017話 ばとる
視線を合わせたとき、特にそう言われたわけではなかったが、初めの2回はギリギリまで粘って当てないようにしようと思った。
いや、そうしなければならない気がした。
この距離で、この的。
単純に私がクリアするだけなら、すごく簡単だ。
だが、どうせなら二人でクリアしたい。
ううん、二人でクリアしなければ失敗だと思った。
それに、アイザワさんは何度もサーベルタイガーを倒しているとグロウさんが言っていた。
本人ならいざ知らず、グロウさんがわざわざウソを吐くとは思えないので、多分本当なんだろう。
だとすると、私たち3人で戦うより、アイザワさんにも参加して貰う方が得策だ。
ここはうまく立ち回らなければ怪我だけではすまない。
そう思って、私は気を引き締めた。
女神像がカウントダウンを始め、29秒になったとき、私と、おそらくアイザワさんも投擲を開始した。
私は、わざとサーベルタイガーのいない方向にボールを投げた。
アイザワさんは今まで私の見た限り、軽薄で調子に乗り易いタイプではあるが、戦闘ではみんなを引っ張ってくれる心強い存在でもある。
だから、私がここで足を引っ張るわけにはいかない。
私が足を引っ張らなければ、きっとアイザワさんなら何とかしてくれるはずだ。
そう、思わせてくれる何かがあの人にはあった。
ポフッと言う小さな音がして、私の投げたボールは芝生に落ちた。
無事に1投目を、外すことが出来た。
私はホッとして後ろを振り返り、アイザワさんの投げたものの行方を追いかけた。
アイザワさんは手裏剣を投げていた。
手裏剣は勢い良くコウモリに目掛けて飛んでいく途中だった。
空気を切り裂いているのが目で見てわかるくらい、ジェット機のように真っ直ぐに飛んでいく。
私はそれを夢中になって見つめた。
ところが、まだ15メートルくらいしか飛んでいないのに、無慈悲にも女神像が次の投擲の合図をした。
あの手裏剣はまだ外れた訳ではないのに…。
でも、こうしている場合ではない。
私も投げなければ…。
そう思ったが、私は手裏剣から目が離せなかった。
やがて、その手裏剣が少しずつ軌道を下げ始めているように見えた。
だめ!このままじゃ外れてしまう!
私は心の中でそう叫ぶ。
その時だった。
私の目の前で、何かが起きた。
落下を始めた手裏剣が、またコウモリの方へ軌道を上げて進み始めたのだ。
何が起こったの?
そしてそのまま、その手裏剣はコウモリを貫く。
貫いた手裏剣はコウモリと共に煙を吹き出しながら落下を始める。
私はそれをボーッと眺めていた。
今思うと、多分、見とれていたんだと思う。
―――
「それでは次の投擲を開始しろ。」
女神像が次の投擲の指示を出した。
俺は待ってましたとばかりに、さっき放った
そして即座に発射する。
思い描いた通り、第一射目の手裏剣にクリーンヒットした。
二射目は弾き飛び、一射目の勢いを増した。
一射目の手裏剣は乗った勢いのまま、運良くコウモリを貫いた。
どうやら俺の運は相当なものらしい。
女神像が告げる。
「アイザワ アツシ。一投目、命中!合格だ!」
振り返ると、少しボーとした表情のウララが放心したようにこちらを見ていた。
俺は…
「ウララ!時間がない!投げろ!!」
夢中でそう叫んでいた。
―――
我に返ったようなウララが慌ててボールを拾って投げた。
だが、思いっきり投げたせいか、そのままボールは足元にバウンドしてしまう。
どうやら二射目も外れてしまったらしい。
だが、おそらくここまでは計算通りのはずだった。
サーベルタイガーが目を覚ますまでは…。
ウララは一瞬慌てたようだったが、フッと息を吐いた瞬間に顔つきが変わった。
俺は確信した。
次は当たる。
サーベルタイガーは、ウララにうなり声をあげ、威嚇していた。
今にも飛びかかろうとしている。
その時、女神像が三投目の合図をした。
その時を待っていたように、ウララは山なりにボールを投げた。
サーベルタイガーもほぼ同時にウララに飛びかかる。
弧を描いて飛んでいくボールが、そのサーベルタイガーの背中とお尻の間に落下し、命中した。
「良くやった!今だ!」
その瞬間、グロウがサーベルタイガーの目の前に飛び出し、サーベルタイガーの目を引き付けた。
俺がグロウとエリカに指示を出すよりも早く、ウララが最後の投球をした直後にグロウとエリカは既に動き出していたらしい。
俺はその隙にウララ下げさせると、エリカのフォローをするように伝えた。
俺とグロウはサーベルタイガーと戦い慣れているが、エリカは恐らくほとんど戦ったことは無いだろう。
そう思っての判断だった。
俺は、エリカのいる場所以外から、設置型地雷をポイントし始めた。
グロウが引き付け、エリカが隙をつく。
二人の連携もなかなかだった。
ウララもうまく支援出来ているようだ。
俺は3人が時間を稼いでくれた間にエリカたちのいる一方向だけあけて、サーベルタイガーの周りを地雷原にした。
「もう十分だ、エリカ、そのまま真っ直ぐに下がれ!」
残った一方から攻撃を続けていたエリカを下げさせると、その通路も地雷でふさぐ。
爆発の衝撃でノックバックされているサーベルタイガーに俺はいつものように投下用の爆弾の雨を降らせるのだった。
「あんた、いつ見てもそれ、えげつないわね。」
グロウが冷たい目でそう言う。
「でも、今日はエリカとグロウとウララがいたから翻弄できたな。」
「エリカもお役にたてたッスかね?」
「あぁ、助かったよ。でも…」
「今日、一番の主役はウエノさんだな!」
爆弾の雨を降らせながら、ちらっとウララの方を見る。
ウララは嬉しそうな、恥ずかしそうな、でも少し寂しそうな、そんな複雑な表情をしている気がした。
なにか気に入らないことでもしたかな?
俺は、サーベルタイガーが煙を吹き出すまでずっとそんな事を考えていた。
―――
戦闘が終わって、少しほっとした頃、女神像が声をあげた。
「ウエノ ウララ。発表が遅くなったが、三投目、命中!お前も合格だ!」
とにかく、俺たち四人は無事に試練であるスポーツテストをクリアすることができたのだった。
「よくやった。約束通りお前たちに力を与えよう。」
女神像は、そう言うと四人それぞれに次のスキルを付与した。
まず、グロウには【分身】スキル。
確率で敵の攻撃を完全に回避することの出来るスキルだ。
反復横飛びが習得条件だったらしい。
次にエリカには【我慢】スキル。
限界を越えるダメージを受けたときに、一度だけHP1で耐えられるスキルだ。
腕立て伏せの時の、我慢強さが評価されたようだ。
そるから、ウララには【バランス】スキル。
精神の状態異常に対して耐性得るパッシブスキルで、精神状態を一定のバランスに保ってくれる効果もあるそうだ。
精神不安を乗り越えたあと、それからサーベルタイガーを目の前にした時の安定性が評価されたらしい。
最後に、俺には【心眼】スキル。
暗闇状態や姿の見えない状態の相手でもターゲットすることが可能となるスキルらしい。
目を閉じると敵を感知することが出来るようになる効果もあるそうだ。
恐らく、腕立て伏せの時の『目を瞑る』が評価されたのだろう。
それから、全員に【
【
魔法スキルにも物理スキルにも使えるそうだ。
【
ストップウォッチ的に使ったり、初めてこの世界に来てからどれ位経ったか分かったりするそうだ。
RPGで言うところのプレイ時間やログイン時間に近い。
【
要は俺たちが女神像と喋っていたあれと同じだ。
ある程度なら距離が離れても使えるらしいので、電話みたいな使い方も出来るかもしれない。
おまけとして、俺とウララにはステータスポイントが3ポイントずつ付与された。
最終競技をクリアした報酬らしい。
それからエリカとグロウにも1ポイントずつ付与された。
最終戦での動きは評価に値する素晴らしさだったと思う。
とりあえず、俺は今のところステータスにポイント振る機能が制限されているらしく、実際にはまだ振れないが、チュートリアルを受けて制限が解除されればこのポイントも割り振ることが出来るようになるのだそうだ。
初めての試練はこうして幕をおろしたのだった。
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