第16話 《海上・対艦魔法少女》②


 敵鉄船の甲板の上。敵の魔法少女が五人ほど陣取っていた。全員が中口径砲を構えている。土属性の装甲で魔力弾をやり過ごして魔法少女の一人に近づくルルディ。しかし別の魔法少女からの一撃で横に突撃を逸らされる。

「また囲まれたら……!」

 マズいと判断し、風属性に切り替える魔法少女を出し抜くルルディ。次いで神輿と鈴が甲板へとやってくる。

「!? その黒髪! ジンマの者ではないか! どうしてディマオンに与する!?」

「こちとら傭兵なんでね」

 炎の剣で中口径砲の一つを斬り捨て戦闘不能にする神輿。さらに潮風とは別の風が辺りに吹きすさぶ。

「私の風は風邪を呼ぶッス……ダジャレじゃないッスよ?」

 顔を青白くさせ倒れる魔法少女の一人。他の魔法少女も苦しそうだ。

「厄介だなぁ、君のそれ」

「敵味方区別出来る完璧仕様ッス! 褒めてもいいんッスよ?」

「はいはいすごいすごいっと」

 風邪のような症状に倒れる魔法少女の中口径砲を斬り捨てていく神輿。それを不思議そうに見る鈴。

「今日は人殺しとか言ってたわりには不殺なんッスね」

「メルカはそのつもりだったろうさ。最初の一撃で船を沈める予定だったんだから、でも予定が変わったからこうしてるだけ。エウメニデスの隠し信条みたいなものかな。なるべく殺さないってのは」

「それってメルカさんが、その信条を持っているって事なんですか?」

 ルルディが聞く。ふむと手を顎に当てて考える神輿。

「まあそうだね。あんまり人殺しは好きじゃないらしい。普段は絶対そんな事言わないけど」

「じゃあなんで傭兵なんか……っとうわぁ!?」

 船が大きく揺れた。魔力弾の雨が止んだのを機にディマオンの鉄船がジンマの鉄船に突撃を仕掛けてきたのだ。

「まだこっちに乗ってるのに!」

「彼らは魔王女様の妹以外に興味はないらしいね。さっさとずらかろう」

 ディマオンの甲板に乗り込む神輿達三人。ルルディは後ろに倒れている魔法少女達をどこか悲し気な目で見ていた。


「いやひどい目にあった」

「あら、そんなに手強かった?」

「そうじゃなくてこの鉄船の突撃の事だよ。止めてくれなかったのかい?」

「今が勝利のチャンスとか言って聴く耳もたなかったのよ。それより敵魔法少女は全員始末した?」

「無力化はした。殺しちゃいない」

「……また厄介な」

「どうするんだい?」

「なんとかあのク……我が姉に交渉してとしてもらうわ。ディマオンの捕虜じゃなくてね」

「なるほど、じゃあ今回の報酬で本社も大きく改修工事しなきゃね、いやもはや改築工事か。何せ寝る場所が無い」


「あのー。そんな上手く行くんすかね? あの人達、かなり愛国心高そうでしたけど……」

「だったら次はジンマからの依頼を受けてワンクッション置けばいいわ。そうやってなだめすかして押し切るのよ」

「うわぁ、やり方がえげつないッス」

「鈴みたいに簡単に国を売ってくれたらいいんだけどね」

 神輿がニヤリと笑う。

「だーかーらー、うちは裏切ったんじゃなくて……そうウチも捕虜! 捕虜ッス!」

「喜々として同胞を病に侵していた人のセリフとは思えないな」

「き、喜々となんかしてないッス!」


「はぁ、結局活躍出来ませんでした」

 落ち込むルルディ。甲板に体育座りで落ち込んでいる。横にフィズィが座る。

「私も最初はどんくさくって全然、メルカさんと神輿さんの役には立てませんでしたぁ」

「えっ!? フィズィさんが!?」

「そうですよぉ。誰だって最初は上手く行かないものです。それより戦場で一番大切な事があります。それがなんだかわかりますか?」

「えっと……敵をたくさん倒す事?」

「ぶぶぅ。不正解です。正解は『生き残る』事です。メルカさんの受け売りですけどねぇ。命あっての物種だって」

「……なんでそんな人が傭兵なんかやっているんでしょう?」

「さぁ、そこまでは知りませんけど。強い意志は感じます。きっと何かやりたい事があるんだと思います」

「やりたい事……」


 自分にやりたい事などあるのだろうかルルディは自問自答する。戦う事。そこに自分の存在意義ある気がしている。しかし同時にルルディはその状況に違和感を感じる。矛盾する感情。どうしてこんな気持ちになるのだろう。

 だが半ば確信的に思った。

(きっと答えは戦場にある)

 ルルディは拳を握りしめ。答えを探す誓いを立てるのだった。

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