第9話 《合流・魔法少女の御茶会》②
「いやー、偶々、馬車が通りかかって良かったわねぇ」
そんなのんきな事を言うのはエウメニデス、リーダーのメルカだ。此処はエウメニデスの本拠地であるゴド王国、王都の外れの田舎町。
「いや……この魔力技術転用の時代に馬車って、うえっぷ……ちょっと奥で休ませてもらうッス……」
青白い顔をして、本社(といっても小さな小屋程度)の奥、社員用の私室に入っていく鈴。
「だらしないねえ……同じジンマの出身として情けないよ」
奥からうるせーッスっと抗議の声が聞こえたが神輿は無視した。板張りの床、ぼろいとまでは言わなくともそこそこ年期の入った建物の中。メルカ、神輿、フィズィ、ルルディの四人は、丸いテーブルを囲むようににフィズィがせっせと用意した椅子に座る。
「フィズィ。お茶もいれてくれる? まだ残ってたわよね?」
「あっ、はぁい。分かりましたぁ」
キッチンというには少し小さい場所に入っていくフィズィ。
「ほんと、フィズィ使いが荒いよねメルカは」
そこでムッとするメルカ。
「何よ。アタシだって鈴がダウンしてなかったら鈴にやらせてたわよ」
「そこは自分でやらないのかという意味なのでは……」
「ルルディ正解」
その言葉を聞いてふんぞり返るメルカ。
「アタシは社長よ? なんで社長が椅子並べてお茶くみしなきゃならないのよ」
神輿はやれやれと首を振って、ルルディは困ったように身を縮こませる。フィズィがお茶を入れて戻って来た。お茶菓子もセットだ。
「あれ? お菓子までは頼んでないわよ?」
「あ、えぇとぉ。ルルディさんお腹空いてるんじゃないかなぁって」
その時だった。きゅぅというお腹の音が鳴ったのは。顔を真っ赤にするルルディ。にこにことほほ笑むフィズィ。にやにやと笑うメルカと神輿。
ティータイムのセットは紅茶にアップルパイだ。
「僕が切り分けよう、均等にね」
そう言ってどこからともなく包丁を取り出してアップルパイを切り分けていく神輿。その手さばきはまさに職人技と言ってもいいほどだった。まあたかがアップルパイを切り分けているだけなのだが。
ルルディはアップルパイを差し出されるとすぐさま飛びついて掴んで口に放り込んだ。
「一切れを一口で!?」
神輿が驚いていたがルルディは気にしない。もぐもぐとアップルパイを堪能している。
「あー……アタシの分も食べていいわよ」
そっとルルディの前にアップルパイを差し出すメルカ、ルルディはんー! と呻きながら目を輝かせていた。紅茶を口に運ぶ。アップルパイがルルディのお腹の中へと流し込まれていく。次のアップルパイへと手を伸ばすルルディ、それを制するフィズィ。
「ゆっくり食べましょう? まだおかわりもありますからぁ」
「んぐっ。あっ、はい! ごめんなさい。わたしったら……」
「ま、いいんじゃない? どういう扱い受けてたのかしんないけど、久々の食事みたいだし」
「珍しく優しいねメルカ、こりゃ明日は雨だな」
「なんだとこんにゃろめ」
ティータイムも終わり、本題に入る。
「さて、新米魔法少女ルルディちゃんに一から十まで説明するとしちゃいますか」
「そうだね、せっかく危険な任務までやって得た戦果だ。せめて使い物になるようにはしてあげよう」
「お二人ともぉ、ルルディちゃん怖がってますよぉ……」
ぐへへと笑う二人からルルディを庇うようにしてフィズィが立つ。それをまあまあ座ってなよと神輿が制する。メルカはにやけ面をやめて真剣な表情をする。
「ま・ず・は! そうねぇ。手っ取り早く流れるように説明できるようオーパーツから始めましょうか。ルルディ、オーパーツって何か分かる?」
「えっと、これの事ですよね?」
六角形の石板を取り出す。
「んー。正解だけど不正解。答えは『ミースサイファ』を記された遺物、それがオーパーツ」
「ミースサイファ……ですか?」
「そう、封印されし魔法の力、それがミースサイファ。そして流れるように次へ、ルルディ、スピリットはちゃんと近くに居る?」
「あっ、はい! ここに」
ぽわぁという光が現れる。テーブルの上に置かれた六角形の石板の上に止まる。
「スピリットの正式名称は『デサイファスピリット』ミースサイファを解読して開放してくれる……いわば神様の一種」
「……え?! 神様!? このちっちゃいの神様なんですか!?」
「一種って言ったでしょ、本当は精霊とか妖精のが正しいのかもだけど、大昔の人はこれを神だと崇めていたわ」
「すごいんですね。オーパーツにスピリット!」
「ええそうね、あと、エクスターナルユニット……通称エクスターナルってのもあるけど、それはまあオーパーツの模造品とでも思っておけばいいわ」
「そう、ですか。そんなものまであるんですね」
「ええ、なんせ今は魔力技術大転用の時代ですもの。過去の古代的な技術は排斥されつつあるわ」
「そうなんですか、信仰は失われてしまったんですね||」
「そこまでは言ってないけど……どうしたの?」
「……あれ? いえ、ふと口から出てきてしまって」
「ま、いいわ、次は実践と行きましょう!」
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