015話 ねくすと
次の挑戦者は、エリカだった。
ナチュラルに【高速移動】を使ってるのではないかと思うくらいに、1分間の挑戦はあっさり終わった。
ミスと言うミスもなく、とにかく凄い反復横飛びを俺たちに見せつけてくれた。
まだ挑戦していないウララやグロウが少し青ざめているように見えた。
回数は216回だった。
目標値の3.2倍以上の数値を叩き出していた。
うん、意味がわからない。
10秒間に36回とかもう普通のスポーツテストじゃないよな。
女神像が優しいと言った意味が何となく俺にもわかってきた。
『易しい』の間違いだったのか。
ステータスをきちんと振ってるやつがやったならああいう結果になると言うことなのかもしれない。
それよりも、だ。
俺には内心、がっかりしている事があった。
何にかって?もちろんエリカの…………についてだ。
俺が密かに期待した様なことは、エリカの超人的な反復横飛びのせいで、全く起こらなかった。
おのれ、体操服め!空気を読めよ!
せっかく見やすい位置に移動したというのに…。
俺は肩を落とすくらいしか出来ることがなかった。
と、とにかくだ、成功者が二人になった。
その事については素直に喜んで良いだろう。
三人目のグロウは、まぁ、あのサイズなことを考えると良く頑張った方だと思う。
着地してからの飛び上がりがもう少しスムーズに行えるようになれば、そのうちクリアできそうな気がする。
そもそもグロウの場合、反復横飛びではないしな…。
線を跨ぐことができないから……。
要は…残念だった…と言うことだ。
「グロウ。60秒、61回。不合格。
良く頑張ってはいたが、まぁ、残念だったな。」
何かちょっと、女神像にも気を使われている。
グロウは顔じゃなくて体で悔しがっていた。
…真顔のまま。
「グロウ、お前、真顔やめろよ、気持ち悪い。」
「うるっさいわね、こんな時どんな顔したら良いのかわかんないのよ!!」
おい、やめろ、台詞が汚れる。
遂に俺たちの中から最初の脱落者が出てしまった瞬間だった。
三人目が終わり、ウララ顔がますます真っ青になっていた。
緊張のせいか、今にも吐きそうな顔をしている。
エリカが、心配そうに背中をさする。
「ウララちゃん、大丈夫だよ。
失敗しても特にデメリットもないッスから、気を楽にね…。」
「エリカちゃん、ありがとう。
何か、あんまり無理せずに頑張るね。」
そう言って弱々しく微笑むウララも、また良い…と、思った。
そんな二人の様子を微笑ましく眺めている俺の視界を遮るように、グロウが俺の目の前で手を振った。
と言うか、手だけじゃ足りなくて全身でアピールしていた。
「もっしもーし。おーい、もしもーし。」
俺の反応がないと見て、耳元で叫ぶグロウ。
「おわっ!あ、グロウか。
せっかく和んでるんだから邪魔すんなよ。」
ついつい、本音が漏れる。
「あんた、彼女が起きたら今のこと全部喋ってやるから覚えときなさいよ!」
悪い顔をするグロウ。
「何でだよ!って言うか、彼女じゃねーから。
お前は少し失敗したんだから落ち込んだりしろよ!」
不利な話題を変えるために、さっきの失敗について言及する。
「するわけないじゃない。
だってこの世界の16歳の平均でしょ?
あたし16歳じゃないしこの世界のルールに従う必要ないもの。」
言われてみればそうだ。
「そう言えば、グロウっていくつなんだ?」
「レディに年齢を聞くのはマナー違反よ?」
「お前の場合、まずレディかどうかを証明するところから始まるからな。
証明出来んのか?」
「………。」
証明出来ずに、グロウは黙り混む。
「出来ねーじゃねーか。
じゃあ、問題無しだな。」
「ちょっと待ちなさい!
