第24話 《講義・神子とは》
「こほん、いい? アタシ達、魔法少女も人間も、みんな親から生まれて来たもの、それはもちろん知ってるわよね? ああ別にアンタ達の家庭事情とかには興味ないから」
メルカが会議室の黒板の前に立ち、親>子の図を描き始める。
「でも神子は違う。神子は自然発生する魔法のようなもの。人間よりスピリットに近い存在よ」
すかさずルルディが挙手する。
「じゃあどうして私には名前があるんですか? 名前とは親が付けるものなのでしょう?」
「それはきっと無信仰殺戮計画を進めようとした奴が付けた名前なんだと思うわ。神子をこっちの世界に定着させるための楔みたいなもの……かもね」
「楔……」
こほんと咳を一つ。メルカは話を続ける。
「この神子っていうのは基本的には災害みたいなものなの。オーパーツやエクスターナル無しで魔法撃ち放題の化け物。自分自身がスピリット。神秘的存在だから魔力もほぼ無尽蔵と言っていいわ」
「うぇ……そんな化け物だったんスかルルディさん……」
「ちょ、ちょっと引かないでくださいよ鈴さん!」
パンと手を打つメルカ。
「はい話の腰を折らない。この神子っていうのは決まって何か重大な災害や戦争の前触れとして現れる事が多いわ。そしてその災害を止めたり、逆に強めたり、戦争では片一方の陣営に味方したり、陣営関係なくめちゃくちゃにしたり。やりたい放題していった後に、自然消滅していくわ」
「聞いていくほどおっかないんスけど……こわ」
「うう……私消えちゃうんでしょうか……」
「すごい存在なんですねぇ」
メルカはその三者三様のあり方を見てため息を吐く。
「神輿、私って教え方下手なのかしら」
「三人がお気楽なだけさ、気にせず続けるといい」
黒板に書いていた図を消して改めて話を続けるメルカ。
「その神子っていうのが現れるのは大体千年単位の話だから知らない人がいるのも仕方ない事よ。でもちゃんと書物には神子に関して記されたものが残ってるわ」
「勉強したんですか?」
「偉いッスねぇ」
「メルカさんすごいですぅ」
こめかみに青筋を浮かべるメルカ、深呼吸して精神を整える。
「神子って言うのはこういう風にとてもじゃないけど人間じゃ手が出せないものなのはわかったわね? だけどこうして此処にいるルルディが神子だとナナディは言った。言ったわよね?」
縄に縛られたナナディが不満げに口を尖らせている。
「黙秘権を行使します」
「モクヒケン? どこのなによそれ」
「ジンマの法律だね。事件の容疑者の取り調べで黙っていられる権利の事」
「そんなの魔法で吐かせればいいだけなのに……ジンマって変よね」
「ゴドがちょっと野蛮なんじゃないかな……そういやディマオンの法律ってどうなってるんだろう」
「そんなのかの魔王女様が『私が法律だ』とか言ってるに違いないわ。
「くしゅん! ううむ、誰か妾のことを噂したな? ま、魔王女と呼ばれる身、それには慣れておるがな」
「それはありそうでやだな……やっぱ
「神輿、アンタも一応エウメニデスっていう共同体の一員なの忘れないでよね。此処では私がルールよ?」
「あーあ。そういえばそうだった」
やれやれと首を振る神輿。メルカは不満げだ。
「ちょっと待って、そのモクヒケンを知ってるって事は、ナナディもとい無信仰殺戮計画の首謀者はジンマ出身?」
「可能性はあるけど……出身だけ割り出せても僕たちみたいに集団から離れて自由に動いていたら関係ないんじゃないかな……実際ナナディはゴドを縦横無尽に駆けていわけだし」
「ゴド対ジンマの全面戦争かと思ったのに……神子出現はその予兆よ!」
「それだと順序が逆じゃないか? それにその展開だとルストラさんが一番喜びそうだ」
「うっ確かに……それはゴメンだわ」
ルルディがおそるおそる挙手をする。
「あの~神子の講義は終わったんでしょうか?」
ルルディ以外の二人はすっかり自由行動モードに移っていた。フィズィはキッチンでお菓子作り、鈴は自室に籠りに行った。ルルディだけが律義に講義の続きを待っていたのだった。
「あー、そうね。大体の説明は終わったわ。どう? 記憶とか戻りそう?」
「いえ……」
顔を俯かせるルルディ。メルカも思わず肩をすくめる。
「これ以上はどうしようもないわね」
「後はこれから僕達がどうするかだね。厄介事に顔半分くらい突っ込んじゃったみたいだけど、どうする?」
「どうするったって、これ以上ナナディが情報を吐かないならやれる事なんてないわよ」
そこでルルディが立ち上がる。
「でも私、その無信仰殺戮計画っていうのを止めたいです! きっと碌なものじゃありません!」
「それは……神子の神託?」
「……私の思いです」
真剣に見つめ合うルルディとメルカ。
「しょうがない……神輿、鈴を部屋から連れ出して来て」
「了解」
「えっえっ。どういう事ですか?」
「神子様の意見に賛成って話よ。またナナディを風邪にして敵の本拠地を吐かせるわ」
「ひぃ!?」
怯えるナナディ。苦笑いするルルディ。ニヤリと笑うメルカ。
こうして再びのナナディへの風邪尋問が始まったのだった……。
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