第15話 《海上・対艦魔法少女》①


 鉄船とは、魔法技術転用により作られた最新式の戦艦である。鋼鉄で出来たその船は今までの木造船とは比べ物にならない防御力を誇る。今、エウメニデスの面々はその鉄船に乗り、海上へと乗り出していた。

 太陽を照り返しきらきらと光る水面。カモメが飛んでいる。いまだ敵影は見えず。甲板にてメンバーの五人は待機している。

「いい? こっからが本当のの仕事よ? ルルディ、そこだけはちゃんと覚悟しときなさい」

「……はい」

 少し俯きながらも真っ直ぐにメルカを見つめるルルディ。


「でもいきなり海上任務とはね。私の活躍の場が薄くなっちゃうよ……あ、でも一回はやってみたいかも斬艦刀」

「ザンカントー? なんですかぁそれぇ?」

「剣で船をぶった斬るって奴っスよ……あーあ、これだから戦闘気質の高い人はいやになるッス……そんなの魔力の無駄でしょうに……ていうか、それ以前に同胞を手にかける事にためらいとかないんスか!?」

 そう、今回の任務、鈴の言う通り対ジンマ皇国を相手取った戦いとなる。依頼主はディマオン帝国。メルカの姉だ。


「同胞なんて、もう何人斬ったか知れないよ。それより鈴はまだ抵抗あるの?」

「そりゃあるッスよ! もともとウチ正式にジンマに雇われた、いわば軍属みたいなもので、一応、愛国心的なものを捨てたわけじゃ無いッス!」

「あら? その割にはあっさりアタシ達に降参して仲間になったけど?」

「あの時はあーするしかなかったんっスー!」

 空しい叫びが木霊する。

『敵戦艦確認!』

 伝声管から響く声を聴いて五人は敵影を探す。見つけた。敵は大型の木造船だ。


「あれならアタシの魔力弾だけで充分そうね。アンタ達は下がってなさい。一発でケリ付けてやるわ!」

 メルカの大口径砲が火を噴く。魔力弾は大きく弧を描いて敵戦艦へと伸びていく。命中。爆煙を上げて燃え上がる敵戦艦。一撃で事は決まった。

「あーあ、やっぱり僕の出番は無しか」

 はずだった。

 爆煙が晴れるとそこにいたのは。

「鉄船!?」

 メルカが驚愕の声を上げる。しかしそこに冷静に判断を下す者が居た。

「そりゃ、島国のジンマですからね。鉄船なんてむしろ十八番みたいなもんですよ」

「そうか……大きな木造船はカモフラージュ……」

 すると敵の鉄船から魔力弾が雨のように降って来たではないか。


「皆さん! 私の後ろにぃ!」

 魔力弾をフィズィの壁に隠れて難を逃れる。

「敵にマジティカルまでいるの!? なんて事……あのクソ姉め……通りで報酬がいいわけだわ!」

「報酬に釣られたメルカが悪い。だからあの人の依頼は受けるなって何度も言っているのに」

「今、そんな事言っている場合じゃないでしょ! どうすんのよこれ!」

「もう一回、メルカさんの魔力弾で一掃するとか……?」

 ルルディの一言に力無く首を横に振るメルカ。

「残念だけどリチャージ中……もう少し時間が無いと撃てない!」

 敵の鉄船がこちらへと近づいてくる。降って来る魔力弾も止まない。

「アイツら……このまま突撃してくる気か?」

「よっぽど自分達の鉄船の強度に自信があるんでしょうねッス」

「ぶつかって来てくれるのは好都合なんだけどね」

 距離はどんどんと縮まってくる。こちらの鉄船は仕方なく進路を譲るように敵の鉄船を避けるような進路を取る。


「意外とディマオン兵って弱腰なんッスねぇ、ゴド大陸全土に宣戦布告したような集団だからもっと凶悪なの想像してたんッスけど」

「そらただの魔王女信者集団だもの……軍人としては素人もいいとこでしょうよ」

「えっ、そんなんでどうやってゴドやジンマと戦争を?」

「……我が姉のワンマンパワーごり押しよ」

「嘘でしょ!? 敵は国一つ、下手すりゃ二つッスよ!?」

「それが出来るのがクソ姉の馬鹿魔力なのよ」

「おっとメルカ、それ以上口を悪くすると士気が下がるよ?」

「知らないわよ。妹ってだけで勝手に崇められても」

 そうこう話ている間に鉄船同士が間近に近づいてくる。


「私! 乗り込みます!」

 フィズィの壁から飛び出すルルディ。強化外骨格を展開する。

「ああもうやっぱり戦闘狂じゃないあの子! 神輿! 援護お願い! 出来たら鈴も!」

「了解」

「……了解ッス……子守りは苦手なんすけどねぇ」

 敵の鉄線に乗り込む三人。フィズィの壁に隠れチャージを待つメルカ。海上戦闘が始まる。


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