027話 みみをすませば
2階。
この階を合わせて、残すところあと3階で、このチュートリアルダンジョンもクリアーだ。
始めに地下2階を出発して、何だかんだでもうすぐ1日が経過しようとしている。
短い時間でこんなボス戦ばかりを繰り返すダンジョンが初回チュートリアルと言うのだから、この世界は大概狂っていると言わざるを得ない。
現れたのは最後の四大精霊のウンディーネ。
…と、巨大な湖だった。
そのだだっ広い湖の真ん中に、ウンディーネが立っている。
文字通り、水の上に。
あいつを倒せばこのフロアもクリアーなのだろう。
ウンディーネは大抵のファンタジー系RPGに習ってEOでも女性タイプの姿をしていた。
精霊であることを分かりやすくするためなのだろうか、青系のすっけすけの衣装を身に纏っている。
詳しく描画すると、運営から怒られるレベルだ。
本来の設定に習ってか、意思は持っていないらしい。
ノームに関しては完全に違うキャラ設定の癖に、こだわりがあるのか無いのか良くわからない。
湖については………。
もう今さらフロアがどんな改造をされていたとしてもいちいち驚く気にもならない。
ダンジョンって、こう言うものだと思うことにした。
オブジェクト化していれば水の上を歩けるらしいのだが、残念ながらこの湖はオブジェクト化していない大量の水だった。
元が百貨店だったことを忘れてしまいそうになるくらい、深く広い。
透明度が高く、かなり深くまで見える。
で、ウンディーネのところまでどうやっていくんだよ。
目測ではだいたい200メートルちょいくらいだ。
当たり前だが、この距離からではいくら俺の投擲でも当てることは出来ない。
泳げってか?
あれ?でも、ちょっと待てよ……。
俺は水の中を覗き込んだ。
なんか、水の中に子供の頃に恐竜図鑑でみたプレなんとかサウルスみたいな首長竜っぽい海竜がいる気がするんだけど……。
これって、泳いで平気なの?
しかも、図鑑で見たヤツのサイズよりもめっちゃでかいんだけど!
図鑑で見たのはせいぜい2~5m位だったが、どうみても小型のシロナガスクジラ位のサイズはありそうだ。
試しに、空の
ザッパーンと言う水しぶきと共に、海竜が一飲みでスクロールを飲み込んでしまった。
やべぇじゃん、泳げねーじゃん。
どうすんの?どうやってウンディーネやっつけんの?
「何………今の…。」
グロウが衝撃を覚えて、固まっている。
俺もちょっと固まったから、その気持ちは分かる。
「あ、見たこと無い?
首長竜って言う海竜だよ。
俺も初めてだけどさ。」
あと、サイズはけた違いだけどさ。
グロウが俺よりも驚いてくれているお陰で、何とか理性が保てている。
「どうやって倒すのよ、あんなヤツ。」
ほんそれ。
マジで、どうすんだろうね。
「それな。だいたいのゲームでは、あー言う水に住んでるヤツって雷に弱いんだけどさ……。
EOには雷属性って無いんだよな…。
光属性ならあるけど……。」
ちなみに、EOの光属性と他のゲームの雷属性はほとんど一緒だと思ってくれて良い。
…中級までは。
上級になると、純粋な『光』になる。
今は関係ないけどな。
「ごめん、ちょっと何いってるかわかんないんだけど、結局倒せるの?」
「空中にいるときにその光魔法を当てれば倒せるかもな。」
ちなみに、EOに首長竜なんか出てこない。
完全にこの世界かもしくはダンジョンを作ったヤツの趣味だと思う。
あとは、5階に出た暗闇にする妖精とかな。
そもそもアイツの名前も確認し忘れたからな。
あ、さっきの首長竜もか。
こいつらが別のところでまた出てくることがあるのか知らんけど……。
さて、あいつをまずどうやって空中におびき寄せるかだが……。
「グロウ!」
「嫌よ!」
「まだ何もいってないだろうが!」
「言わなくたって分かるわよ。」
残念。
作戦Aは実行前に失敗に終わった。
さぁ、どうやって釣り上げよう。
……ん?
「釣り上げる……か。」
「はぁ!?本気で言ってるの!?」
さっき貰ったこの小枝が使えるのなら、ここなんだろうな。
だけど、アイツ魚か?
