009話 らうどぼいす
普段、何も考えてなさそうに見えるエリカが、「安心しろ」などと不安をかきたてるようなことを言ったせいなのかなんなのか、俺たちの間には微妙な沈黙が流れていた。
エリカをチラ見しているグロウと、そのリアクションに迷っているエリカ。
そして、その様子を冷めた目で見ている俺。
その視線に気づいたエリカが訊ねる。
「あの?アツシ、なんスか?」
「いや、お前ら全然しゃべらねーなって思ってさ。」
「何しゃべって良いかわかんなかったんスよ。
喋りたくない訳じゃないッス。」
「喋りたいんだよな?喋れよ。」
「いや、でもそれはちょっと…突然だと難しいッス。」
「なんだよ、それ。じゃあ、グロウからなんか言ってやれよ。」
グロウはそう言われて、少し考える。
じゃあ、と前置きをして、切り出す。
「あなた、あたしの事なんで知ってるの?」
「なんでって言うか、知ってるんスよ。」
答えになってない。
なのに、複雑そうな顔をするエリカ。
理由については、喋りたくなさそうだ。
まったく、意味がわからない。
「兎に角だ。暫く一緒に行動するんだから、仲良くしろよな。」
「あ、はいッス。」
「わかったわよ。」
俺たちは、ターミナル駅のホームに向けて出発することにした。
そうして俺たちは再び地下へと潜っていくのだった。
俺の心配とは裏腹に、二人はすぐに仲良くなった。
「だからね、あたしが言ってやったの。
囮は引き受けるからって。そしたらアイツ、ずっと囮させるのよ?このかわいらしいあたしに…。
ね?酷いと思うでしょ?」
「確かに、アツシならやらせそうッスよね。
鬼か悪魔なんッスかね?」
……ま、俺への悪口なんだけど。
どうせなら、俺のいないところでやってくれれば良いのに…。
あ、いや、やっぱ、いないところで後から悪口言われてるの聞いたら凹むから、今で良いや…。
…いやいや、そう言うことじゃない。
「お前らな!」
「きゃー、キレたわ!」
「キレたッスね!」
…まったく、仲良くなりすぎるのも困ったものだ。
再び線路に降りてきて、初めて気がついたのだが、エリカはスマホを持ち歩いていないらしかった。
「あれ?エリカはスマホ無いのか?」
「え?スマホが何のために必要なんスか?」
俺は答える。
「暗いし、敵出るし、無いと戦えないだろ?」
エリカも答える。
「狭いし、片手埋まるし、邪魔ッスよね?」
話がまったく噛み合わない。
「「えっ?」」
お互いの答えに、お互いが固まる。
結局、喋っても分からなかったので、それぞれが戦い方を披露し合う事となった。
先ずは、俺からだ。
先に出てきたのはシャドーバットだ。
出てきた瞬間に、閃光弾をぶん投げる。
数秒のラグの後、溶けるように煙になってシャドーバットが消える。
それを見て、唖然とするエリカ。
「え?今何したんスか?さっきのアイテムなんッスか?」
「あぁ、閃光弾だよ?」
「どこで手に入るんスか?と言うか、どこから出てきたんスか?」
「え?道具屋で普通に買える。出てくるのは、道具袋から。」
「道具屋?知らないッス。アイテムボックスじゃないんスよね?」
「マジか!まぁ、微妙に違う気がするな。良く分からんが。」
怒濤の質問攻めに合う俺。
「でも、あのコウモリがあんなに簡単に倒せるなんて知らなかったッスよ。やっぱ、アツシ凄いッスね!」
そして、唐突な称賛。
同世代の女子に誉められるのは嬉しい気もするが、エリカの場合、何でも過剰に誉めるのでありがたみは薄い。
「そうか?」
とりあえず、とりあえずな返事をしておくことにした。
「そうッスよ!出来れば、あの黒くてちっこいやつの倒しかたも見せてもらいたいんスけど、良いッスか?」
シャドーマンの倒しかたは二通りあるが、
…コスパが良いから。
あ、一応言っておく。
『金なら腐るほどある』
―――
「あの、黒くてちっこいやつもああすれば増えないんスね!
