026話 もりのじいさん
3階。
森林が広がっていた。
毎回思うが、フロア改造しすぎだろ…。
そこにいたのは、小さなおじいさんのような姿のノームだった。
「お若いの。わしらは力が弱い。
強さではなく、知恵比べで対決させてもらえんかの?」
良く言うよ。
普通に戦ったらEOでは上から数えた方が早い強敵だぞ?
まぁ、戦わなくても済むならその方がいいけどな。
「あぁ、わかった。
それで、何をすれば良い?」
「このフロアのどこかに、わしと一緒にフロアを管理しておるドライアドがおるのじゃが、その子をここまで連れてきて欲しいのじゃ。」
「お前、迷子を探すのが面倒になって、俺た達に押し付けようとしてる訳じゃ無いんだよな?」
「…そ、そんな事はない…ぞ。」
「今、間があっただろ!」
苦しそうに目泳がせるノーム。
だが…。
「わかったよ。
連れてくるだけで良いんだな。」
そう言って、俺とグロウは森へと足を踏み入れるのだった。
後ろから、ノームの爺さんが言う。
「ドライアドは木に化けるのがうまい。
化けてしまうと、お主のスキルでも見つけることは出来んから、気を付けるんじゃぞ。」
ほら、油断も隙もない。
どうして、俺が【心眼】持ってるの知ってんだよ。
スキルツリー以外で覚えた特殊スキルなのに。
森の中は迷路のように入り組んでいて、進む度に姿を変えていった。
多分、これもドライアドの力なのだろう。
「ねぇ、この森何かへんよ?」
「お、お前もそう思うか?」
「何か、季節感とか生える場所とか、無視したような生え方してるもの。」
「やっぱそうだよな。
俺も植物はあんまり詳しくないんだけど、やっぱり、紅葉した銀杏のとなりにガジュマルはおかしいよな。
あれ?」
「何?何かあったの?」
「いや、あのガジュマル、何か変なんだよな。」
「え?どこ?何が変なの?」
「さっき見たときは、右側にコブみたいなのがあったのにさ、今見るとないんだよ。」
「見間違いじゃないの?」
「いや、絶対あったって!
木が絡まって出来たようなコブがさ!」
その時、パキ、パキパキっと、小枝が折れるような音がし始めた。
何か様子が変だ。
「おい、グロウ!」
「何よ!」
「あのガジュマル、やっぱり変だ!
周りの木を取り込んで成長している!」
その時だった。
ガジュマルが、地面から根を持ち上げ、俺たちの方に伸ばし攻撃してきたのだ。
おいおいおい。
俺は、その攻撃を横に飛んでかわしながら、とっさに
やっぱ、生木は燃えにくい。
と、言うわけで、枯らすことにした。
上階でサラマンダーを倒した時にも使った『簡易合体魔法ブリザードストーム』で、凍らせてみることにした。
一気に猛烈な吹雪がフロア全体を覆った。
「ちょっと、そんな大技使う時は…ごがばぶばばばば」
風のせいで最後何を言おうとしたのかわからなかったが、言わんとしていることはわかる。
中級魔法の合体魔法でこれだけの威力出るんだから、上級ってどんなんなんだろうな。
風と雪が凄すぎて、目の前は真っ白だし、グロウが飛ばされないようにするのだけで一生懸命すぎて、周りの状況は良くわからない。
たぶん、後でノームの爺さんには怒られる事になるだろう。
暫くたって、ホワイトアウトが収まると、周りの樹木は完全に雪原の樹氷状態だった。
多分、南国の木であるガジュマルは、寒さに弱そうな気がするので、これで枯れてくれることだろう。
あー、めっちゃ寒かった。
俺たちが、ガジュマルに近づこうとしたとき、さっきのノームとは違う爺さんが現れた。
毛むくじゃらで、全身がなんか真っ赤だ。
一瞬で人間ではないのがわかってしまう。
「いったーがこれをしたのかー?」
少し……と言うか、何かめっちゃ怒っている。
良くわからないが、俺達に言っているようだ。
「先に襲われたから、やり返したんだよ。」
俺は精一杯に強がってそう言った。
もしかしたら、少し声が震えていたかもしれない。
「ほーぅ。
あのガジュマルが、いったーを襲ったと言うのかー?」
いったーと言うのが良くわからないが、とりあえず、同意しておいた。
「あぁ、その通りだ。」
爺さんが俺たちの目を覗き込む。
「ふむ。嘘はついておらんようやねぇー。
でも、このままではこの木が枯れてしまうさー。
枯れてしまうと、わんの住むところが無くなってしまうさー。
もし、この木を助けてくれれば、わんもいったーを助けてやるよー」
「それって、ドライアドを見つけるの手伝ってくれるってこと?」
「それについては、わんの力は必要ないさー。
わんのお陰と言うことにして、貸しにしておいても良いがねぇー。」
そう言ってちらりと横をみる。
爺さんの言うとおり、まもなくして全身が緑色で、下半身が木になっている少女の精霊が現れた。
見かけは恐ろしいが、良い爺さんのようだ。
現れた少女が、一言。
「…寒い。」
と呟いた。
とりあえず、目的のうちの1つはなんとかなりそうだ。
あとは、この木か…。
車の窓ガラスやなんかに着いた氷を溶かすには、アルコールと水を混ぜたものをぶっかけると良いんだが、木にアンコールってかけても良いんだっけ?
