第210話 行く末

 縛り上げられた俺と取り巻き達。女たちまで縛り上げられている。


 そこに女神の様に美しい女が近づいて来た。


「あなた達はどうして縛られたのか解ってる?」

 女神は女たちに話しかけているようだ。


「ふざけんじゃないよ!さっさとこの縄を解きな!あたしたちにゃこの地の貴族様が付いてるんだよ!あんた、ただじゃすまないからねっ!」


「クスクス。おぉ、怖い怖い。」


「舐めた態度取ってんじゃないよ!あんたなんかどうせ‥‥…」

 聞くに堪えない罵倒が続く。

 あいつ割と従順で大人しい奴だったのに。あんな人を罵倒する様な事を言うような女だったのかと新しい面を知ったが、黙って見てる訳にも行かないだろう。

 俺も加勢しようと口を開こうとしたが…


「あなた達の言ってる貴族様って、豚面の手下だった奴よね?」


「は?豚面様を呼び捨てなんて、不敬にも程がある!」

 ギャンギャンと女神さまへの罵倒は続く。


 女神様は他の女神様と溜息を付きながらも女たちに声を掛ける。

 先ほどの銀髪の女神様の次は金髪の女神様が話し出した。


 この金髪の女神様の方が胸も大きくて俺好みだ。

 胸の事を考えたら銀髪の女神様から睨まれた。その絶対0度の視線には思わずゾクゾクっと新しい扉を開きそうだ。


 金髪の女神様がとんでもない事を言い出したのを聞き流す訳には行かなかった。


「あの豚面は一族郎党と共に……」

 にやっと笑って言葉を濁した。


 なんだ?何を言おうとした?

