第213話 凱旋

 ルバン王国へ入り、途中で伝令が来て王城で陛下がお待ちしていますと伝えて来た。

 やはり牙狼村へ直接帰れば良かったと思ったが、一応ルバン王国で貴族として辺境伯の爵位を拝命している以上は無視する訳には行かないので、王都に入ったら王城へ向かうと伝令に伝える。


 間も無く王都に着くと、正門には衛兵隊が整列していた。


「ん?何かあったのか?」


 衛兵隊隊長が前に出て

「神田辺境伯閣下に敬礼!!」


 ザッっと足並みを揃えて数百人の衛兵隊が敬礼をして正門が開く。


 中には騎士団から近衛兵隊までが王城までの大通りに整列して、その周囲には民衆が折り重なるように集まり、割れるような歓声が上がった。


「神田辺境伯閣下の凱旋パレードです。王城まで先導いたします。辺境伯閣下と奥様方は民衆にご尊顔を向けて頂けると幸いです。」


 近衛兵隊の隊長がちょっとニヤッとしながら進み出て来た。

 彼とは何度か酒を飲んだ仲なのだが、俺が面食らってるのを見て、コイツ面白がってるな。


 隣国を出るときにスペンサー・ロレーナ公爵が意味深な事を言っていたのが漸く分かった。

「まぁ、王都に着いたら歓迎されると思うよ。」

 なんて軽く言ってたのはこの事だったか。アイツ知ってやがったな。


 民衆の大歓声の中、王城に到着。

 ここから馬車を降りて謁見の間まで向かう。


 謁見の間の大扉が解放されると、宰相や大臣たちを筆頭に貴族たちが整列していた。

「神田辺境伯閣下のご入場です!」

 門兵の声が掛かると、盛大な拍手で迎えられた。


 此れにも一同面食らうが、笑顔の門兵に「どうぞ。お進み下さい。」と促されて、国王陛下の前に跪く。


「神田真悟人辺境伯 王命により隣国を制定し帰還いたしました。」


「うむ。此度の働き大儀であった。」


 お約束のやり取りをして、後は褒美となるのだが実は褒美として渡せるものが無い。


 爵位は辺境伯の上となると一応侯爵になるが、辺境伯の扱いがルバン王国では侯爵待遇で軍隊持ちの為にあまり意味が無い。

 公爵は王族の血族扱いの為に名乗れない。

 大公も論外。


 姫様の降嫁も考えられたが、お年頃の姫様は既に嫁ぎ先が決まっている。

 何人か残っている姫様たちはまだ幼いので、スティングの相手には良いだろうが真悟人とは齢が離れているしトゥミ達が良い顔をしない。


 金銭に関しては、ハッキリ言って真悟人達の方が金持ちである。

 酒や転移陣、魔道具や娯楽施設などの利権や収益事業には枚挙に暇がない。

 だからこれ以上金銭を送られても使い道に困るだけである。


 苦肉の策として、辺境伯領は海に面しているのでその左右の土地。

 片側は迷宮魔女の森とそれに面する海沿い。

 片側は隣国の海に面する土地のおおよそ3分の1程度。

 これにより、神田辺境伯領はこれまでの2.5倍以上の広さになりルバン王国最大の領地となる。


 ただ、迷宮魔女の森とその海沿いは未開の地であり、隣国側の海沿いは荒れ果てていて再興が厳しい地域である。

 しかし、今回の隣国を廻った際に河川と海岸沿いは浄化を行っている。

 という事は復興するにも河川と海は浄化済の為に、スムーズに進む筈である。

 後は優秀な文官を揃えれば何とかなるであろう。


 今回の褒章は土地と優秀な人材という事で話は付いた。

 他の貴族たちは、優秀な人材はともかくとして未開の土地や荒廃した土地を下げ渡されても褒美では無く嫌がらせにならないかと心配したが、数年後にはまた大きな利権を生み出す重要な場所になるのである。



「王城での用事も済んだし、今度こそ村に帰ろう。」


「「「「「「「はいっ!」」」」」」」





 神田辺境伯領

 ルバン王国随一の発展近代都市である。

 人々の生活は他の領都には真似出来ない設備に溢れ、ここで生活したらもう帰れないと言われている。


 道は広く平らに慣らされ、馬糞が落ちている事も水たまりが出来る事も無い。

 側溝は広く深さもあるが、人が通る場所には蓋がされて落ちないようになっており、絶えずキレイな水が流されていてゴミが溜まる事も無い。

 中には錦鯉というこの地にしか居ない色とりどりの大きな魚が泳いでいるが、この錦鯉の密猟が現在問題になっている。


 人々の移動は、遠距離は高額な転移陣を使用するが、街中はモノレールという柱の上にぶら下がって動く長い乗り物に乗って移動する。駅と言う拠点が所々にありそこでモノレールに乗り降りするため人々が集まる。

 その周辺には商店や飲食店が集まり更に人々が集まるので、治安の悪化や環境の悪化が社会問題となっている。


 生活の方は冷蔵庫や洗濯機、掃除機、エアコンなどの発展で、食物が保存出来て家や服もキレイになるし、暑い夜も快適に寝られて寒い夜に凍死する者も減った。

 水やお湯が蛇口を捻るだけで出るので、お風呂が普及してキレイになり健康な者も増えた。トイレも水洗式になり、最新式はお湯でお尻が洗えると大反響だ。

 ただ、トイレに生ごみを流したりして下水を詰まらせて酷い事になる者も後を絶たない。使用方法の徹底と、周囲に迷惑を掛けた時の損害賠償と言う罰則が進められている。


 そんな首都から少し離れてエルフの村落では、莫大な人口増加と工業化が進んでいた。もう村落なんて規模では無く巨大工業都市である。

 ただ、作っている物は魔道具。

 冷蔵庫、洗濯機、エアコンは白物魔道具と言われ、文明生活の3種の神器だそうだ。


 そんな新製品の中でも初期からの息の長い商品もある。

 魔ッチと竹筒水筒である。地方や他国への輸出では断トツの売り上げを誇っている。

 責任者は当然、ラダン、ポメロ、ルミックの3人だった。が、ポメロはラダンと結婚して家庭に入った。1男3女を設けてエルフとしては記録的な多産と言われている。ルミックも職人だったエルフと結婚して…、離婚した。原因は男の浮気。

 1女を設けていたが、シングルマザーとして仕事に復帰。

 魔ッチのスペシャリストとして後進の育成に励んでいる。

 ラダンにはルミックも娶れという圧力がじわじわと加わッていて、ラダンは狼狽えているがポメロはルミックと仲良しだし、夜の生活もルミックが居れば楽になるかもと考えていてルミックとの話も済んでいる。

 後はヘタレのラダン次第だが女同士の作戦があるようだ。


 魔ッチと竹筒水筒の原料である竹。

 竹林の拡張が限界まで来て、どうしようかと言う頃に辺境伯領の拡張がなされた。

 その為、隣国の荒れた地域に竹林を拡張。一大産業として地域復興の礎となった。


 そして、牙狼村は。

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