第12話 嵐の後に

 掴まったまま、一夜を過ごした。あれほど咲き誇っていた花の楽園は無惨にも散々になってしまった。

 彼女は、風が弱まると木から離れていった。何か会話するわけでもなくお互いに背を向け視界に入れないようにした。

 強かった風は、いまや髪を揺らす程度に軽い。きっと彼らもあの渦巻から逃げるのに必死だったのだろう。

 彼女の手を取った時、俺も必死だった。失うと思うと自然と手が出てしまった。後悔はしていないといえば嘘になる。もしかしたら、風が弱まっていたかもしれないのに。

 顔を覆い深いため息をついた。彼女に聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。

「あの時は、本当にすまなかった……。余計だったかもしれない」

 すすり泣く声が聞こえた。なぜだろうか。風が流れる音も、草木が揺れる音も聞こえない。彼女の声だけが聞こえてきた。

「そんな事ないわ。本当にありがとう……。だけど、私たちはもうあの時間には戻れないっ……。最後は、きっと……」

 下の広大な海を見た。

 一度近づいてしまったらもう遠ざかることは出来ない。離れてしまえば大きな穴がぽっかりと空くだけだ。それを埋めるものはこの島には少な過ぎる。

「俺が言うのもなんだけど……。あまり悲しまないでくれ出来れば前みたいに……」

 これがどれだけ難しく、どれだけ残酷な願いなのか分かっている。しかし、俺は泣き続ける彼女に願わずにはいられなかった。

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