「中途半端に止めんじゃないよ!オバサン!」


 女たちがまた騒ぎ出した。

 しかしあの禁句と思われる言葉を言った途端に、雰囲気が変わった。

 女たちは気付かないで騒ぎ続けている。

 それ以上続けると助かる命も助からないぞと、取り繕おうと思ったが、

 一瞬にして女たちが吹っ飛んだ。


「うるさいよ。」

 えっ?金銀の女神様は動いていない。

 動揺していると後ろから青い髪の女神様が登場した。

 どうやら氷魔法でぶっ飛ばされたらしい事は分かった。


 女たちは口から血を垂らして、頬が段々腫れあがって来る。

 足元には拳ほどの氷の球が落ちているので、これをぶつけられた様だ。


「ギャアギャアとうるさくてしょうがない。ゴブリンの方がまだ立場を弁えて大人しくしてるわ。」


 金髪の女神様が、

「サラ。ありがとね。いい加減イライラしてたから殺しちゃうトコだったよ。」


「ううん。トゥミがヤバそうだったんで、剣抜いたら返り血が酷いじゃん?」


 金と青の女神様が銀の女神様の方を向く。


「ふぅ。サラありがと。後一歩だったね。シャルも間に入ってくれなかったらとっくに首を飛ばしてたわ。」


 女神様たちが恐ろしい話をしている。

 そう言えば銀髪の女神様は剣を佩いているのに気付かなかった。


「豚面の話だったね。あなたたちは豚面に忠誠を誓ってるの?」

 金髪の女神様が女たちに問う。


 うっ。答えづらい質問だ。

 この状況で正直に答えたら、どうなるか分からない。さっきの女神様たちの言動を考えると命がヤバいか? 戦神と領主様たちが敵対してる話は聞いたことが無い。

 でもここまで戦神が来ているのに領主様たちが居ないのは不自然だ。


「あ~、今更取り繕っても分かってるからな。」


「ただ単に確認作業だったんだけどな。この女が騒ぎすぎてただで済まなくなっちまったよ。」


「「「「え?」」」」

 俺と女たちは何の話をしてるのか分からないで疑問の声を上げた。


 金の女神様は散々騒いでいた女の前に座って顎を掴んで話す。

「お前が騒ぎ立てたからお仲間は辛い目に合うようだよ?」


「知ってて騒いだんじゃないのか?」


「よっぽど仲間が嫌いだったんだね?」


「え?え?え?」

 女神様たちの問い掛けに俺たちは益々分からない。


 1番騒いでいた女は歯を食いしばっているが、目の前で女神さまたちが告げる。


「よく見とけよぉ。」

 ダンっ!と音がしたと思ったら、2番目に騒いでた女の右手の指が飛んだ。


 聞いた事の無い悲鳴が上がる。


「お前たちの全ての行いを喋ってもらうよぉ」


「こんな状況なのを分かってて騒いだんだよね?」


「楽しく歌って貰おうか。」



 一番騒いだ女には一切触らず、仲間たちが痛めつけられた。

 知ってる事を全て話してもそれは終わらない。


 今まで感じてた仲間への嫉妬や劣情や心の奥底に閉じ込めてた醜い自分も全てさらけ出して、泣いて懇願してそれは終了した。


 残ったのは周囲への恨みだけだった。

 途中途中で、何故こうなったかの確認が行われ、更に俺のリーダーの資質も人としての資質も問われた。


 俺は、最低最悪なリーダーで、人として生きていたらイケない生物だと言われた。

 周りの奴らも、善悪の判断から何もかもを人のせいにする気質でゴブリンの方がマシだと言われていた。

 女たちは貞操観念も無く、長い物に巻かれて自分の意思も無く、どうすればこんな気持ち悪い人格になるのか実験したいとまで言われていた。


 この国の状況も説明された。

 既に国としては破綻していて、一部の強欲な貴族により真面な村が搾取されて表面だけ保っていた。


 今回、全てが明るみに出て、真面にやって来て耐え忍んだ者たちはちゃんと見返りがあると。報われるという事だ。


 逆に俺たちの様な者たちはどうなるのか?


 ……殺されはしないらしい。

 ただ、俺たちの様に、誰がどんな行動を取って、どんな本質なのかを調べられて、処遇を決められるそうだ。


 あの、騒いでいた女。

 仲間で行動してる時は引っ込み思案で自分からは動こうとしない奴だった。

 パッとしない奴だし、人を罵倒するような事も見た事がねぇ。

 身体も貧弱だし、あんまり関わった事がねぇ女だった。

 あの時はブチ切れてあんなんなっちまったのかと、後になって考えてた。



 俺らの処遇が決まって、奴隷として出されるときにあの女を見た。

 キレイな服を着て髪もサラサラで、うっすらと化粧までして、今までとは考えられない位に綺麗になっていた。

 ドウイウコトだ?


 それを見た女どもが騒ぎ出した。

 あの裏切り者のせいで自分たちが辛い目に合ってるのに!!

 なんであの女だけその待遇なのかと、許せねぇ!と、大騒ぎした。


 そこに女神様たちが来て話してくれた。


「お前たちはこの娘をずいぶんと甚振って、更にこき使ってたそうじゃん?」


「食事どころか人の尊厳も奪うような事をやってたんだってねぇ。」


 そう言われて、女たちは黙った。

 確かに男達からは蔑まれていたし、女たちからはイジメられていた。

 自分たちの中での捌け口の様な奴で、何をされても抵抗しないお人形の様な奴だった。だからこそあの場で騒いだ事に違和感があったのだが。


「この娘はね、死ぬつもりだったんだよ。」


「あそこで騒げば真っ先に殺されるってね。」


「お前たちと居るのは死ぬほど辛い事だったのさ。」


「人をここまで追い詰めるお前たちは、絶対に許さないよ。」


 あの女は誰よりもキレイになって、銀髪の女神様に肩を抱えられて視界から消えていった。

 そして、残って居た金髪の女神さまは言った。


「私は、自分が残酷な性分をしてると思う。人に対して最悪な事が出来ると思う。でもね、あんた達のやって来た事はそんなあたしでも許せない。ここまで人として踏みにじられて生きなきゃならなかったなんて……残酷過ぎて……私は…お前たちは絶対に許せない。」


 そう、告げられた。



 女たちがどう思ったのかは分からない。

 ただ、それきり口を利かなくなった。

 そのまま分かれて、何処に行ったかは知らない。


 俺は、首輪を付けられて新しい街の城壁を作っている。

 許せないと言った女神さまの表情と、あの女の顔をちょっと思い出す。

 名前すら憶えていない俺は最悪だと思った。


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