第208話 村人たち

 お貴族様と筋骨隆々の男と、美形の偉丈夫。

 まさか、あの噂の牙猿?と…まさか?魔狼?…まさかな?でも、それどころじゃない。何とか家族だけでも生き残れる様にお願いせねば。


 連れられて村に戻る。


 全員、終わった顔をしていて生気が無い。

 こんな、村全員が皆殺しになるなんて。


 今日の糧が何とかなれば良いと思った。

 商人から恵んで貰えれば食い繋げると考えてた。

 それが、お貴族様で牙猿?や魔狼?まで連れてるなんて誰が予想出来る……


 ちょっと待てよ、牙猿?魔狼?さっきはまさかと思ったが。

 それって?…一縷の望みが有るかも知れない。


「ここがお前たちの村か?」


「は、はい。」


「良し。全員集めろ。」


「お、お貴族様。勘弁して下さい。儂らの首で何とか許してください。」


「ん?何言ってんだ?早く全員集めろ。」


「あぁ~……」「終わった…」「母ちゃん…」



「もう~!真悟人?意地悪しないの!」


「そうだな。お前たち。悪いようにはしないから皆を集めろ。決して罰したり命を脅かしたりしないから安心しろ。」


「はぁ…」

 盗賊の面々は死んだ表情のまま村に散らばって行った。


 村は半場朽ち果てていて、何とか雨風が凌げるかどうかという位に荒れていた。

 そんな中から少なくない村人が集まりだした。

 こんな朽ちた村なのに100人近くの人が集まってくる。


 殆どが老人と女性と少しの子供。

 全員が痩せ衰えていて、全てを諦めた顔をしている。

 煤けて骨ばった顔には表情は無い。


 そんな中から老人たちが進み出て来た。


「お貴族様。儂らの村の者が不敬を働いたとの事。奴らは全て村の事を思い先走ってしまったんです。ここに集まった儂らの命でお詫び申し上げます。

 老い先短い者たちですが、どうかこれで勘弁して頂けませんか?

 まだ先の有る者たちは、これからもお貴族様のお役にも立てましょう。

 どうか、どうかお願い致しまする。」


 涙ながらに十数人の老人たちが地面に膝を着き、頭を下げて村の者たちの命乞いをする。

 俺はこんなのが見たかった訳じゃない。

 ちょっとだけ盗賊モドキ達を懲らしめてやろうと思ったんだ。


 土下座して頭を下げている老人たちの前に跪いて語り掛ける。


「ご老人、頭を上げて下さい。皆さんも頭を上げて下さい。

 私はあなたたちを害したりしません。大変な誤解を与えた事をお詫びいたします。」


 老人たちを立たせてトゥミ達を呼ぶ。


「見れば皆さん満足な食事も取られていないご様子。私たちが食事を準備いたします。その間に盗賊の真似事を行った者たちへの罰を考えて下さい。」


 きょとんとした顔をした老人たちは何を言われているのか理解できなかった様だが、理解するにつれ段々と笑顔が戻って来た。

 こちらの意図が伝わったようだ。


「あい分かり申した。ご迷惑をお掛けした悪戯坊主たちにお灸を据えてやりましょう。」


「はい。よろしくお願いします。それで手打ちとしましょう。」


「ありがたいお言葉。私はこの村の村長をやっておりました。イカクと申します。」


「私はルバン王国にて辺境伯の位を預かっている神田真悟人と申します。」


「カ、カンダ辺境伯…様……ガ、牙狼戦隊の…戦神様!!」


 バタバタと全員が跪いた。今度は平伏では無く、跪いている。

 戦神?誰の事だ??


 ~~~~~~~~~~~~


「私たちは貧しい村人です。浅はかな考えの下、ご迷惑をお掛けした責任は私に有ります。私は村長イカクの息子で顔役をやっておりますソンカクと申します。」


 俺らの家族、村の構成なんかを全部聞かれて、もう、どうもならない事が分かった。

 村長たち長老にお願いして村人全員を集めて貰った。

 意外とあっさり集めてくれて、集まった皆の前で謝罪をする。


「皆、済まなかった。」


「「「「「………」」」」」


「皆の為と思って食料を確保しようと思った…しかし、悪い事は御天様は見てる様だ。だからワシらは罰せられる。」

 皆黙って聞いてくれる。


「しかも、襲った相手がルバン王国、カンダ辺境伯様だった。」

 溜息が聞こえる。そりゃそうだろう。

 この国にも聞こえてくる救国の戦神。そんな相手に強盗を働いたのだ。


「ワシらは償いをせにゃならん!だから、後を継ぐ者を決めたいと思う。」

 皆、黙って聞いてくれていた。

 正直言ってワシの息子は決して出来の良い息子ではない。

 権力で女を如何こうするような最低な奴に育ってしまった。

 だからこそ、ここで奴を何とかしなければこの村は終わってしまう。


 カンダ辺境伯様は黙って見ててくれる。

 ワシはここに掛けようと思う。


「ワシは、後継ぎには全員で決めて欲しい!」


「な、何を言い出すんだ!?ボケたか糞おやじ!?」

 馬鹿な息子はいきなり声をあげたが、皆の衆は冷静に見守ってくれる。


「ワシはボケてはおらん。皆で決めた事だ。」


「そんな筈ねぇだろ!?次の顔役は俺が継ぐ筈だ!そんなの判り切ってただろ!」


「何が判ってたのかワシには分からんな。」


「そりゃお前がボケてるからだろぅが!」


「はぁ~… 馬鹿とは思ってたがここまでとは…」


「なんだそりゃ!?いくらオヤジでもタダじゃ済まさねぇぞ!?」


「ほう?タダじゃ済まさないと?どうすると言うんじゃ?」


「な、なんだと!?」


「どうするのか聞いてるんじゃ?」


「っ……」


 バカ息子と取り巻き達が息巻いているのを冷めた目で見る。

 この状況も理解出来ていないとは、本当に見下げ果てた奴だ。


 自分の親が食料の為とは言え強盗まで働いた。

 それも相手はお貴族様で生殺与奪の権利を握られている。

 これがカンダ辺境伯様で無ければとっくに全員皆殺しで女は売りに出されるだろう。


 そんな中で強盗の頭をしてた親に後継ぎの権利を主張するとは、こいつも一緒にあの世に連れて行った方が良いかも知れねえな。


「後を継ぎたいのはお前と取り巻き達で間違いねぇか?」


「お、おぅ。当たりめぇだ俺らはこの村を守ってやるんだからよ。」


 下卑た笑いを漏らすバカ息子と取り巻きの4人。

 取り巻き達の親たちと顔を合わせて互いに頷く。皆、気持ちはわかってくれた様だ。

 村人たちは一様に難しい顔をしている。


「お貴族様。申し上げます。」


「心は決まったか?」

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