第2話 《対戦車待ち伏せ・戦場の魔法少女》①


 あちこち岩だらけの荒野、風が吹きすさび砂が舞い上がっている。

そこに少女が三人が三つ葉のような配置で寝そべっていた。

 互いに違う方向を向き、岩の陰に隠れるようにして周囲を警戒していた。

 その少女達は華奢な体に似あわない『武装』をしており、そこ戦場であるということを申し訳程度主張していた。


 少女の一人がおそるおそるといった感じで口を開く。

「……あのぉ、ほんとに兵装はこれだけでよかったんでしょうかぁ?」

 しかし残る二人は無言のまま返事をしない。

 そのまま、しばらく無言の時間が続く、風の吹く音が妙に大きく聞こえる。

「あうぅ、あのぉ……メルカさぁん?」

「チッ、あたし宛てか、あのねまず声が小さいのよ、この暴風の中じゃ全然聞こえないの、あとは分かりづらいから次質問する時は回答者の名前を指名してよね、まだあるわあたしのことはリーダーって呼ぶようにいったよね? あ、あとあとそういう系の質問はブリーフィングの時に済ましておいて仕事場に出たら聞き返すことのないようにとも言ったよね、後……」

「リーダー、そのへんにしといてやりな、フィズィが涙目だ」


 メルカと呼ばれた少女が、最初に質問した少女、たったいまフィズィと呼ばれた少女にたたみかけるように話というか説教しているのを残るの一人の少女が止めにはいる。

「神輿はフィズィに甘過ぎ、もうチョイ辛く厳しくしたほうがいいわ。そうね世界一辛い唐辛子くらいな感じで」

「ひえぇ!?」

「メルカ、その分かりづらいギャグはやめろって言ってるだろう、というかお前の中ではギャグでも周りからしたらギャグになってないんだよ」


「……ごほん、まあいいわ話を元に戻しましょう。フィズィあんたなんで今更、装備のことなんか気にしてるのよ」

「いえだってぇ、相手は戦車がいっぱぁいみたいな話だったじゃないですかぁ、もうちょっと装甲とか厚くてもいいのかなぁって」

「あんたそれ以上装甲積めないじゃない」

 そもそもフィズィは巨大な壁の様な盾を持っているのだ。

「いえ私じゃなくってお二人が、神輿さんは接近戦タイプなのにぃ、いつもの追加装甲無しだなんてぇ」

 神輿の装備は手に持っているメカメカしい槍の柄と鍔だけしかない様なモノを一振りだけで他はなにも装備してはいない。


「まあ僕は基本避けられるから大丈夫だ。それにもし怪我したらフィズィが治してくれるだろ?」

「ふぇ? あ、はいぃ、もちろんですぅ!」

「ったく、このやりとり何度めよ、似たようなこと毎回繰り返してんじゃないわよ……ったくほら無限軌道の音が聞こえて来たわ、仕事の時間よ」

 そう言ってメルカ持っていた大口径砲を岩の上に身を乗り出し構える。

「ケルビー、デサイファ開始してバイパスから魔力供給開始」

『リョーカイ、ゼンリョクデイケー』


 少女の装飾は古代の文様を模しているようだがフォルム自体は機械的でところどころタイトなスーツ部分が見え隠れしている。その機械的な部分から太めのコードが大口径砲へと繋がっており、そのバイパスに光が巡り、砲塔に力が宿る。

 遠くより、近付く戦車の列、その数は五十輌程度。

 風と砂に若干ながら視界を遮られている。

「マジティカルの護衛は無い……か、となると無効も遊撃に回ってるわね、さっさとこっと落としたほうがいいかも」


「僕が探しておこうか?」

「いや、いいわ、それより私の撃ち漏らしをお願い」

「御意にってね、じゃあ行ってくるよリーダー、さぁオニオニよ、デサイファ開始してくれ」

『ガッテン』

 魔法を起動し速度を上げた神輿は岩陰を渡り戦車隊の方向を目指し移動を始める。

「じゃあ私はぁ、いつも通りメルカさ、じゃなかったリーダーをお守りしますぅ」

 フィズィはメルカの傍に立ち岩から出て目立たないようにしながらいつでも守れるように盾を構えその時に備える。

「ホント頼んだわよ」

 それぞれの動きを確認してメルカは頷き、一つしっかりと呼吸を行い精神を集中させる。


 魔力が生まれ、漲っていく、魔法が現れようとしている。

「んじゃまずは景気よく一発いきましょうかねッ!」

 大口径砲に魔力が、膨大なエネルギーが収束する。

 その力は隣のフィズィが怯えるには十分であり、轟音と共に辺りの暴風が一瞬止み、代わりに起きた衝撃で辺りの砂が波紋をのように広がっていった。

 放たれたその一撃は、風を押しのけ進み、そのまま戦車隊の半数以上を吹き飛ばして見せた。

 それも一瞬の出来事であり、爆音がワンテンポ遅れてこちらに届く。

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