「本気かそうじゃないかで言うと、冗談にしたい。」
「何よ、『したい』って、願望を聞いてるんじゃないわよ。」
…だろうな。
だけど、無意味にこの小枝があるとも思えない。
仕方ない。…試すか。
「本当は俺だって、冗談にしておきたかったさ。
でも、仕方ないだろう?」
そう言って、俺は小枝を掲げた。
―――
「わんを呼ぶということはー、さっそく魚釣りかー?」
小枝を掲げて数秒経つと、さっきみた真っ赤な毛むくじゃらの爺さんが後ろから声をかけてきた。
やっぱりこの爺さんはファンタジーと言うよりは妖怪かなんかの類らしい。
ビックリするから出る前になんか演出して欲しい。
「じゃあ、次からは煙でも出すさー。」
しかも聞かれてた!
【
「わんのはどっちかと言ったらー、【盗聴】さー。」
「あ、それならあたしも使えるわよ。」
おい!
そんな話は聞いてないぞ!?
「まぁ、こうしないと聞けないけどね。」
そう言って、耳にてを当てるポーズをする。
…あっ!!
でも、確か、普段周りに人がいないときにやってたよな?
「うん、人の声が入ると邪魔だったしね。」
「聞いてたのかよ!
って言うか、あれって何を聞いてたんだ?」
「えへへ、秘密ー。」
グロウが、はぐらかす様に笑う。
何故か以前のような悲壮感はない。
「って言うか、俺にもそのスキルくれよ。」
「いーゃにはやれんさー。
スケベぇな事に使いそうだからねぇー。」
「確かに、こいつに渡したらとんでもないことに使うに違いないわ!」
とんでもない誤解だ!
冤罪だ!
徹底的に戦ってやる!
「話がそれとるようだがー、わんはなにを釣ったらいいのかねぇー?」
おぉ、すっかり脱線していたが、そうだった。
「爺さんには、あの首長竜を釣り上げてもらいたいんだけど、出来るか?」
「水に泳いどるもんでー、わんに釣れんもんはないさー。」
そう言うと、赤い毛むくじゃらの爺さんは何処からか取り出した釣りざおを湖にたらし始めた。
あの釣りざおをみる限り、あんな数十トン単位の海竜を釣り上げられるようには見えないのだが、やっぱり妖怪(?)には人間の常識はあてはらまらないのかもしれない。
十数秒した頃、巨大なプレなんとかサウルスが爺さんの垂らした糸に気付いた様な動きをし始めた。
水底から勢いよく近づくと、糸の先に噛みついた。
「ほいさー!」
爺さんが軽く竿を振ると、空中高くにそのプレなんとかサウルスが舞い上がった。
マジか……。
俺は、あんぐりと口を開いて、その光景に見とれていた。
危うくそのまま見送りそうになっていたところを、グロウに叩かれて我に返った。
危ない!せっかくのチャンスをみすみす見逃すところだった。
俺は、中級魔法の
「あれー、あんなに焦げてしまったら食べられないさー。」
爺さんはあの首長竜を食べると思っていたらしく、稲妻で丸焦げにさせると少しガッカリした声を出した。
黒こげどころか、もう煙に成りかかっている。
そもそも、あんなの食べないから。
兎に角、これで水中の問題は解決できた。
だが、問題はどうやってウンディーネのところに近づくかだ。
泳いでいてはまともに戦えるかどうかわからない。
それに、自慢じゃないが俺は犬かき以外まともに泳げる自信がない。
「あんた、それ泳げるって言わないからね。」
心を読むな!
「だが参ったな、どうやってアイツの近くまでいけば良いんだ?」
「いったーは、船はもってないのー?」
「そんなもん、持ってる訳ねーだろ!?
せいぜい、長机10脚くらいしかねーよ。」
「長机ー?
いゃーは何でそんなものそんなに持ってるのさー。」
「このダンジョンに来る前に錬金所で買ったんだよ。
あと99個くらい買って並べてみるか?」
「そんなに都合よく浮くわけ無いさー。
それよりも、筏を作った方がまだ良いと思うよねぇー。」
「だけど、残念ながら筏の材料になりそうなものをもってないんだよ。」
俺と毛むくじゃらの爺さんが、頭を悩ませていると、グロウが勝ち誇ったように仁王立ちで間に入ってきた。
「ふっ、ふっ、ふっ。
どうやらあたしの出番のようね。」
八方塞がりだった俺達は、不適な笑みを浮かべたグロウが、恐らくろくでもないことを言い出すのを聞くしかないのだった。
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