第7話 《対列車高速戦闘・魔法少女争奪戦》③
ブースターを列車へ近づけるメルカ。列車からは反撃の掃射が飛んでくるがそれを難なく躱してみせようとする。それでも完全には躱しきる事は難しい。いくつかの弾は神輿が斬り捨てた。
「ひいぃぃ!? 当たる! 弾当たりますってえぇ!?」
叫んでいるのは鈴だ。フィズィの後ろではなく神輿の近くにいるので余計にそう感じている。しかしブースターの上を不用意に移動する事は出来ない。
「ごめんなさい鈴さん。私の盾大きいからぁ……」
そうフィズィの盾がブースターの容量を食っているので本当ならば操縦席に一人、両側に二人乗れるブースターの内の二席を占領しているのだ。
「安心しなよ、流れ弾ぐらい全部見切れるから」
「いや、そうは言っても、壁と剣一本じゃ安心感が違うっていうかああああまた来たああああ!!」
キン! キン! キン! 炎の刃がそんな音を鳴らすはずもないのに、弾を切り裂く神輿の魔法は見事に流れ弾を斬り伏せて見せた。
「これでもまだ不安だと……少しやる気なくしちゃうなぁ」
これは脅しだ――っと鈴は直観した。
「流石! よっ! ジンマ一! いや大陸一!」
「はっはっはっ! そんなに褒めても何も出ないよ? あっはっはっは!」
笑いながら弾をばっさばっさと斬り捨てていく神輿。
「私、思うんだけど、この中で一番のSって神輿よね」
「え、えぇ……? 私にはぁ、ちょっと分かりません……」
この天然めと思いながらブースターを操作するメルカ。右へ左へ、時には上下を繰り返し列車とつかず離れずを繰り返している。
「ねぇ神輿、高笑いしてるところ悪いけど、ぶっちゃけどこの貨車に例の貨物が積み込んであると思う?」
言われた神輿はふっと高笑いを止めて列車を眺め、顎に手を当てて、ふむと考え込む神輿。その間にも弾は飛び交っているのだが、片手で制している。
「二両目……かな」
「あら神輿にしては時間かかったし言い淀んだわね?」
「うん、どうにも寝ている人肌の熱というのは察知しにくいね。まあでも十中八九『荷』だと思うよ」
「了解! ブースター全開!」
ゴオォォォ! という音と共にブースターが猛煙を噴く。鈴が後ろを見てぎょっとしていた。
「これ大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ですよぉ~。メルカさんの運転で事故が起きた事はありません!」
「え、えぇ~ いやいやでもほら万が一とか!」
「ほら新人! 無駄口叩いてると振り下ろすわよ!」
「ひぃ!?」
宣言通りのようにブースターを左右に揺らしながらぐんぐんと前へと進んでいく。段々と先頭車両が見えてくる。噴煙を煙突から吐き出しながら走る列車。魔力技術転用全盛期の今になってなんと時代遅れな。
「捉えた! 皆乗り込んで!」
一気に列車とブースターとの距離を近づけるメルカ。その号令と共に神輿、鈴、フィズィの三人が乗り込んでいく。
「後は頼んだわよ! 回収したら、前に伝えておいた地点で合流! 分かったわね!」
「了解」
手をひらひらと振る神輿。
「了解しましたぁ!」
敬礼するフィズィ。
「りょ、了解ッス……(うう、やりたくない……)」
そうしてメルカは外側の敵の目を引き付ける役に徹することになる。
列車内部。
といってもそこはまだ列車と列車を繋ぐ連結部でしかない。神輿がドアを魔法で斬り、蹴り破った。そして戦闘には壁を持ったフィズィを先頭に中に入る。しかし大きさが足りず列車の壁をフィズィの壁が破壊して中に入る事になった。
「蹴破った意味なかったな」
「流石フィズィさん!」
「ご、ごめんなさいぃ?」
さて中に入った訳だが反撃がない。神輿が刀を先に、フィズィの壁の影から出して、次に顔を壁の外に出す。そこには誰も居らず。あるのは『棺』だけだった。
「し、死んでるんっすかね? なーんて、あはは、はぁ」
鈴が一人ネタをやって一人落ち込んでいる。フィズィはそれを見かねて頭を撫でてやった。神輿は棺を見分する。ガラス戸から棺の中を見る。
「どうやら息はしてるみたいだ。まさしく眠り姫ってとこだね」
遠くから足音が聞こえてくる。エウメニデスの狙いがこの車両だと気づいた一団が後方車両から駆けてくる音だ。
神輿が棺を開ける。ソレに鍵などはかかっておらず、簡単に開ける事が出来た。
「はい鈴、担いでおいて」
「え゛っ、なんで私が!?」
「だって……君、今何も持ってないじゃん」
だから当然と言わんばかりだった。
「いやいやでも、私じゃ守り切れないっていうか、なんというかッスねぇ~」
なんとかしのぎきろうとする鈴だったが、神輿は慈悲なく、ある意味慈悲たっぷりに告げる。
「その子を持ってれば敵の弾には当たらないよ、重要物資だからね(多分だけど)」
「その任、是非とも私に任せていただけないかとッス!」
ちょろい、あまりにもちょろかった。脅され過ぎて精神が不安定になっているのかもしれない。
棺から少女を担ぎあげる鈴。その少女もメルカ達と同じ魔法少女というよりタイトなコスチュームのマジティカルの恰好をしていたが、一見してオーパーツが見当たらない、もしやこの棺がそうなのだろうかと神輿は疑ったが、この棺を運ぶ余裕は今は無かった。
「とりあえず第一目標達成、逃げるよ!」
「了解ですぅ」
「やった……じゃない了解ッス!」
足音がすぐそこまで近づいてくる。こちらも入って来た扉と壁の残骸から外へ出ていく。この車両の後方の扉が開かれた。
「おい! 待てソイツは!」
「じゃあねジンマのご同胞さん」
「し、失礼します!」
「お、お邪魔しました~ッス」
フィズィの壁を地面に向けてそこに三人一緒に乗って飛び降りた。
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