アツシ凄いッス!エリカ、アツシに一生付いていくッスよ!」
エリカは跳ね回りながら、喋っている。
すごく喜んでいるようだ。
だが、実際に一生ついて回られるのも困るので、丁重にお断りする。
「じゃあ、お礼と言うか、お返しに私が戦ってるところも見て欲しいッス!
アツシのカッコいいところを見せてもらったッスから、エリカも頑張っちゃうッスよ!」
エリカはそう言うと、こちらを振り向いてニコッと微笑んだ。
かと思った瞬間、暗闇に向かって走りした。
次の瞬間、エリカは100メートル近く先に現れて、遠くで何かをしている。
凄い速さだ。
もはや、高速移動と言うよりも瞬間移動だ。
さっきの駅で俺の後ろに突然現れたときもあんな感じだった気がする。
あまりに遠すぎて、何をしているのかも分からない。
俺とグロウは慌ててエリカの方に向かった。
うっすらと、エリカの姿が視界にとらえられるようになってきた。
エリカの手にはいつの間にかナイフが片手に一本ずつ握られていた。
エリカは大量のシャドーマンと戦闘していた。
多勢に無勢に見えたが、その両手のナイフから凄い勢いで繰り出される攻撃で、シャドーマンがどんどん倒れていく。
増えたのか元々多かったのか分からないが、俺たちがエリカのもとに着いた頃には、戦闘は終わっていた。
エリカの足元には、数十体のシャドーマンが、煙を出して倒れていた。
「凄いな、攻撃が全く見えなかったぞ。」
「ホントね、あなたやるじゃない。」
俺だけじゃなく、グロウまでもエリカを称えている。
「えへへ、ありがとうございますッス。
でも、どうしてもあのちっこいのは増えちゃうッスよ。
アツシは凄いッスね。」
「いや、あの攻撃見せられたら俺が敵なら裸足で逃げ出すレベルだよ。」
「ほんとよね。こいつなんかアイテム頼みだし、アイテム使わないと何にも出来ないもんね。」
事実なので、ぐうの音も出ない。
「そ、そうだな。」
そんな俺の様子を見て、グロウとエリカは笑うのだった。
―――
お互いの戦い方を見せあって分かったのは、お互いが当初言っていた通り、俺にはスマホが必要でエリカには不要だと言うことだった。
もちろん、俺も道具袋の中身を取り出すのには、わざわざスマホを開く必要はないのだが、何が入っているのかを確認する必要があるため、結局開かないといけないのだった。
エリカのアイテムボックスと言うのは、ほとんど容量がないらしく、持ち換えるための武器と、緊急用の回復アイテムくらいしか入れておけないのだそうだ。
何枠あるのか確認したら、全部で8枠しかないとのことだった。
ちなみに俺の道具袋は99枠で、同一アイテムは99個まで一枠に収める事ができる。
さらに、戦闘中に倉庫や道具屋から補充することもできるし、逆に転送することもできる。
倉庫の枠数は確認したことがないから分からないが、今だけでも1000枠以上は使っている。
あ、ちなみにスマホは俺のとイノリのと2台あるから、二人分を合わせるとその二倍あることになる。
それと、ここが衝撃だったのだが、俺が普段開いているアプリをエリカは見たことが無いのだそうだ。
と言うのも、エリカには視界に俺が言うアプリの様なものが表示されているらしいのだ。
非戦闘キャラと敵モンスター以外はステータスも覗けるらしい。
モンスターであっても、名前とレベルは表示されるし、視界の範囲にモンスターがいれば、暗闇で姿が認識できなくても位置を特定出来るのだそうだ。
確かにそれなら、さっきのシャドーマンも発見出来た筈だ。
エリカの話からエリカが、俺のステータスも確認出来る事が分かったので、俺はかねてから聞いてみたかったことを聞いてみることにした。
「エリカ、頼みがあるんだけどさ、お前のさっきの話だと俺のステータスも見られるんだよな?
それを教えて欲しいんだ。」
時間が止まってから、何度もモンスターを倒して来たのにも関わらず、全くレベルアップもせず、なんならステータスすらもあるのか分からない日々を過ごしてきた。
そんな不安な状態だった俺の前に、ようやく現れたステータスを確認する能力を持つプレイヤーであるエリカ。
俺は、彼女にすがることにした。
「は?アツシのは見えないッスよ?」
「はぁーーーーーーーー!?」
俺は時間が止まってから一番の大声を出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます