第211話 公開牢

 腐った国を旅しながら、寒村を巡る。


 瘦せこけた農民崩れの盗賊や、金目の物を集めて逃げる貴族たち。

 どの村でも搾取されて生きていたのが不思議なくらいに弱った者たちと、血色の良い顔で被害者面する権力者。


 前の村で行った様に集めて話を聞くと必ず搾取する側に回っている村の若い者たち。

 暴力で虐げられる村の者たち。

 心が張り裂けそうだった。


 スティングが我慢しきれず村の若者を叩きのめした事も一度や二度じゃない。

 エリザベスですら泣きじゃくりながら村の女を切り刻んだことがある。


 もう、辛すぎる。

 子供たちにこんな過酷な現実まで見せたくなかった。


 村が正常化してくると残された村の者たちの方が強い気持ちで立ち直ろうと笑顔を見せてくれる。その笑顔で救われた気持ちになる。

 俺たちは間違っちゃいないよなって。



 そして、漸く王都に着いた。



 大きく開けられた外門にはルバン王国の旗が翻り、騎士たちが整列して出迎えてくれた。左右一列に並び、道を作る様はルバン王国本隊が到着して王都は制圧済な事を示していた。


 その中を真悟人たちは入場していく。

 王城前ではスペンサー・ロレーナ公爵がマリー夫人と共に出迎えてくれて、馬車から降りると地鳴りのような歓声が上がり、歓迎ぶりを表してくれていた。


 ロレーナ公爵とカンダ辺境伯は固く握手を交わし、民衆の歓声に応え、王城入りを果たした。


「真悟人、お疲れ様だったね。」


「ああ、スペンサーも随分と大変だったみたいだな。」


 二人は互いに情報交換を行い、今後の事を話し合う。

 スティングは着いて早々に木剣を持って中庭に向かい、騎士たちと訓練する様である。エリザベスは久々に母親に会い、抱き着いて声を殺して泣いていた。


「よく頑張ったわね。エリー。」


「はい。お母様。私は…私は、何も知りませんでした。」


「ええ。人の醜さ汚さを沢山見たと思います。辛かったですね。」


「私、 ・・・ 人を殺しました。どうしても、許せなかったんです。」


「ええ。私もありますよ。一度や二度じゃありません。」


「お、お母様もですか!?」


「私も人ですから、感情を抑えられない事もあります。ただ、間違ったことをしたとは思っていません。エリー、あなたは間違ったと思っていますか?」


「いえ、いいえ。その女は、沢山の子供を手に掛けていました。子供を攫って、男の子は奴隷として売りに出し、女の子は身体を売らせていました。そ、そして、使えなくなった子供は、殺して臓器を売り、それに食べるのです…」


 青い顔でぶるっと震えながらその時の様子を話すエリザベスを、マリーはそっと抱きしめた。


 辛い体験で心が悲鳴を上げているのをゆっくりと宥める様に優しく抱きしめる。

 それだけでエリザベスの心は落ち着きを取り戻してきた。


「スティと誓ったんです。二度とこんな酷い事が起きない様に。こんな国にしない様にと。あの夜。二人で誓ったんです。」


「そうね。流石にここまで酷いとは思っていなかったの。私もスペンサーと共に誓うわ。」


「はい。」




 この国はルバン王国の指導、監視の下、全てを一新して復興することになる。

 食料などはルバン王国が支援を行い、周辺国へも物資輸入の助力を願った。

 国として立ち直るために後ろ暗い事を行っていた貴族たちはほぼ粛清され、能力のある者は平民でも採用されて、議会政治に近い仕組みになる。


 農村や漁村も復興されて、ルバン王国からの最新の農法などが伝えられて収穫率も飛躍的に上がるようになって行く。インフラ整備などの公共事業もどんどん発注されて仕事に困る事はない。


