013話 いし

ウララに先導してもらう形で、俺たちは目的地に向かっていた。

しばらく進むとウララの言った通りの、二股に別れた場所に出た。


「あれ?こんな所に分かれ道とかあったッスかね?」


エリカが突然そんな事を言って、首を傾げる。


「うーん、私もあんまり自信ないんだけど、無かった気がするんだよね。」


ウララも同調して答える。

どうやら二人は以前にもこの道を通ったことがあるらしい。

その時には無くて、今あると言うことは…。


「つまり、道が生えてきたってことか?」


俺は独り言のように、そう呟く。


「草じゃあるまいし、道がホイホイ生えるなんてことあるわけないじゃない。」


それが聞こえたらしいグロウが馬鹿馬鹿しいとばかりにそう返す。


「いや、だけど、俺の家で親父の部屋に宝箱の部屋が生えたことあったしさ、可能性はあるんじゃねーか?」


「そう言われてみれば、確かにそうだったわね。」


グロウも納得する。

そんな俺とグロウとのやり取りに、ウララとエリカが興味を示す。


「え?ダンジョンが生えたんですか?」


「マジッスか?詳しく聞きたいッス。」


そう言われた俺は、ダンジョン『相沢家』の地下室の話を二人に聞かせるのだった。


話を聞き終えたエリカが、「何か凄いッスね。」と、漏らす。


「私たちの周りではそんな現象、今まで聞いたこともありませんから、もしかするとアイザワさんの周りでだけ起きていたりするのかもしれないですね。」


「あー、確かにアツシは持ってる人間ッスから、そう言うこともあるかもしれないッスよね。」


エリカがノリだけで同意する。


「この道だってアイザワさんたちの進行方向だったわけで、何も関係がないと考える方が不自然な気がします…。」


ウララも意味深なことを呟く。

グロウは半分ふざけながら、


「もしかして、あんたを捕まえようとしてたりするんじゃない?」


などと言っている。


「グロウさん、怖いこと言わないでくださいよ。」


ウララは、少し怖がっているようだ。

だが俺は、納得出来る部分を感じていた。


「いや、グロウ、それ、あるかもしれないぞ?」


グロウの言葉に返事する。


「あんた、何やらかしたのよ。」


既に何かをやらかした前提でグロウが俺をからかう。


「一つ、思い浮かんだことがあるんだけどさ…。」


俺は、ある仮説を披露することにした。


「なんッスか?」


「あぁ。俺って多分、ここに来るハズじゃなかったんじゃないかと思ってんだよ。

本来、来るハズだったヤツの代理みたいな?まぁ、こいつが間違えたんだけどさ。」


そう言ってグロウを親指で指す。


「え?どう言うことですか?」


ウララが少し前のめりになった。


「まぁ、俺がこれを持ってたせいなんだけどさ。」


俺はポケットからイノリのスマホを取り出す。


「あ、あたしのせいじゃないわよ。

あんたがその機械を持ってたのがいけないんでしょ?」


グロウはそのイノリのスマホを指差す。


「実はさ、こいつも持ってるんだよね。」


俺はさらに自分のスマホも取り出す。


「その二台のスマホなら、前にも見せてもらったッスよ。

それが何か関係あるんスか?」


「エリカにはちゃんと話したか分かんないけどさ、二台とも普通に使えるんだよ。

これがどう言うことかと言うと、ゲームで言う2垢プレイってことなんだよ。」


「それって何か問題があるんですか?」


「普通のゲームでは、特に問題がない場合が多いんだけどさ、この世界に関して言うと、俺が実態のないイノリを連れていることになってるんじゃないかと思ってるんだ。」


「えっと…良くわからないッス。」


「まぁ、一種のチートってことかな?俺が狙われているとしたら、それだと思う。」


「あぁ、なるほどッスね。」


「でも、だからなんだって言うんですか?

チートだったとして2垢だと何がダメなんですか?」


「そこなんだよな。

今のところ全くわからないんだよ。

もしかして、2垢だとなんか都合が悪いヤツでもいるのかな?

GMゲームマスターとか?

そもそも、いるのかわかんねーけどさ。」


「40点ね。理由が雑すぎるわ。

あと、意味わかんない。赤点よ。」


グロウがふざけて騒いでいる。

なんで赤点とか知ってるんだろうか?


「そうッスか?

私はちょっといる気がしてきましたッスけど?」


「ごめんなさい。私も、何となく違うのかな?…って思います。

そもそもGMゲームマスターって言うのが良くわかってないんですけど…。」


「あくまでも一般的な話なんだけど…。

要は、GMゲームマスターって言うのは、他の人が楽しくプレイするのを邪魔しているヤツがいないか監視する役割の人のことだよ。

開発者の場合もあるし、委託されただけの人の場合もあるんだけど、悪いことをしている人を排除する事ができるんだ。

所謂『垢BAN』ってヤツだな。」


「それがこの世界にもいるってことなんですか?」


「いや、いるって断言している訳じゃなくて、いそうな気がするって話だよ。予感と言うか、そんな感じ?」


「だとしたらBANされるのってアツシじゃなくて、グロウちゃんの方なんじゃないッスかね?」


「ちょっと、やめなさいよ。

なんであたしがBANされなきゃなんないのよ!」


「ただ、そんな気がしただけッスよ。

勘?みたいな感じッス。」


「俺じゃなくてグロウを狙ってる説な。

それもあるかもな。

そもそもEOにグロウみたいなやついないし。」


全員が一瞬、言葉に詰まる。

しばらくして、ウララが口を開く。


「それよりも、例えばこの世界自体が意思をもっているってことはないんでしょうか?」


ウララが持論を展開する。

そこにエリカが割って入る。


「でも、私はやっぱり世界を裏から操るヤツがいる気がするッスよ。」


グロウは考えているのか考えていないのかよく分からない感じで


「案外、両方あるんじゃないの?」


と、言う。

俺は…。


「結局さ、ここで考えててもしょうがないんだよな。」


と言い放つのだった。

残る三人も、ハッとした顔をして口々に


「確かにそうッスね。」

「そう言われてみれば…。」

「もっと早く言いなさいよ。」


と、言うのだった。


―――


そうこうしているうちに、目的地にたどり着いた。

さっきの二股の地点から新しく生えた道沿いに突き当たりまで進むと、ウララの言った通り、女神像らしきものが見えてきた。


「あ、あれです。」


ウララが指を指す方を見ると、その女神らしき像が淡く黄緑色に輝きを放っているのが見えた。

グロウはウララへの礼もそこそこに、スーっとその女神像に近づく。

それを俺たち三人も後を追う。


俺たちが近づくと、グロウは例のあのポーズをとっていた。

俺たちはそれが終わるまで、黙って見守る。

ウララとエリカは少し不安そうに見ている。

暫くすると、グロウが「ふーっ」と深く息をはいた。

それを合図に、


「どうだ、何か分かったか?」


と、俺が訊ねると、グロウは冷たく…


「あ、いたの?」


と、言ってきた。

いちいち気にしていられないので、「おう。」とだけ言っておく。


「多分…としか、今は言えないんだけど、この女神像が呼んでいるのは私じゃないわね。

明らかに一つの声しか聞こえなかったから。」


「ほー、と言うことは、その像が誰かを呼んでいる声は聞こえたってことか?」


「え、うん。まぁ……そう、なるかな。」


「ちなみに?」


「うん。『力を求めるものよ、私を求よ』だって。」


「おい、マジか。力、くれんのかよ。

じゃあ、みんなで触ってみようぜ。」


「えー?あたしも?

別に力なんて求めてないんだけど…。」


「良いから、良いから。」


俺は、後ろで見守っていた二人も呼んで一緒に触ることにした。


「いいか、みんなで同時にな。

じゃあ、カウントダウンいくぞ?

3、2、1、はい!」


像に触れたと思った瞬間、グロウが現れたときのような凄い光が辺りを包み、それと同時に目が開けていられないほどの強烈な眠気が襲ってきた。

その眠気に抗えず、俺は微睡みに落ちていくのだった。

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