028話 ぎじ
「だーかーら、あたしが活性化の逆をやれば良いだけだと思うの!」
グロウが一生懸命何かを説明しているが、俺と爺さんはちんぷんかんぷんではてなマークを飛ばし続けていた。
「いゃーの言ってることが、さっぱりわからないさー。」
「全くだ。」
初めてイノリのスマホから出てきたときもそうだったが、グロウの説明は何か肝心な要素が足りない。
「二ついいか?
まず、活性化の逆をすると言うのはなんだ?
それと、活性化の逆をすると何が良いんだ?」
俺が聞くと、グロウが首をかしげる。
え?何か俺が変な質問したみたいになってる?
「活性化の逆って言うのは、動いているものをオブジェクト化する事!
オブジェクト化すると、あのモンスターのとこに行けるから良いの!」
俺達はやっと少しだけグロウが言いたかった事がわかった。
グロウには説明力を鍛えてもらう必要がある。
確かに、グロウがオブジェクト化出来るのであれば、俺の長机も良い足場になるだろう。
「一応聞いておくが、条件とか制限とかはあるのか?」
「んー、同時にオブジェクト化出来るのは二つまでなのと、だいたい30秒でオブジェクト化が解けるのと、大きすぎるものには使えないのと、オブジェクト化するのにだいたい5秒くらいかかることかな?」
制限ばっかりじゃねーか。
それでよく、自信満々に言えたな。
お前のメンタル鋼かよ。
無言のまま、爺さんも頷いている。
でもまぁ、理論的には交互にやっていけばウンディーネの近くにいくことも可能だとは思うが、まずはじめの一個目をどうやってオブジェクト化するかだよな。
二個目をオブジェクト化するのも、ギリギリまで待つ必要があるし、30秒でで1mちょっとしか進めないにしては、忙しい上に大変そうだ。
それだったら、例えば俺が長机の上でオブジェクト化して、長机ごと、爺さんの釣りざおでぶん投げて貰った方がよっぽど効率的だと思う。
「あー、なるほど、それであんたのオブジェクト化が溶けたらその長机をオブジェクト化すれば完璧ね。」
だから、【盗聴】するなよ。
「いゃーがその気ならわんは投げても良いさー。」
爺さんも【盗聴】してやがる。
何この人ら。
本当に、怖いわー。
こいつらに冗談とか通じないのだろうか?
「でも、確かに長机に振り落とされないようにするにはオブジェクト化して貼り付くしかないものね。
よく考えたわね。」
本人の意思とは関係なく勝手に話が進んいく。
マジかよ。
それならいっそ、オブジェクト化した自分を投擲した方が余程ダメージが与えられそうだ。
「なるほど、それだったらあんたが活性化したら、自分を投擲してみれば良いんじゃない?
あたしがもう一回オブジェクト化してあげる。
でも、動くオブジェクト化ってやったこと無いわね。
まぁ、いっか。」
これ、失敗したら普通に死にますけど???
「いゃーはわんが信じられないのかねぇー?」
いや、そういう問題じゃないから……。
どちらかと言うとグロウだから!
「オブジェクト化している間はダメージも受けないから安心して良いわよ!
試したことはないけど。」
おい、その情報の信憑性あんのかよ。
「あー、もう、わかったよ!
やれば良いんだろう?やってやるよ!」
俺は嫌々、長机を取り出すと、その上に立った。
覚悟を決めようとしていた次の瞬間には意識が途切れた。
―――
あいつがテーブルの上に乗ったのを見て、あたしはオブジェクト化の儀式を始めた。
と言っても、活性化の時と反対方向に回るだけなんだけど…。
どうしても5秒くらいはかかっちゃうんだけどね。
でも、あいつはかかりやすいのか、普段よりもちょっとだけ早かったかもしれない。
そのせいで、完全に気を抜いた形のままで固まってしまった…けど、そんなのあたしの知ったことじゃないよね?
準備が出来たので、お爺ちゃんに釣りざおでぶん投げてもらう。
「お爺ちゃん、お願い!」
「わんのことかー?
お爺ちゃんよりも『おじぃ』の方が嬉しいさー。」
「おっけー、おじぃ、お願いね?」
「わんに任せるさー」
おじぃの、釣りざおの先についた釣り針が、折り畳まれたテーブルの足にくるくるっとかかり、そのままひゅんひゅんと風をきって空中に舞い始めた。
「そろそろ飛ばすよー。
いゃーも、いってくるさー。」
おじぃがテーブルを飛ばすのを見て、あたしもテーブルと一緒にウンディーネの元に向かう。
何とかテーブルに追い付いたあたしは、あいつの肩の上に乗って、あいつが目覚めるまで待つのだった。
―――
マジか。
俺は、長机に乗って空を飛んでいた。
肩にはグロウが乗っていた。
「あ、起きた?
