第212話 帰郷

「帰るかぁ!」


 崩壊寸前の隣国を平定して、久しぶりにルバン王国に帰る事になる。

 新しい国の名前はまだ議会で選定中だそうだ。


 その辺りには関わらないのが神田辺境伯クオリティ。

 政治経済に絡む面倒くさい事には関わらない。

 良いんだか、悪いんだか?


 帰りは転移で一気に帰るつもりでいた。

 でも、気が変わり、国境だった川の村に寄ってみようと思ったのだ。

 越境の関所で、豚面にお灸を据えた村である。


 あの関所から海方面へ向かって進んだので、王都から向かうとこの国をグルっと回った事になる。

 観光スポットも無く、村に寄っても悲しい思いばかりの周遊?であったが、実情を見る事は出来た。


 まだ改革してから数週間であるが、多少の変化が見られるのか?自分の目で見てみようと思ったのである。

 それに、スティングとエリザベスにも良い方向に向かってる事を見せて、決して間違ったことはしていないと教えたかった。

 その為にも自分の目で見るのが一番だと思ったのだ。


 そうして王都からルバン王国への道中にはいくつもの村々があった。

 焼け爛れた村や崩壊しそうな村もある。

 目を覆う惨状だったと思わせる痕跡が残った村もある。

 でも、どの村も諦めていなかった。


 そこに残る人々は、圧政から解放されて、希望を持っていた。

 真悟人達が立ち寄ると、集まってくれて持て成してくれようとする。

 涙が出る思いだった。


 辛い日々を過ごしたが、漸く明るい日々が来そうだと希望が持てる。

 希望が持てるだけで笑顔になれると村長は言ってくれた。


 ただ、本当に大変なのはこれからである。

 田畑をやり直さなくてはイケナイ。狩りを再開しなくてはイケナイ。食料を確保して生活を立て直すのだ。


 色んな村に寄るたびに村の生活基盤を考える。

 農業しかできない村には、真悟人が先頭に立って開墾を進めたり、漁業が出来る村には漁の道具や簗の仕掛けや網や釣り道具を教え、狩りがメインの村は、狩りの手法や罠を教えて、イノシシやニワトリの様な鳥を家畜として山で飼う方法も伝える。

 山犬を飼い慣らす方法や、水鳥を田んぼで飼う方法など、自然を利用して共に生きる事を進めて行く。


 村々に立ち寄るたびにそんな事をしているので、帰りは来る時より大幅に時間が掛かってしまった。

 真悟人の道具たちによる異常な開墾速度や、トゥミたちが簡単に動物を捕える罠や植物の苗を集める様に村人たちはいつしか救世主扱いする様になって、懸命に否定する真悟人達だった。


「本当の救世主はロレーナ公爵、スペンサーだよ。あんな男が本物だよ。」


 真悟人は独り言ちた。

 トゥミ達は何も言わなかった。


 そうして国境だった川のほとり迄着いた時。

 大勢の人が橋の周囲に集まっていた。そして、真悟人達が近づくと大歓声が起きて口々にお礼を叫んでいる。


 集まった人々は、周囲の村の人々や国境警備隊だった人間の家族や関係者で、国境の関所だった所を村として人々を集め、家族を呼んで、関係者や知り合いが集まり、結構な規模の村となっていた。


 国境警備隊が解放されて隊長になった男が前に出て、

「カンダ辺境伯閣下!お帰りなさい!」

「「「「「お帰りなさい!!」」」」」


 真悟人は一瞬、ウルッと来たが何とか持ちこたえて言った。

「ああ。ただいま。君たちは名実共に解放されたぞ!」


「「「「「ううぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!」」」」」

 大歓声である。


 国境警備隊の隊員たちからも、家族たちからも口々にお礼を言われる。

 スティングとエリザベスにもありがとうと言ってくれる村の者たち。

 本当に良かったと泣きながらお礼を言い合っていた。


「ボス。」


「へい。」


「アル。」


「はい。」


「準備は良いか?」


「「はい!!」」


「トゥミ。」

「はい。」

「サラ。」

「はい^^」

「シャル。」

「はいっ。」

「カレン。」

「はーい。」

「ユナ。」

「ヘイッ。」

「スティ。」

「はい。お父さん。」

「エリー。」

「はい。お義父様。」


「今晩は最後の夜だ。思いっきりやるぞ!」

「「「「「「「はいっ!」」」」」」」

「良しっ掛かれ!」

「「「「「イヤッフ~!」」」」」


 何の事は無い。

 またBBQである。


 行掛けに隊長たちとやった時の10倍以上の人数は居るだろうか。

 みんな痩せている。ガリガリと言っても良い。

 この国ではそれだけ食い物も無く搾取されて、もう国としての機能も無かった状態で奴隷のように生きて来た。


 汚泥の様に絡み付き搾取していた権力者たちは、粗方は殲滅または捕獲して来たが、まだまだ残って居るだろう。そして上が居なくなれば後釜に座ろうとする亡者たちも大挙して押し寄せて来る。


 この国の浄化はまだ始まったばかり。

 何処にも利権にしがみ付く金の亡者たる老害たちは後を絶たない。


 難しい事考えてたら、折角のBBQが美味しくないですよ。

 と、なんとエリザベスに諭されてしまった。

 そりゃそうだ。


 サラとスティがニヤニヤしてる。

 エリーに言わせたのはあいつらか。

 やろ~~!

 しかし、酒は楽しく飲まないとな。

 良い機会だからエリザベスと話しながら飲んでたらスティングがヤキモキしてるとサラに教えられたので、ニヤッと笑ってやったら怒りの突撃をしてきた。

 青いね~。ヤキモチも程々なら良いスパイスだよな。


 そんな楽しい時を過ごして、みんなで雑魚寝。

 ここでもエリザベスが俺の傍に来たので、スティングは気が気じゃないらしい。

 トゥミ、サラ、ユナたちがあ~んなストレートなヤキモチ焼かれると、なんか嬉しいよね~なんて話をしていて、俺の勘違いヤキモチ家出事件を思い出したりして…

 その話は勘弁して下さい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る