第209話 村の悪童
海岸線を順調に移動中に盗賊に会った。
スティングとエリザベスに対応を任せて見たが、周辺の状況はやはりかなり悪い事が見て取れた。
状況を見るために村まで案内して貰うが、途中でかなり脅していたせいもあって、彼らは村ごと皆殺しに合うと考えている様だ。
この世界ではよくある事なのかも知れないが、そんな事をするつもりは無い。
村で現状を聞くつもりなのだが、別の問題も在りそうで黙って案内させる事にした。
村で話を聞くに、強盗の首謀者は村長の息子。
こいつはまだ考える力があり、善悪の判断も真面な人間だと言う。
今回の事も、村人たちが窮して食えない事を嘆いて事に及んだと。
後先考える余力も無い様な状況だったとの事だ。
何故そこまで追い詰められたか?
それは一人息子がどうしようもない悪童で、力で女を如何こうする様な最悪の奴だったと。村として、取り巻き含めて何とかしようと考えていたが、此奴は領主に取り入って村の女を斡旋していたらしい。
領主が絡むと誰も何も言えない。
奴はやりたい放題だったが、村の村長と顔役には表面上逆らえない。ましてや父親が顔役では叱責されても表立って逆らえないので鬱屈していた様だ。
そんな時に食料回収の方法として馬車から食料を借りれる様お願いする(襲う)方法を此奴は提案する。
そして顔役自ら出張る様に皆を誘導するのである。
そんな事に賛同してしまう位に逼迫した状況であった。
そして、作戦は決行される。
実行者は村の実力者ばかり。万が一失敗しても彼らが居なくなれば自分たちが村を支配できると思っていた。
若い仲間4人と見目の良い女数人。これで村を支配出来ると疑わなかった。
「帰って来たぞ!」
そんな村の火の見櫓からの言葉にこれで俺が支配者だと思っていた。
実際は、お貴族様が村の顔役たちを従えて粛々とやって来た。
お貴族様たちを見ると自分が懇意にしていた貴族よりも明らかに高位の貴族と思える。
村に入ると直ぐに長老たちが集まって命乞いをするが、まるで聞く耳持たず村人は集められた。
これはヤバいと思ったが、この状況で逃げ出したら間違いなく命は無い。
あの筋肉の護衛と美丈夫は只物では無いのは俺でも分かると取り巻き達に言うと、奴らは項垂れて、大人しくして逃げ出せる状況を見極めるという話になった。
女たちは、美丈夫と他の見目好い男たちを見て盛り上がっていた。
こいつら許せねえとも思ったが、先ずは自分の命だ。他の事はそれから考えよう。
その後の話し合いで奇跡的に村は存続できそうな予感がする。
あの貴族は戦神だった。隣国であるルバン王国であっという間に辺境伯になった男で迷宮魔女の森の中にある村で長に納まる勇者だ。
正に戦神。牙猿も魔狼も従えて、ルバン王国を取ろうと思えば何時でも取れると評判の人間だった。
決して楽観的なつもりはなく、自分たちも上がれる余裕があると思っていた。
……裁判が始まるまでは。
「皆、済まなかった。」
「「「「「………」」」」」
「皆の為と思って食料を確保しようと思った…しかし、悪い事は御天様は見てる様だ。だからワシらは罰せられる。」
皆黙って聞いてくれる。
「しかも、襲った相手がルバン王国、カンダ辺境伯様だった。」
溜息が聞こえる。そりゃそうだろう。
この国にも聞こえてくる救国の戦神。そんな相手に強盗を働いたのだ。
「ワシらは償いをせにゃならん!だから、後を継ぐ者を決めたいと思う。」
カンダ辺境伯様は黙って見ててくれる。
ここは俺一択だろうと考えていた。
「ワシは、後継ぎには全員で決めて欲しい!」
「な、何を言い出すんだ!?ボケたか糞おやじ!?」
予想外の言葉に思わず声を上げてしまった。
「ワシはボケてはおらん。皆で決めた事だ。」
「そんな筈ねぇだろ!?次の顔役は俺が継ぐ筈だ!そんなの判り切ってただろ!」
「何が判ってたのかワシには分からんな。」
「そりゃお前がボケてるからだろぅが!」
「はぁ~… 馬鹿とは思ってたがここまでとは…」
「なんだそりゃ!?いくらオヤジでもタダじゃ済まさねぇぞ!?」
「ほう?タダじゃ済まさないと?どうすると言うんじゃ?」
「な、なんだと!?」
「どうするのか聞いてるんじゃ?」
「っ……」
思いがけない言葉と突っ込みに自分も詰まってしまう。
「後を継ぎたいのはお前と取り巻き達で間違いねぇか?」
「お、おぅ。当たりめぇだ俺らはこの村を守ってやるんだからよ。」
元からの話を継続するように俺は村の守護を司ると胸を張る。
「お貴族様。申し上げます。」
「心は決まったか?」
「はい。このやり取りを聞いて頂いて分かると思いますが、この男は何も状況を理解出来ていない上に自分の私利私欲しか考えていないのが明らかでございます。こんな男を残していたらこの先、村の者たちを脅かすのは明らか。でしたら私の最後の償いとして、一緒に冥途へ連れて行ってやろうと思います。どうかお聞き届け下さい。」
「そうか。他の者はどうだ?ソンカクの言葉に異議のある者は申し立ててみよ?また賛同する者も、共犯者も含めて伝えて見よ。悪い様にはせん。思ったまま申し立てて見るが良い。」
「なっ!?」
俺は村の者にあっという間に縛り上げられた。
取り巻きの4人も同様に縛られていて、彼らはもう諦めて泣きが入っていた。
意外に思ったのが、取り巻きの女たちも縛り上げられていた。
女は使い道が有るので、後から娼館などに売られるのが常だが一緒に縛られるのが腑に落ちなかった。
まぁ、この後、貴族同士の交渉で色々と裏を握っている俺は釈放されるのがわかっているから、全然焦っていなかった。
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