毛むくじゃらの爺さんに聞いてみたら、げんこつを貰ったので、違う方法を考えることにした。
まだやるっていってないのに…。
それにしても、あの爺さんのげんこつは木みたいに固くて痛い。
となると、自力で溶かすしかない。
でも、人工太陽を作るような魔法なんか知らないぞ?
あ、熱風でも良いのか。
それだったら…。
俺は中級魔法の
ドライヤーよりもややぬるい風があたりを覆い、木に張りついていた雪が溶けだす。
湿度が一気に上がり、スチームサウナ状態になる。
さながら熱帯樹林だ。
直前まで、樹氷の森だったのに、一気に南国に変わる。
「これでどうだ?」
「あぁ、これならこの木も枯れずに済みそうだねぇー。
良いだろう。わんがいったーの手助けをしてやるさー。
ほれ、これを持っていくがいいよー。」
「おい、爺さんこれは?」
「わんは魚釣りが得意でねぇー。
必要になったらそいつを掲げてるといいさー。
どんな魚でも釣り上げてみせるよぉー。」
毛むくじゃらの爺さんは、小枝の説明をしながら、徐々に透き通っていき、最終的に消えてしまった。
良くわからんが、俺は『ガジュマルの小枝』を手にいれた。
この小枝があれば、魚がつれるらしい。
え?使う機会あるの?
そもそもあの爺さんは何者だったのだろうか。
ドライアドに聞いてみたが、「よく知らない。」と言うだけだった。
まぁ、一応成功という事で、一気に亜熱帯化した森をノームのところまで帰ることにした。
エスカレーターの前にたどり着くと、ノームの爺さんが待ち構えていた。
「約束通り連れて帰ったぞ。」
「確かに、ドライアドじゃ!
よく連れ帰ってくれた。」
引き渡そうとすると、ドライアドがサッと俺の後ろに隠れる。
「あれ?どうしたんだ?」
ドライアドに訊ねると
「お爺ちゃんに、怒られる。」
と、答えるドライアド。
「怒られるようなことを何かしたのか?」
「お爺ちゃんの湯飲み割っちゃった。」
「そうか。
だったら、ごめんなさいしないとな。
出来るか?」
「うん。」
ドライアドが小さく頷き、ノームの前にトコトコと出ていく。
そして、頭を下げた。
「お爺ちゃん、ごめんなさい。」
嬉しそうに、微笑むノーム。
完全に孫とお爺ちゃんだ。
「謝ってくれればいいんじゃよ。」
そう言って、ノームはドライアドの頭を優しく撫でるのだった。
何これ。
あれ?この小説って、こんなほのぼのストーリーだったっけ?
いや、違う。
そもそも、湯飲みを割って怒られるのが怖くてあのジャングル産み出しちゃうドライアドも、恐ろしい子だから!
ほのぼのしてて誤魔化されるところだったわ!
まぁ、でも、いいか。
兎に角これで2階に降りられそうだしな。
俺とグロウがそっと立ち去ろうとすると、ノームの爺さんが俺たちを呼び止めた。
「お前さん達、ちょっと待ちなさい。」
「何だよ。」
「お前さんは合体魔法の力加減がお粗末過ぎるでな、これをやろう。」
俺はノームの爺さんから差し出された光源を受け取った。
俺は
P 【塩梅 LV1】
を、手にいれた。
「これで、威力が強すぎると思ったら加減が出来るようになるじゃろう。」
やっぱり、ノームの爺さんだけは敵にはしたくないと思うのだった。
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