010話 しんじつ
トンネルに俺の声が響いた。
突然の大声にグロウはビクッとなっていた。
エリカはと言うと………キョトンとしている。
え!?何?なんで???
俺は全く理解出来ずに内心慌てていた。
エリカは確かに、非戦闘キャラと敵モンスター以外のステータスを覗けると言った…。
だが、俺のステータスは見えないと言う。
つまり、状況から察すると二者択一だ。
俺は、敵モンスターじゃない。これは確実だ。
つまり…。
消去法で非戦闘キャラが確定する。
まぁ、確かにアイテム以外で戦ったこと無いからな…。
「何をそんなに驚いてるんスか?」
エリカは不思議そうに首をかしげている。
「だって、ステータス見えないってことは、非戦闘キャラってことだろ?そりゃ、驚くよ。」
よくよく考えてみると、非戦闘キャラと言われた方がスッキリするし、その方が当てはまる理由しか思い浮かばない。
さっきの戦い方を見て改めて思ったが、身体能力ではエリカに遠く及ばない。
もし、俺がエリカに勝てるスポーツがあるとすれば、eスポーツくらいだろうが、それですら消去法だ。
反射神経に勝るエリカが本気で鍛えたら、恐らく負けるだろう。
俺は密かに打ちのめされていた。
「え?全然違うッスよ?
アツシのステータスが見られないのは、アツシが私より単純に強いだけッスよ。
当たり前の事なんで言うの忘れてたんスけど、自分よりも10レベル以上強いキャラは味方でもステータス見えないッスよ?」
「へっ!?」
俺は顎が外れたのかと思うくらいにポカーンと口を開けてしまった。
あれ?そう言われてみれば、確かにEOにもそんな制限があったような気がしてきた。
EOでは特殊な下級職の道化だったから、転生の必要が無かったんだった。
おかげで、すっかりそのステータスのレベル表示制限の存在を忘れてたよ。
てへぺろ。
...こほん。
この話は少し面倒だが説明しておくことにする。
この件になぜ『転生』が関係するのかと言うと、転生をすると一度レベル1からやり直す必要があるからだ。
その『一時的なレベルダウン』の際にステータスが見えないと言う問題が発生するのだ。
まぁ、結局は何かの記事で読んだことがあると言うレベルの話なのだが…。
俺はさっきも言った通りの理由でずっとレベルMAXを維持していたからな。
なので、レベルキャップの都合もあって、俺(を含めたレベルMAXの連中)よりもレベルが高いキャラは風の守護者しかおらず、基本的に全てのプレイヤーのステータスが覗き放題だったのだ。
しかも、風の守護者は敵モンスターなので、もともと覗くことなど出来ない。
しかも、実装されたばかりで戦ったこともない。
...気にならなくて当然だったのだ。
だが、ゲームや異世界転生もののラノベでもあるまいし、ゲーム内での強さがそのまま自分の強さになるなんて都合の良い話が転がっているだろうか?