あたしがレディじゃなかったら誰がレディだって言うのよ!」
「お前以外だろ?」
「きぃー、腹立つ!」
そう言ってハンカチの角を噛んで引っ張るようなそぶりをする。
どうでも良いが、グロウのリアクションはどこで仕入れてくるのだろうか。
向こうの世界でも、同じようなリアクションをしているのだろうか。
「失敗したらお前に文句言われそうだから、次も頑張るよ。」
「そうね。きっと言うわ。
だから、せいぜい頑張んなさい。
ちょっとくらいなら応援してあげないこともないわ。」
そう言いながら、グロウは飛んでいく。
結局、グロウの年齢はわからなかった。
―――
とうとうと言うかようやくと言うか、ウララの番がやって来た。
エリカはなんと言うか例外としても、普通の女子高生っぽいウララが1分間で66回を達成するには10秒につき11回ずつクリアしていけばよい。
聞く分には楽勝に思えるだろうが、一回しかないチャンスを確実にものにしなければならないと言うのはプレッシャーでもある。
…それに、さっき俺も激しく転んだし、そう言うトラブルもある。
もし、そう言ったトラブルに見舞われたとき、それを挽回する力があるのかどうかを本当は試そうとしているのかも知れない。
前半の30秒が終わった時点で35回を達成していたウララは、普通に行けば楽勝で目標を達成しようとしていた。
…だが、物事はそう簡単に進まない。
ウララも、俺ほどではないが中盤で少しよろけてしまった。
そのせいでリズムを崩したウララは、40秒時点で41回と大きなピンチを迎えてしまった。あと20秒で25回。
前半の30秒の時を越えるスピードでクリアしていく必要がある。
50秒、53回。
そして………。
「ウエノ ウララ。60秒、66回。
目標…到達。合格だ、おめでとう。」
なんか、女神像のリアクションが俺の時と若干違う気がするのは何となく引っかかるが、とにかくウララも何とか目標を達成することができた。
エリカがすぐに傍に駆け寄って、今は抱き合って喜びあっている。
その様子を羨ましい……じゃなくて、微笑ましいと俺は思った。
俺たち三人は、何とか腕立て伏せに駒を進めるのだった。
―――
「次の挑戦者は三人だな。
では、今から指定する位置に移動しろ。」
女神像が相変わらずの勇ましい口調で、指示を出す。
次の瞬間、また地面に煙が立ち込める。
そこには、テレビでみるような早押しボタンのようなものと、ヨガマットのようなものが出現していた。
ふざけたことに、そのヨガマットには大きくひらがなで俺たちの名前が書いてあった。
「なんだ、このきったねー字は。」
「なんだ?この私の字に不満でもあるのか?」
突然女神像が、キレ始める。
「ねーよ。って言うかお前が書いてるのかよ。」
「……良いからさっさと所定の位置につけ。」
お、なんか女神像がイラっとしている。
俺たちは、ヨガマットの名前の通りに、俺の向かいにエリカ。
そのエリカの隣がウララとなるように位置についた。
「では、今回のルールを説明する。
お前たち三人は同時にこの腕立て伏せに挑戦してもらう。
目標回数は男性50回、女性30回だ。
女性の二人はそこの男が20回クリアしたタイミングから参加となる。
大した数ではないので楽勝だろう?」
「このボタンの説明が抜けているぞ?」
「あぁ、忘れるところだった。
今回の腕立て伏せは、こちらが指定したタイミングでやってもらう。
そのボタンは、その間に顎を使って押して欲しい。
要は、ずるをせずに腕立てをしないとボタンが押せないぞ、と言うことだ。」
「で、指示したタイミングと言うのはどうすればよい?」
「なに、大したことじゃないさ。
私が3秒かけて数字を読み上げる。
その間に一回腕立て伏せを行って、そのあと、2秒のインターバルで、体勢を整える。
ただそれだけだ。」
「お前、それめちゃめちゃキツいやつじゃねーか!」
「もちろんだとも。試練なのでな。
まぁ、たった50回だ。
100回じゃないだけありがたいと思え。」
「そもそも100回も連続で出来ねーよ。」
「おぉ、そうだった。
一度でもタイミングが外れたら即、失格だ。
途中で体を支えきれずに崩れ落ちた時も失格。
それと…」
「まだあるのかよ。どんだけ注文すんだよ。」
「今回は途中から二人が参加するので、数のカウントは50からのカウントダウンとする。
二人の女性はカウント30から入ること。
それよりも前に入ってしまった場合、そこからスタートだ。
遅れた場合は、即失格。
わかったな。」
「はい、わかりました。」
「了解ッス。」
ウララとエリカが理解を示す。
「お前、俺と残りの二人の時で、なんかリアクションが違わないか?」
「あ?当たり前だろうが。
………開始5秒前だ、良いからさっさと準備しろ。」
イライラした口調で女神像が言った。
俺は、無言で準備をした。
そして…
「ごじゅーう………
よんじゅうきゅーう……
よんじゅうはーち……」
カウントダウンと共に、次の競技が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます