第17話 《報酬・魔法少女激昂》


 エウメニデスの本社内にピリピリとした空気が流れる。メルカがソファで貧乏ゆすりをしている。

「あーもう! 魔法少女五人持ってかれた!」

「仕方ないよメルカ、あの魔王女に交渉で勝てるはずもない」

 神輿がなだめすかす。しかしメルカはイラついたままだ。

「このままじゃ姉にいい様に使われたままだわ! ねぇ神輿、次はディマオンを相手にした依頼を受けない?」

 神輿はやれやれと首を振る。

「ルストラさんの無人機軍団に挑む勇気は残念だけど僕にはないね」

「意気地無し……」

 そこにルルディが会話に割って入る。

「無人機ってなんですか?」

「……姉さんが魔力で遠隔操作している兵器群の事よ」

「え、魔法って接触してないと使えないんじゃないんですか?」

「それは魔法少女それぞれの『バイパス』の質によって変わる。メルカのお姉さんのバイパスの量、質は間違いなく世界一だ」


「バイパス?」

「オーパーツやエクスターナルと魔法少女を繋ぐ魔力の流れの事だよ。個人差が大きいんだ。例えばメルカは十本ぐらいのバイパスを持っていて、それはつまり十個のオーパーツやエクスターナルを接続出来るって事になる」

「それでメルカさんのお姉さんは……?」

 神輿は眉間に皺を寄せる。

「……ほぼ無尽蔵、しかも非接触で魔力を送る事が出来る」

「そんなの無敵じゃないですか!?」

「そうよ、だからたった一人でディマオン帝国を立ち上げて、ゴド王国に反旗を翻した……厄介ったら極まりない」

 フィズィがお茶を持ってテーブルへとやってくる。

「そのせいでぇ……戦争が長引いているんですよねぇ……」

 それを聞いたルルディは何かを思いついたようにハッと顔を上げる。

「じゃあ、メルカさんのお姉さんを倒したら戦争が終わる?」

「倒せたら……ね」


 その一言は言外に、それが不可能だという事を伝えていた。ルルディは肩を落とす。そこに鈴が口を挟む。

「というかその魔王女さんはルルディさんの事知ってるみたいでしたけど。今回の報酬交渉の時になんか聞けなかったんですかッス?」

「アンタその無理やり『ッス』って付けるのやめたら? ……一応聞いたわよ。でも『時が来れば分かる』の一言しか返ってこなかったわ」

「後は多額の報酬で、黙らされたわけだ」

 神輿が不適に笑う。不服そうにするメルカ。ルルディは自分の事を知れずに残念に思い落ちこむ。話を振った鈴はどこ吹く風で、フィズィはおろおろとしている。


「とにかく次はディマオンに攻め込むから……これはもう決めた事。社長命令よ」

「これまた無謀だたなぁ」

「私、頑張ります!」

「えー……私、無人機相手じゃ役に立たないんッスけど」

「メルカさん、一度決めたらもう止まらないからぁ」

 こうして対ディマオンの依頼を探す事となったエウメニデス、五人は王都へと向かう。


 前回の海上戦闘の報酬で買った鉄騎で王都まで駆けるエウメニデス。エクスターナルの一種である鉄騎は魔法少女が使えばそれなりのスピードで地上を走る。

「さて着いたわね。再びのエンゼ01!」

 王都に来て真っ直ぐ向かったのは軍事基地エンゼ01だった。魔法少女の証である黒いローブを着込み中へと入る。一直線に司令室を目指しノックする。

「どうぞ」

「失礼するわ。今日は依頼の催促に来たんだけどいいかしら?」

 司令官のロッドマンが顎髭を撫でる。

「ふむ、急な話だな。して、その依頼とは?」

「ディマオンに攻め込みたいの。交戦区域の援護依頼を今すぐ出して欲しいんだけど」


「……ふむ、それなら丁度いいのがある」

 ロッドマンは立ち上がり机の上を漁り資料を探す。

「あったこれだ。ディマオン帝国が王都南のウリエという町を襲撃している。今は拮抗状態にあるが、いつそれが崩れるか分からん。君達が援護に入ってくれるというなら非常に心強い」

「それでいいわ。今すぐ受けたいんだけど構わないわよね?」

「ああ、構わない。こちらの戦車でウリエまで送ろう」

 そうして対ディマオンの戦闘依頼が締結した。メルカ以外の四人はあっけにとられている。


 戦車の中で揺られるエウメニデスのメンバー。操縦はメルカの希望で本人が行っている。

「これがゴドの最新式戦車型エクスターナルかぁ……なかなか悪くないわね……」

「そんなもの買う金も、売ってくれる所も無いだろう?」

「鈴、アンタはそうやって否定から入るけど、何も全部が全部、正攻法で挑む必要はないと思うは無い?」

「まさか盗む気ですかぁ?!」

「壊れたって言っとけばバレないわよ」

「私、エウメニデスに入って短いッスけどここまでひどいとは思わなかったッス……」

「メルカさんって結構強引なんですね……」


 戦場へとたどり着くエウメニデス。そこはまさしく地獄絵図。ディマオン帝国の無人機とゴド王国の兵器群がぶつかり合う爆煙を巻き起こす修羅場だった。

「さてエウメニデス働くわよ!」

「「了解!」」

 全員の返事と共に戦闘行動に移行した。

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