第10話 荒れ狂う嵐の中で
段々と風が強くなっている。こちらに近づいているのは間違いなかった。風は逃げ惑い、花は恐怖のあまり伏してしまった。気が警戒するように枝をガサガサと鳴らす。
「なんだ……、あれは」
立ち上がろうとすると、逃げる風に押されてしまった。仕方なく気にしがみつき踏ん張った。女は大丈夫かと目をやると花と一緒にその場で伏していた。
「何をしている!早くこっちへ来いっ!」
叫ぶ声に、女はその場で首を振り拒んだ。
「嫌よ。近づきたくない……。壊れてしまうっ!」
言いたいことはよく分かった。近づいてしまえば今までの距離感が壊れる気がした。俺は、何も言えずに、ただただ風に耐えた。
頬に何か冷たいものが当たった。それは何度も当たり、間隔が段々と早くなりついには身体中を冷たいものが走った。
女が何かを言おうとしたのか顔を上げた時、風に煽られ体を浮かした。二人とも声を上げたが、運よくすぐに弱まり手足が地に着いた。
「頼む、ここに来てくれ。お前が近づくたびに俺が離れる」
大声で総ツエルト、こっちにこいとさらに催促した。女は大粒の涙を流しながら、首を振った。これでどうだと気から手を放し、後ろに気を付けながら下がろうとした。
「違うの、貴方はそこにいて!私も行くからっ!」
大粒の涙で身体中を濡らした。涙なのか雨なのか分からないほどに泣きじゃくりながら近づいてきた。女は気に抱き着くと、触れないでと弱々しい声で呟いた。
見ると白く華奢な指が震えながら木を捕まえていた。安心しろと小さく呟く。顔は見えないが泣き声と嗚咽が、何度も繰り返し繰り返し聞こえた。
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