はい、じゃあ、そろそろ投擲準備してー。
それとあんた、さっき全然カッコ良くないポーズで固まってたから、次はカッコつけた方がいいわよ?」
知らねーよ!
まさか、自分で自分を投げる日が来るとは思ってもいなかった。
いつか絶対グロウも投げてやる。
良い弾丸になりそうだ。
距離が近づいてきたことで、ウンディーネのあられもない姿がはっきりと見えてきた。
ベッドの下で固まってしまったおかずの代わりに成りそうだ。
「あんた、余裕かましすぎじゃない?
あたし、オブジェクト化するのにだいたい5秒くらいかかるんだけど……。」
おっと、そうだった。
違うところはすでに固くなり始めているが、全身を固くするには5秒必要なのだった。
俺は、ウンディーネをターゲット指定して、自分を投擲指定する。
指示と共に、すごい勢いで、俺がががぼばごごぼごぼごば……。
―――
正直、あいつがどうやって自分自身を投擲したのかあたしには分からなかったが、取り敢えずあいつが、ウンディーネに向けて飛んでいくのを確認し、急いでオブジェクト化の儀式をした。
通常、オブジェクト化すると、空中だろうが何だろうがその場で止まるのだが、今回のオーダーは動くオブジェクト化だ。
つまり、丁度良いバランスでオブジェクト化と活性化を成り立たせなければならないと言うことだ。
嫌がりはしていたが、最終的にはあたしを信じてくれたと言うことなのだろう。
そうじゃなければ、こんな作戦に乗ったりはしないだろう。
あたしは、オブジェクトと同等の硬度を持った活性物であるあいつを産み出すことに成功した!
その疑似オブジェクトと化したあいつが高速で移動しながら、ウンディーネに衝突した。
すると、ウンディーネは押し潰されるようにあいつと一緒に水中へと消えていった。
あ………。しまった!
あいつ、泳げないんだった。
もし、ウンディーネが水と同一化して攻撃をかわせていた場合、あいつが気がつくのは恐らく水の底だ。
あわてて飛び込もうとしたとき、巨大な湖がファーっと光を放って消えた。
あー、良かった。
あいつが死なずにすんで……。
安心したら、急に笑いが止まらなくなった。
怖かった…あいつがいなくなるかと思って。
笑いながら、あたしは目に浮かんだ涙を拭う。
おじぃが、エスカレーターのところから歩いて来るのが見えた。
あたし達は、勝ったのだ。
―――
次に目が覚めたとき、グロウが大爆笑していた。
「いー、ひひひ、あんた、あの顔!
思い出しただけでもお腹痛い!
あはははははは。」
「わんは遠くからだったからよく見えなかったさー。
そんなに面白いなら、近くで見たかったねぇー。」
だいたい、あんなに透け透けのエロエロボディに接触したはずなのに、その記憶が全くないなんて死ぬ思いをしたと言うのに割に合わない。
せめて揉んだり挟んだりしてもらいたかった。
「そしたら、わんは帰るさー。」
なんか、ここまで引っ張ったのにあっさり倒されてかわいそうなウンディーネを無かったことにして、爺さんが帰ろうとしている。
そう言えば聞いておかないといけないことがあったんだった。
「なぁ、爺さん。あんた、名前は?」
「あぁ、いってなかったかねえー。
わんはキジムナーって言うもんさー。
また、魚釣りがしたくなったら小枝を掲げてねぇー。」
キジムナーか。
やっぱり妖怪だった。
中身は良い爺さんなんだけどな…。
見た目が……ちょっとね…。
怖いんだよね――。
「おじぃ、またねー。」
なんか、いつの間にか仲良くなったらしいグロウが手を振っている。
俺とグロウはまた、二人になった。
俺と一緒に空中旅行の旅に出た長机を回収すると、俺達はすっかり水が無くなって、元からそうだったかのように完全に普通のフロアになった2階を後にするのだった。
―――
1階。
ここをクリアーすれば、このチュートリアルダンジョンのラストバトルを残すのみとなる。
来たときには大量の雑魚モンスターに埋め尽くされていたこのフロアが今ではすっかりもぬけの殻だ。
中央付近に見覚えのある巨大な狼がうずくまっているのが見えた。
俺達が前回戦った時の傷を癒しているのかと思ったが、何か様子が違う様に見える。
「ねぇ、何かあの子、様子が変じゃない?」
「お前もそう思うか?」
「確かに少し変だよな?」
「他にも敵が要るのかもしれない。
用心した方がいい。」
俺達は警戒しながら、オルトロスの元へ急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます