第11話 《実践・応用全属性魔法少女》①


 一旦、エウメニデス本社まで戻って来た三人。フィズィが出迎えてくれる。

「おかえりなさぁい。皆さんどうでし……メルカさん!?」

 そこには号泣しながら神輿に肩を借りているメルカの姿があった。

「うええええん! やっぱ神様はアタシたちの働きを見てくれてるんだわぁ……うわぁん」

「見てたら普通、こうはならないと思うけどね……僕は後が怖いよ」

「あ、あはは」

 苦笑いするメルディにフィズィがそっと近寄る。

「な、なにしたんですかぁ?!」

「いや、私が全属性の魔法が使える事が大変珍しい事らしく……」

「なぁんだ……全属性…………えぇ!?」

 目を思い切り丸くするフィズィ。さらにそこに奥の部屋で休んでいた鈴も合流する。

「なんすかうるさいッスねぇ……こっちはまだ馬車酔いが抜けてな……メルカさん!?」


 全員に事情がいきわたりメルカが落ち着いた頃。ティータイムを開いたテーブルにて「これから」の話が始まる。

「アタシ達はリーサルウェポンを手に入れたといっても過言ではないわ」

「いや流石に過言では……ッス」

「何よ鈴、なんか文句あるわけ?」

「いや、確かに全属性の魔法を使えるなんて前代未聞ッスよ? でもそれを一度に全部をコントロール出来るわけでもなし。結局は運用としては一属性単騎と変わり無いのんじゃないッスかねぇ……」

「……あんたホントに鈴?」

「人を勝手に馬鹿キャラにしてたッスね!? 脳内で馬鹿扱いしてたんでしょう!? ッス!」

「鈴、素が出てるぞ、こういう時は素を出したほうが負けだ……」

「あら神輿、アタシはいつでも素よ?」

「どうだか」


 何やら不穏な空気が流れる。風属性魔法少女の鈴は空気を読んでこれ以上会話に参加しない事が吉だと察知する。しばらく沈黙が続く。その静寂を破ったのはフィズィだった。

「お茶入れますねぇ……」

 逃亡、これも一種の処世術である鈴はフィズィのポジション非常に羨ましく思った。こうしてまた始まる沈黙、鈴はちらりと話題の中心であるルルディを見やるが、おろおろしているばかりで、この沈黙を破るのに期待できそうにない。

 結局、沈黙はお茶が運ばれてくるまで続いた。


「我々、エウメニデスとしては、このリーサルウェポンの実戦配備も兼ねて、正式軍からの依頼を引き受けたいと思うわ」

「反対一票」

 神輿が挙手。ムッとなるメルカ。

「うっ、ウチも反対一票ッス」

 今度は鈴が挙手、ムムッとなるメルカ。

「私も、反対ですかねぇ……いきなり正式軍からの依頼は新人さんにはハードルが高いですよぉ」

 トドメにフィズィが挙手。ムムムッとなるメルカ。

「過半数反対で自動的に却下だけど一応聞くわ、ルルディ、アンタはどうなの?」

 俯きがちだったルルディが顔を上げて言う。その目は真剣だった。

「自分は賛成です! 私は自分の事が知りたい。そのためには私が運ばれてたっていうゴドとかジンマとか、私の事を知っていたディマオンのメルカさんのお姉さんの事とか知りたい事たくさんあります! そのために出来る事なら何でもやります!」

 瞳を輝かせるメルカ。その眼で辺りを見回す。見回された三人は、全員同様に「うわぁ」という表情をした。


「というわけで、本人から強い希望があったわけだけど! だけど!」

「うざい」

「あん?」

「巣を出したねメルカ。僕はそっちの方が好きだよ……ふふふっ」

「しまった……コホン。というわけで話を元に戻しますが、アタシとしては折衷案を取りたいと思います」

「「折衷案?」」

 メルカ以外の全員の言葉が綺麗に重なった。

「それがこれよ!」

 バンッとテーブルの上に一枚の紙を置くメルカ。そこには『依頼・軍事演習の協力を依頼したい』との旨の事が書いてあった。

「へぇ、軍事演習の手伝いねぇ。こんな依頼来てたんだ。僕知らなかったよ」

「私も初耳ですぅ。メルカさんいつの間にぃ?」

「これが来たのは最近よ、でもこれを上手くこなせば軍とコネが出来るかもしれないと思って取っておいたわ」

「取っておいた? どういう事ッス?」

 そこで神輿が得心いったように頷いた。

「なるほど、報酬が微妙なわけだ」

「たった100万じゃねぇ。エクスターナルも買えないわよ」

「だけど確かに、ルルディの訓練にはピッタリだ」

「私、頑張ります!」

「それじゃ行くわよ、いざ王都へ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る