第8話 《合流・魔法少女の御茶会》①


 合流ポイント、ゴド王国とディマオン帝国との国境沿いにある戦乱の地にしてマジティカルの稼ぎ場所らくえん

「何もこんな危険な場所選ばなくても良かったんじゃないの?」

 神輿が腰に手を当てながら聞く。メルカはブースターに突っ伏して答えた。

「だって列車の通るルート的にここが一番ベターだったのよぉ……」

「ひぃ!? 今、なんか遠くで銃声がぁ……」

「フィズィさん、落ち着いて下さいッス!?」


 わちゃわちゃと姦しい様子を一人の少女が見ていた。柔らかな白髪が揺れる。

「あの……それで……私は……どうすれば……」

 おずおずと聞いてくる。メルカは思い切りため息を吐いた。盛大に。

「やっぱあのクソ姉の情報で動くんじゃなかったわ。何よって! それじゃ戦えないじゃない!」

「まあ落ち着きなよメルカ。彼女が怯えてる」

「怯えさせ時なさいよ報酬泥棒なんだから」

「彼女が取った訳じゃない。それにもうすぐ君のお姉さんから使い魔が飛んでくるんじゃないの?」

「そりゃ来るかもしれないけど……それってコイツを受け渡せって事でしょ!? そっれも癪なのよねぇ……」

「八方塞がりだねそれは」


「あ、アハハ……」

 白いふわっとした髪に似合わないタイトなコスチュームに身を纏った少女は思わず苦笑する。

「本当に何も覚えてないわけ? 名前とか」

「名前……ですか……? そうですね……」

 瞬間、魔力弾が五人の近くに落ちて来た。爆発。直前に四人を守る形でフィズィが壁を展開する。膨大な魔力がまき散らされる。煙が晴れると無事な五人の姿があった。

「この流れ弾も、あの姉のせいだと思うと腹が立つわ……!」

「まあまあ」

「し、死ぬかと思ったッス……」

「はぁ……間に合って良かったですぅ」

「思い出しました!」

 先ほどまでの大イベントなど無かったかの如く白髪の少女は語る。

「私の名前はルルディ! ルルディ・フランコです!」

 

 そんな事言っている間にもばかすかと流れ弾が飛んできている。

「で!? 他には!?」

「えっと……私、これを持ってるみたいです」

 ルルディがどこからか取り出したのは六角形の板だ。石で出来ているように見え、そこには不可思議な模様が刻まれている。

「ふむ、これはオーパーツじゃないか?」

「じゃないとと困るわよ!」

 ドカン! また近くに流れ弾が飛んできた。いっそこっちを狙っているのではないだろうかとメルカは思った。

「あと……この子も」

 ぽわぁと浮かび上がる光。蛍のようにルルディの周りをふよふよと浮遊している。

「こっちはスピリットですねぇ」

「ええ、間違いなくね」

「えと、思い出したのはそんな感じです。でも。この子たちがなんなのかとかは特に思い出せなくて……」

 メルカが腕を組んで思案する。リーダーの決定を待つ面々とルルディ。

「……超ド新人マジティカル一人追加ってとこかしらね」


「え?」

 ルルディがこくりと横に首を傾げる。

「アンタは今日から我がPMC、エウメニデスの新戦力って事! ビシバシ新人研修していくから! いいわね?」

「は、はい!?」

 神輿は額に手をやり、やれやれと首をを振る。

「こうなったメルカはもう止められないからなぁ」

「ううっ、うちの時もそうだったッス……」

「懐かしいですねぇ……私も無理やりスカウトされましたぁ……」

 しかしルルディの反応は他とは違った。真剣な眼でメルカを見つめ返す。その視線に(おっ?)という反応で様子を見るメルカ。

「なんのお仕事か分かりませんが……記憶もない私を雇っていただけると言うのなら、私頑張ります!」

「「「おおー」」」


 メルカ以外の三人が驚いていた。意外と度胸のある子だなぁといった感想だ。記憶が無いだなんて心細いだろうに。気をしっかり保っている。

「その言葉を待っていたわ!」

 瞳をきらきらと輝かせるメルカ。完全に獲物を捕らえた猛獣の眼だ。パッパッと先ほどからの流れ弾で体についた砂ぼこりを払うメルカ。他もそれに倣う。

「じゃあまずはこの戦場近くから無事脱出するのが研修の第一試験よ! さぁゴーゴー!」

 走り出すエウメニデス。遅れてルルディも付いていく。魔力弾の雨あられが降り注ぐ。ちゃっかり壁を傘のようにして上に構えているフィズィとその近くに陣取る鈴。神輿は颯爽な走りで弾を躱していく。たなびくスカーフに砂ぼこりも突かせない。

 肝心なメルカとルルディだが、この二人はただ走っているだけだ。


「ちょっと!? たしか……メルカさん? あのブースターは使わないんですか!?」

「そういや自己紹介もまだだったわね! ま、それは無事に会社に着いてからね。それでブースターの件だけど、あれは流れ弾で推進装置がやられっちゃったからもう使えないの。だから危険区域を抜けるまで祈って走れー!」

「え、えー!?」

 ルルディの叫びが戦場に響き渡ったのだった。

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