いや、そんな都合の良い話はない。
もし、俺がエリカに勝っているところがあるとすれば、それはEOについての知識とプレイ時間だけだ。
「まぁ、100歩譲って俺の方がレベルが上だったとしてさ、エリカには俺のステータスがどう見えてんの?」
少しだけ精神的なダメージから復活した俺は、見え方について質問してみることにした。
「んーと、ッスねー。先ず名前が見えます。
『アイザワ アツシ』って表示されてるッス。
それから、その隣に『LEVEL???』って表示されてるッス。
次にステータス欄に、HPとSPが表示されるところがあって、その下にATKとMAT、DEFとMDF、ACCとAVO、SPDとCRTの欄がそれぞれあるッスけど、全部?が並んでるッス。
つまり、アツシのステータスは見えないッス。」
なるほど…と、俺は思った。
確かに見えないと言う言い方も間違いではない。
だが、正確には……見えないじゃなくて『分からない』とか『表示されない』とかって言えよ!と、思っていた。
結局、自分のステータスは分からないままだったが、この世界にも俺の知っているEOと似たようなステータスが存在することが分かった。
一度は無いと諦めていた分だけ、喜びも大きい。
ちなみに、さっきエリカが言っていたアルファベットは、EOでは基本ステータスにポイントを振った後の計算結果的なものだ。
だから、俺もいつかは『ステ振り』が可能になると言うことなのかもしれない。
少しだけ希望の割合が大きくなったかもしれない。
―――
「それにしても、前にも言ったと思うんスけど、アツシはここまでよく死なずにこれたッスね。
私なんか初めに出会ったハチに瞬殺されたッスよ?」
ステータスの話題が一段落したと思ったのだろうか。
エリカは唐突に話題を変えてきた。
エリカに以前聞いた話だとこうだ。
モンスターに倒されるとそこからチュートリアルのようなものが始まり、それをクリアーするとターミナル駅の中央のところに連れていかれるらしい。
そこは一帯がセーフティエリアになっていて、その時も先客が何人か居たのだそうだ。
つまり、エリカ以外にも何人か俺たちのような仲間がいると言うことだ。
今回の俺たちの目的地もそこだ。
そこに行けば、もしかしたら俺もチュートリアルを受けることが出来るかもしれないからだ。
チュートリアルを受ければ俺のレベルアップやスキル習得、ステ振りも可能になるかもしれない。
…話を戻そう。
「まぁ、俺も確かに危なかったけど予めアイテムをいっぱい買い込めるだけの金があったから助かっただけだよ。」
「えっ?開始直後にどうしてお金があるんスか?」
エリカは、驚きのあまりに声が裏返る。
そこに、グロウも割り込む。
「こいつ、ずるいのよ2台目の機械を隠してたの!
あたしは1台しか活性化してないのに!」
「え?2台目?2台目ってなんスか?」
エリカは突然2台目と言われて、混乱しているようだ。
「あれ?言ってなかったっけ?
俺、スマホ2台持ってんだけど1台がオブジェクト化した友達?のやつで、もう1台が俺のやつなんだけどさ…。」
俺はあえてイノリの事を友達と誤魔化した。
と、そこへ申し訳なさそうに割って入るエリカ。
「あ、グロウちゃん、ちょっとごめんね、で、アツシ、それがどう関係あるッスか?」
どうでも良いが、エリカはたまにグロウの時だけ口調が違う気がする。
「ひどい、この子にも邪魔者にされた。」
グロウはエリカを指して俺にそう言う。
「お前が邪魔してるからだろ?」
「あ、グロウちゃんが悪い訳じゃないよ?」
二人同時に反対の事を言われて怒り出すグロウ。
「もう、どっちなのよ!」
「邪魔だな」
「邪魔じゃないよ」
俺とエリカの声がハモる。
「わかったわよ、しばらく黙ってるわよ。」
結局、グロウはふてくされて飛んでいくのだった。
「で、どこまで話したんだっけ?」
「えっと、アツシがスマホを2台持ってるってとこまでッスね。」
「あ、そっかそっか。で、その俺のスマホに、もともとEOやってたときのeteがいっぱい入ってて…。」
「ちょ、ちょっと待って欲しいッス。
もしかして、アツシ、そのイーオーってゲームのお金でアイテム買ってるんスか?」
「え?なんかダメなの?」
「いや、ダメとかじゃなくて、なんで使えるのかって思って...。」
「それは俺も思ってるんだよな。」
そう言いながら、俺は闇の中を飛び回るピンク色の発光体を目で追いかける。
少しの間をおいて、エリカがまた口を開く。
「あの、もうひとつ良いッスか?」
「あぁ、なんだ?」
「さっきからアツシがたまに言ってるイーオーってなんッスか?」
「あ、そうか、『エターナル・オンライン』って言うスマホ用のMMORPGの事だよ。」
「あーーーーーー、それ!!!」
突然大声を出すエリカ。
「おいおい、どうした!?」
「私、それ、友達に誘われてインストールしたやつッスよ!
時間が止まるちょっと前に!!」
「あぁ、だからなんだ?」
「ここに来た人はみんな、直前にそのゲームをインストールした人の確率が高いッス!」
今、初めて気づいたような声をあげるエリカ。
「俺は初めからそう思ってたけど?え?なに?今さら…」
そしてそれをさらっと受け流す俺。
エリカは泣きそうな顔になって、膝を抱えてしゃがみこむのだった…。
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