 今までの停滞が噓の様に様々な事が回り始めた。

 その裏で、甘い汁を吸い続けていた王族や上級貴族たちはどうなったか。


 真悟人が滅ぼした街の凄惨な状況は特殊な例として、大抵の都市の領主たちはルバン王国支援のクーデターから捕獲され、一族郎党公開処刑になっている。


 そんな中には善政を敷いていた者も居て、そんな者たちは更に大きな領地を運営する事になる。


 そして、貴族関係の特に腐敗した者たちは、殺される事無く生き地獄を味わう事になる。自分たちが行ってきた事がそのまま自分に返って来る。


 公開牢と言われる監獄に飼われ、プライバシーも何も無く、食事もカビたパンや残飯が与えられる。自殺出来ない様に食事は手掴みで、トイレもシャワーもあるがそれも衆人環視の中で行う。毎日内職のノルマを与えられるが出来高によって食事量が変わる。


 男性牢ではストレス解消に来る者が多く、周囲からの投石などは致命傷の時だけ治療されている。中には弓矢を持ち出す者が居て、流石に取り締まられていた。


 女性牢では、特に若い女性牢の周囲には絶えず若い男性が群がっている。


 公開牢ではあるが、互いの牢は見えない配置になっていた。

 大人の貴族には伝えられていないが、成人前の子供は思想や能力、性格を調べてそれぞれの処遇が決まる。

 性格が傲慢だったり恨みを拗らせている様な者は奴隷落ちとなる。

 幼年の者や、才能、能力があり性格に問題が無ければ、更生余地ありとして教育機関に送られ社会復帰が見込まれる。


 成人後の者や貴族の通う学園などに居た若年層は、性格診断が行われこれまでの素行が調べられる。ここでも才能、能力があり性格に問題が無ければ、更生余地ありとなるが、大抵は親と同様に強欲で傲慢であり更生余地の無い者が多い。

 男は大抵奴隷落ちだが、女は公開牢が多い。体力も無く働かないから奴隷でも役に立たない為である。


 公開牢に入った者は精神に異常をきたす迄そんなに時間は掛からない。

 その後は無縁墓地に埋葬という名の生き埋めで終わる。


 それが状況が変わって来た。

 公開牢でも中には強かな女も居て、身体を見せて衆人から差し入れを強請るのである。牢の扉を開けて一緒に逃げようと絆された馬鹿者が監視の衛士を襲う事件があったが、鍵を持ってる訳は無く、更に魔法錠なので一人では開かない仕様となっている。そんな事は知らないから、衛士を襲う事件が有ってから魔法錠の仕様が周知されて、簡単には開けられない事が理解出来た様で、馬鹿者は居なくなった。


 また、差し入れは禁止「餌を与えないで下さい」となり、入場料を取るようにしたら、特定の娘に寄付、寄進が集まり出した。

 現金から衣装、ドレス、家具やエロい下着まで。人気順位迄付いて、公開牢アイドルなんて意味不明な状況となっている。


 最近では公開牢って刑罰になって無いんじゃないかとの意見もあるが、寄付、寄進は公開牢運営に使用しますと了解を得てから受け付けているので、実は意外と事業として成り立ってしまっている。その為、寄付指名された娘の生活改善策も取られ出した。広い牢になって家具が置かれたり、寄付された品物が直接渡される様になった。


 生活改善された牢は他の公開牢からも見える様になり、自分も寄付を集めようとストリップだけじゃなく、歌や芸事を練習しだす姿が見れるようになる。


「お父さんは公開牢って見に行った?」


「バカ、お前そんなトコ行ったらトゥミ達に殺すって言われてんだ。スティは行ったのか?」


 首を横にフルフルと振りながら

「殺すって… エリーに一緒に行くと言われて止めた。後が怖そうだもん。」


「おう。それが正解だ。君子危うきに近寄らずってな。」


「李下に冠を正さず?」


「なんだそれ?」


「誤解を受ける行動は慎めだってさ。」


「お前、そんな言葉どこで覚えた?」


「日本の本に出てたよ。」


「お前、すげえな。」


「すごいでしょ。」


 神田親子の会話は兎も角として、公開牢は受刑者たちの一発逆転の場として継続して行く事になる。


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