第4話 《対戦車待ち伏せ・戦場の魔法少女》③
手に持っていた輪を高速回転させる少女、するとたちまち辺りに暴風が吹き荒れる。
周りの砂を巻き上げ、辺りの景色は、軽い砂嵐の中に入ってしまったかのようになる。
「属性特化か、物理ユニットと組み合わせるのが主流の最近じゃ珍しいね」
「いやいやちゃんと組み合わせてるっしょ―、ほらーこんな風に!」
砂に紛れ死角からの攻撃、少女が持っていた輪は外側が刃のようになっていた。
しかし神輿はそれを剣で受け止める。幼い頃から武術を習っていた彼女は魔法を使わずとも気配を察知し死角からの攻撃に対処する事が出来る。
「なるほど、その背中の羽根が風で高速移動するためのユニットで、その輪っかは風属性の魔法を強化しさらには攻撃にもつかえるように刃も付けたユニットか、合理的というか節約思考というか、島国のジンマらしいよね」
「なにが言いたいし」
問答をしながら風に紛れ多角的に攻撃を仕掛ける少女を、神輿は難なくいなし会話をつづけていく。
「僕もジンマの生まれでね、そういうのの弱点は知ってるんだ。フィズィ頼む」
「あ、はい!」
二人の戦闘をなんとか目で追っていたフィズィは神輿の合図を受けて、その巨大な盾を持ったまま少女へと突進した。
「んな!?」
突然の乱入に不意を突かれ、突撃を真正面から受け止めてしまう少女。
盾と輪がぶつかり押し合いになると、そこには火花が散っていた。
「やっぱりその刃自体も輪の回転とは別に回転してたんだ。その回転こそが魔法の要、風や砂で自らの手を隠しながら攻撃してたみたいだけど、その回転さえ止めちゃえばこっちのもの」
「うっさい!こんな盾すぐに真っ二つに……」
「そりゃ……無理ね、軍の基準で言えば、Aクラス、つまり最上位の魔力防壁を持ち、その力を込めたフィズィの盾を切れる訳ないわ」
「やっとお目覚めかい? リーダー」
メルカはよろよろと起き上がり、盾に抑えられ身動きの取れない少女に向かって告げる。
「さて、あたしが起きたからには、あとはあんたがどこに逃げようと撃ち抜けるわけだけど、どうする?」
「ど、どうするってなにさー……てかなんであんた起きて……」
「なんでって、その今あんたが絶賛苦戦中のフィズィの魔法で治してもらっただけよ、そんなことよりさ、こっちとしてはさ見逃してあげてもいいし、なんなら仲間にしてあげてもいいんだけど、みたいな」
なんとかして盾から逃れようとする少女しかし、魔力防壁による、不可視の圧力に阻まれ、そして周りには敵二人が武器を構え脅し文句。いわゆる絶体絶命だった。
「……降参、降参でーす!」
半泣きになって叫ぶ少女、これにより戦闘は終了した。
「さてと……」
少女を縛り上げ、どうしたものかと思案する三人。
「とりあえずさ、あたし達の受けた依頼はあの戦車隊の殲滅でさ、あんたは対象外だから殺さなかったんだけども、でもほら追加報酬とか依頼主からせびるためになんかジンマの情報とかもってたらくれないかなーって、なんかあんた愛国心とかないみたいじゃん?」
「ひどい言われようっしょー……いや、あくまで軍の装備をバカにしただけで、別に愛国心がないとかそういんじゃないっていうかー、一応マジティカル、国家公認の戦う魔法少女な訳だしー、夢とか正義とか最低限は守らなきゃ―みたいなー」
「御託いいからさっさと吐きなよ」
揺らめく刀身を顔の前に翳す神輿。
「いやああ!で、でも自分、そんないい情報なんてもってないし、し、強いていうなら、なんか三日後に重要な『何か』を輸送するとか、なんとかで、この任務が終わったらそれの護衛にあたる予定で……」
「ふーん、重要な『何か』ねぇ、まあいいわその情報で自由にしてあげる。もちろん後ろから攻撃されたら困るから武器は没収するけど、であんたさえ良ければウチで働いかせてあげてもいいって話はさっきもしたわよね?」
「いやー、さすがにこのメンバーに入るのはなんかキツそうっていうか……」
「んじゃサヨナラ」
「え、ちょっと待って、ほとんど裸一貫みたいな状態で荒野に置き去り!?軍も裏切っちゃって戻れなそうなのに!? ちょ、ちょっと待ってくださいよー入る入りますー」
置いて行かれそうになった少女は、必死に三人娘に追い縋る。
「その言葉を待ってたわ!ちょうど雑用係が欲しかったの!あなた名前は?」
「ええ、ざ、雑用!? ……ああっと自分は加賀瀬鈴……っす」
「鈴ね了解、じゃあ神輿あんたがそいつの教育係ね」
「はいはい分かったよ」
渋々といった様子で了承する神輿。
「あの……これからよろしくお願いしますね?」
おどおどと話しかけるフィズィ。
「さあて鈴には、三日後の輸送任務への道案内もしてもらうわ!どうせならその重要物資を依頼主への土産にして思いっきり金をせびろうじゃないの!」
嬉々として物騒なことを口走るメルカ。
哀れな少女、加賀瀬鈴はこの日よりプライベートマジティカルカンパニーの一つ。
問答無用の無茶苦茶三人娘として悪名高い「エウメニデス」の一員となってしまったのである。
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