第25話 《魔法少女・無信仰殺戮計画阻止戦》①


 決戦の場所はゴドにもジンマにもディマオンにも属さない中立地帯。いや空白地帯と言った方が正しいか。その場所はかつて神子が降臨したと言われる場所だった。

「オリジンラボねぇ……本当にここであってるんでしょうね?」

「へっくしゅん! あい。だからここで私は生まれたって言ってるです……あー景色がぐるぐる」

 その建物はただの石造りの神殿に見えた。というか間違いなく神殿だ。

「ただの神殿にしか見えないけど……ま、いいわ。此処に一発ぶち込んで終わりにしましょうか!」

 メルカの大口径砲が火を噴く、魔力弾が放たれ神殿に当たり跳ね返される。

「なっ!?」

「結界が張ってあるみたいだね」

 そこに神殿の奥から人が現れる。

「誰かと思えばルルディとナナディではありませんか! どうですか計画の方は?」

 まるで二人以外は目に入っていないような口ぶりの男。白衣に身を包んだ巨漢だった。

「あい……失敗しました……うぇっくし!」

「無信仰殺戮計画なんて物騒な計画には参加しません!」

 そこで男はやれやれと顔を振る。

「どうやらゴドやジンマにいじくられたようですね……神子としての意識が完全に失われている。この計画を立てたのは他でもない。あなたじゃないですかルルディ」

「えっ……?」

「惑わされないの。今のアンタは今のアンタ。昔の事なんて気にする必要ない。そうでしょ?」

 一瞬揺らいだルルディの心をがっしりと掴んだメルカ。

「……はい!」

「有象無象の方々もあくまで私達に刃向かうと?」

「そうよ……アタシも殺戮なんて胸糞悪い依頼なら受けない性質たちなんでね」

「そこはアタシ達でいいんだよメルカ?」

「そうですぅ! 私達は殺戮なんて許しませぇん」

「自分はそういうの向いてないっていうか……ッス」

退いて下さい。私達はここを壊します。これ以上、命を弄ばせはしません」

「? ルルディ……あんた記憶が」

「ふむ、どうやら此処に戻って来た影響で神子としての記憶が戻りつつあるようですね。いいでしょう。あなた達の児戯に付き合いましょう」

 パチンッ! と指を鳴らす博士と呼ばれた男。すると仮面の魔法少女がぞろぞろと神殿の奥から現れた。

「全員がナナディと同等、またはそれ以上と思って下さい。さあルルディ死なないでくださいよ」

「ちょっとちょっと!? マズいッスよこれ!?」

「確かに、流石にこの数の全属性魔法少女相手はキツいわね……」

「いやいや、キツいとか言う段階じゃなくてですね!?」

「鈴、今のメルカに何を言っても無駄だよ、完全に勝つ気でいるもの」

 博士が神殿の奥へと下がろうとする。ルルディはそれを追いかけようとする。

「待ちなさい!」

 しかし、そこに割って入る仮面の魔法少女達。

「邪魔しないで!」

 炎で辺りを焼き払うルルディ、その出力いつもの何倍以上もの威力が出ていた。

「神子としての性質が表に出てきてる……これはマズいかも……一旦下がってルルディ!」

 聞こえているはずなのに下がろうとしないルルディ、炎をがむしゃらに振り回し仮面の魔法少女達を圧倒している。

「このままだとルルディが神子として覚醒する」

「それは阻止しないとだねぇ」

「えっと私はどうしたらいいんスかね」

「私もぉ」

 メルカは一瞬考えすぐさま答えを出す。

「鈴はルルディ含む仮面の魔法少女達に風邪魔法をかけ続けて。んでフィズィはそれの補助。アタシと神輿が遠距離と近距離からルルディを援護している間に全員をダウンさせて」

「要は前のナナディ戦の時と一緒じゃないッスか!? それで行けるんスか!?」

「やるしかない。これ以上ルルディの神子化を進めちゃいけないのよ」

「はぁ……私も大災害とか大戦とか嫌なんで協力はするッスけどねぇ」

 禍々しい風が吹き抜けていく。神殿の結界はその風を押しのけている。

「まずはあの結界を破壊しないと……中で戦ってるルルディ達に風邪が届かない!」

 メルカが大口径砲を十門取り出す。メルカが出せる最大火力だ。

「いっけぇーーーーーっ!!」

 全門から一斉に魔力光線が放たれる。照射されるソレは確かに結界にダメージを与えている。さらにそこに神輿が炎の剣で斬りかかる。

 結界にヒビが入る。隙間から禍々しい風が通り抜けて行く。

「よし! このまま……」

 ガクン! と膝をついてしまったメルカ魔力を一気に使った反動だ。神輿も同じように膝をついている。

「ええ!? あんなちょっとのすきま風で呪いかけろって言うんッスか!?」

「いいからやりなさい! それしか方法はないんだから!」

 禍々しい風が強まっていく。結界を通り抜けると甲高い音を鳴らしていった。ルルディと仮面の魔法少女達は互角の戦いを繰り広げていた。いつの間にやらルルディもナナディと同じ様に違う属性の魔法を同時に使用していた。

 禍々しい風がどんどんと強くなる。よろよろと立ち上がるメルカと神輿。

「もっかい。行けるわね!」

「勿論」

 メルカの大口径砲一斉射と神輿の大上段からの唐竹割り。一文字に並んだ攻撃は確かに結界のヒビを広げていく。それに合わせるように禍々しい風も強くなる。

「私、出番ありませんねぇ」

「フィズィさんは私の精神安定剤なんで此処に居て下さいッス」

 そんなやり取りもそこそこに、再び、反動で膝をつくメルカと神輿。

 禍々しい風は確かにルルディと仮面の魔法少女達届いている。段々と動きが鈍くなった魔法少女がルルディに倒される。

「これルルディさんに効いてる気がしないんスけど……!?」

「むしろ協力してるだけに見えるね」

 神輿が膝をついたまま、そんな皮肉を言う。

「アンタ、仲間意識でつい対象から外してたとかないわよね!?」

「いや、そもそも此処に仲間意識なんて、そんなに持ってないというか……」

 その時だった。あれだけ居たはずの仮面の魔法少女達がいつの間にか一人になっている。ルルディとの一騎打ち。風邪の呪いを受けて、息も切れ切れな仮面の魔法少女と違って、ルルディ至って平静でいる。その時点で勝負は決まっていた。一閃、風属性で加速したルルディが剣型エクスターナルを使って峰打ちにした。

「倒したの……あの数を!?」

「私のアシストのおかげッスけどねぇ」

「でも神子の力ってのも本当らしい」

「あっ、ルルディさん、神殿の中に入って行っちゃいますよぉ」

「ああもう追いかけるわよ!」

 結界に開けたヒビから中に四人は入り込んだ。

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