第11話 包み込む木の下で

 木の下で耐えている間にも風は段々と強くなってゆく。これ以上強くなったら木が危ないと思ったとき、今までで一番強い突風が吹いた。ぶちぶちと千切れる音が重なって聞こえた。

「みんながっ!」

 女がとばされてゆく花を気にして顔を上げた。その瞬間を、見逃さなかった風は彼女の体を攫ってしまった。

 女が飛ばされる。まるで時が遅く流れているような気がした。花の中にいる女は俺を見ると、涙を切るように目を閉じた。

 徐々に離れていく女の手を俺は掴んだ。

 彼女は、目を見開いたがすぐに悲しい顔をした。きっと彼女の眼には俺も悲しい顔をしていたのだろう。

 あぁ、あの暖かく神聖な関係は終わってしまった。彼女を引き寄せると、再び木に掴まらせた。

「すまない……。本当にすまない」

 目頭が熱くなり、耐えかねたように熱い涙があふれてきた。二人で守ってきた関係を壊してしまったのだから。木の向こうで泣く彼女の声に耳を澄ます。

「いいえ、ありがとう。ありがとう」

 言葉とは裏腹に泣き続ける。俺と彼女がうわ言のように同じ言葉を繰り返している間に風は徐々に弱まっていった。

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