
怒られたお陰で急に人が集まってきたが、それはそれで気まずい。
「あぁ、すまない。
脱線してしまったが、聞きたかったのはそう言うことじゃないんだ。
俺が【紋章】を受け取ったときに【愚者】の紋章だって言われたんだけど、さっきエリカに聞いたら紋章に名前はないって言われたんだよ。
だから、アナウンスに確認してたんだ。」
もう一度、報告します。
登録名:アイザワ アツシは【
「…な?」
そう言って俺はドヤる。
「確かに、そう言ってるッスね。
私のには名前無かったのに、何でッスかね?」
論破されたエリカが、言い訳している。
すると、アナウンスが勝手に回答した。
登録名:エトウ エリカの【
「え?
初めて聞いたッスよ?」
特殊な【
「アナウンスさん。じゃあ、私の【紋章】は何ですか?」
登録名:ウエノ ウララの【
「あ、それじゃ、私達も聞いても良いかしら?」
「あ、私も…聞いてみたいです。」
登録名:マルイ ルミ、登録名:ソゴウ ソラの【
【紋章】について、今わかったのは、どうやら特殊な【紋章】と言うものがあるらしい。
それと、ウララ以外はみんな【剣】の【紋章】だと言うことだった。
あと、アナウンスだけ【紋章】の事を『コード』と呼んでいるようだ。
あ、そう言えば、グロウにも【紋章】があるんだった。
「そうだ、グロウのは?」
俺がそう訊ねると、全員が俺の方をみる。
え?何か悪い事した?
「どうしてグロウちゃんに、【紋章】があるって知ってるの?」
と、ルミが詰め寄る。
「はっ!まさか、あたしが気を失ってる間にいやらしいことしてたんじゃないでしょうね!?」
グロウは何故か胸を隠しながらそう言っている。
「あの…訴えるなら、良い弁護士…ギルドで手配しますよ。」
ソラは即裁判にうつす構えだ。
「アツシ、私、信じてたんですけど…。
もう、何も信じられなくなってしまいそうです。」
と、泣きそうな顔のウララ。
「アツシ、おっぱいだけじゃなくて幼女にも興味あったんスね。」
エリカは、何気に違う爆弾も撃ち込んでくる。
やばい、俺、何か、すげー追い詰められてる。
まずは、ちゃんと言い訳しておこう。
「言っとくけど、脱がしたりしてないからな!
グロウの手の甲のところに【紋章】がついてたから知ってるだけだぞ?
あと、グロウって別に幼女じゃねーだろ?」
「あぁ、そう言うことなのね。
わかったわ。」
よし、ルミはクリアー。
「あっ、本当だ!
今まで気がつかなかったわ。」
グロウもクリアー。
「あの、えっと、最後のはセクハラですよね?」
あ、しまった。
ソラはまだ解決できてなかった。
「良かった!私、アツシの事、信じられなくなるところでした。
安心しました。」
ウララもクリアー。
「アツシはやっぱり、私のおっぱい一筋ッスもんね!」
エリカも…取り敢えずクリアーで良いか。
「ソラさん、あの、すみません。
勘弁してください。」
俺はソラにだけ謝る。
「えっと…本人が気にしてなさそうなので…大丈夫…だと思います。」
よし、ソラもクリアー。
何とか言い訳出来た…。
やっぱ、全員に詰め寄られると怖いわ…。
俺は改めてアナウンスに尋ねた。
「グロウの【紋章】は何なんだ?」
登録名:グロウ・ホワイトの【
俺は何かが引っ掛かった。
あれ?
「あたしのは特殊なやつなの?
それとも普通の?」
登録名:グロウ・ホワイトの【
【
まただ。
やっぱ、気になる。
「あのさ、全然関係ないんだけど、グロウっていつからグロウ・ホワイトになった?」
登録名:グロウ・ホワイトの登録名変更はチュートリアルダンジョン地下1階到達時です。
なるほど、あの時か。
と言うことは、もしかして…。
「まさかとは思うが…『世界』の『光』とかじゃないよな?」
登録名:グロウ・ホワイトは職業:『世界』の『光』として登録されています。
振り返ると、グロウ以外がポカンとした表情をしていた。
あ、しまった。
色々説明しないといけないのを忘れていたようだ。
俺は、ルミ達4人に1階で戦ったジェットについての説明をした。
一つ納得がいかないのが、グロウが全くその説明を手伝う気がないと言うことだった。
言っとくけど、お前も当事者なんだからな!
説明をしながら、横目でグロウを見ると、自分の【紋章】を大事そうに眺めていた。
【紋章】って何なんだろう。
俺は、そう思うのだった。
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